第十二話 その眼差しの先に
第十二話 その眼差しの先に
――魔界のはずれ――
ううぅ……
苦しい……脂肪……脂肪の塊が……
脂肪の塊に潰される……!!
はっ!
……んん……
なーんだ、レイリーの脂肪の塊かー
…………。
これは胸です、サリー
うっ。起きてたの、レイリー
今起きました
そ、そっか! 無事で何より!
ええ。怒ってる場合じゃないのでスルーしますけど、まさかここは――
……魔界、だろーね。少なくともアタシの部屋じゃない
試しに門を開いてみるだけのつもりだったのに、まさか魔界に入ってしまうなんて……
サニーもレイリーも当然のごとく魔界になど来たことはなかったが、取り巻く空気を感じるだけでここが魔界だとすぐにわかる。
空は暗黒で、唯一ぼんやりと赤い月のようなものが光る。
そのわずかな明かりで二人はお互いを確認している状態だった。
暗くてよくわかりませんね。とにかく灯りを
そこはさすがの優等生レイリー。簡単に小さな光の球を作り、手の平の上に浮かせて見せた。
ぼんやりと明かりに照らされた地面は赤黒く、岩肌が広がっている。
離れた場所には林らしき黒い影が見えるが、目をこらしても詳しいことはわからなかった。
生ぬるい空気に悪寒を感じ、レイリーはぶるりと身震いをする。
……人気はありませんが、なんの準備もなく探索するのは危険ですね。
戻りましょう、サリー
うん。えっと、門は――
門は……
…………どこ?
お、おかしいですね。ここに出たってことは、すぐ近くに門があるはずなんですけど
や、見当たらないよ?
なんででしょう……手順が正しくないから……?
疑問が残りますが、もう一度門を開く呪文を唱えましょう。
そうすれば帰れるはずですから
そうだね。呪文を書いたノート――
……ん?
……何ごそごそしてるんですか?
いや、えっと。あのさぁ……レイリー、呪文覚えてたりしない? よね?
あんな長い呪文、さすがに覚えきれませんよ。
――ノートは?
……あのさぁ……アタシのノート、レイリーが持ってたりしない? よね??
まさか
はいそのまさかです
ないんですか、ノート!? どこかに落ちてたりしませんかっ!!
慌てて二人は地面に這いつくばってノートを探し始める。
しかし結果は同じだった。
の、ノートがなかったら……どうするんですか……
いやぁ……どうしようね……
どうしようじゃないですよ! 戻れないじゃないですかぁ……!!
参ったねーはっはっは
あまりの出来事に各々が泣いたり笑ったりと忙しい。
けれどその声に惹かれるようにして、また近づいてくる影があった。
ギギギ――
ゆっくりと、騒ぎ立てる二人へと近づく。
上半身を振り子のようにゆらゆらさせながら歩み寄り、あるところでよろめき立ち止まった。
レイリーの光の球が眩しく、ためらったのだ。
ギ……
うん? 何、今の音
え……?
そして二人はようやく影に気が付く。
光の届く範囲まで接近を許したせいで、その姿がハッキリと目に映る。
ギィイ
半分人間、半分爬虫類。そんな風な容貌だった。
背格好こそ人間のようだが、その身体はびっしりと鱗で覆われている。
頭も蛇のような作りをしていて、その口から人の言葉が出ないのは当然のように思えた。
ひっ!
あー……さっそく悪魔に出会っちゃったか。
あの、すみません。アタシたち間違って魔界に来ちゃったみたいなんだけどー
ところがそれに怯むことなく、サニーはいつもの調子で尋ねる。
ギギギ……!
言葉って喋れます? アタシの言ってることわかる?
さ、サリー……! 相手は契約を結んで召喚した悪魔とは違うんですよ!?
それもこの様子じゃ、人と意思疎通できない下位の悪魔です!
じゃあ話って通じない? っていうかもしかして
グワァア!!
食べられちゃいますよぉお!!
わあああぁっ!?