――キルケー魔法女学園 学生寮 サニーの部屋――
――キルケー魔法女学園 学生寮 サニーの部屋――
寮の部屋に戻り、駆け込むようにイスに座ってキルケーから借りた本を開く。
む、難しい……
知らない単語が多い。
明らかに上級者向けで、説明の多くが省かれている。
落ちこぼれ見習い魔女のサニーには読むことさえ難しい。
うわぁ……どうしよう……
三章にわかれてて、一章が基礎知識……?
二章が実践……三章が……?? あ~もうわかんない!
頭を抱えて机上に倒れ込む。
が、すぐに顔を上げる。
でもあの学園長がアタシに貸してくれたんだもん。
あきらめちゃダメだ……!
いつも使っている教科書や辞書をあれこれ引っ張り出してくる。
滅多に使わないノートを引っ張り出して、メモを取りながら読み解いていく。
魔界について……現世と魔界を繋ぐ、穴――門……?
そうして小一時間も経っただろうか。
すっかり部屋の中も暗くなってしまったが、それと気付かずにサニーは机にかじりついている。
そんな時、ドアがコンコンと鳴った。
サリー、いますか?
サニーが答えずにいると、レイリーが部屋の中に入ってくる。
そして呆れながら部屋の電気を点けた。
暗い中で何やってるんですか。電気くらい点けないと……サリー?
…………
何を読んでるんですか? 魔法書?
うわっ!? レイリー、いつの間に!
いつの間にって……ちゃんと声をかけて入りましたよ
ご、ごめん。集中してたから気付かなくって
……また何か召喚するつもりですか?
ここのところ静かでしたから、あきらめたのかと思いましたけど
あきらめるつもりはないよ。
アタシは、絶対に
…………。
サリー、あのですね――
……ねぇレイリー。
アタシずっと勇気が出なくて、みんなに言わなかったことがあるんだ
? なんですか?
アタシが悪魔の召喚にこだわるのはね。小さい頃、悪魔に助けられたことがあるからなの。
その悪魔にもう一度会うために、こうやって難しい魔法に何度も挑戦してきた
…………
今度こそ、みんなに迷惑かけないようにとは思ってる。
いつもレイリーには特別迷惑かけてるし……。
でもアタシ、先延ばしにして機会を逃したくないんだよ。
落第して魔女にもなれない可能性だってあるしね
いつになく真剣なサニーの口ぶりに、レイリーは無言になる。
そしてしばらくの沈黙の後、目を細めて言った。
なんでもっと早く言ってくれないんですか。
魔法は失敗を怖れず使い放題なのに、大切なことを友達に話す勇気は出なかったんですか?
だって、友達だからさ。
嘘だってバカにされたらって思うじゃない
……ふふ。肝心なところは小心者なんですね
……じゃ、バカにしないの?
するわけないじゃないですか。
でも危険な魔法は別ですよ?
理由があって、ちゃんと反省してたとしても、やっぱり他人を巻き込むのはよくないです
うん――……あ、そうだ!!
え?
レイリー、この魔法書の解読手伝ってくれない!?
アタシじゃ全然意味がわかんなくってさ……
でもレイリーならきっと読めると思うんだよね!
へ??
無茶な召喚はしないよ。
レイリーがやめろって言うなら、途中でも必ずやめる。
だから……読むのだけでも手伝ってくれないかな?
せっかくチャンスを手に入れたんだもん
サリー……
――もうっ、最初からそう言ってくれればいいのに!
ちゃんと正しい手順を踏めば、トラブルにはならないはずなんですからね。
手伝いますよ、いくらでも
さっすが! ありがとうレイリー
それで、どこまで読んだんですか?
今ここ
……1ページ目じゃないですか
うん
しかもここ! この部分は授業で習った文面とほぼ同じじゃないですか。
覚えてないんですか!?
ご、ごめん覚えてない……
そうしてレイリーの指導と解読が始まる。
みるみるうちに魔法書の内容が明らかになり、メモを取っていたノートが文字で埋まっていく。
レイリーに怒られながらも、今ようやくサニーは自らが目標としていたところへ一歩近づいた気がしていた。