第十一話 あきらめたくない
第十一話 あきらめたくない
――キルケー魔法女学園 教室棟 黒組教室――
……あれ?
授業が終わり、教室の中を見渡すレイリー。
しかしそこに捜していた人影はなかった。
どうかしましたか、レイリー
サリーと一緒に帰ろうと思ったんですけど。先に帰っちゃったんでしょうか?
サリーなら、授業が終わってすぐ出て行っちゃったよ……本をいっぱい抱えて
本?
そういえば最近どこか様子が変ですわね。上の空というか
授業中、上の空なのはいつものことですけど
いつものことだね……
そうですわね……
…………
…………はっ!
ダメですね、毎回サリーが大人しいならそれにこしたことはないと考えてしまって。
本来なら友人として、サリーを心配したほうがいいんでしょうけど
わかる……
わかりますわ……
サニーの様子がいつもと違う。
そうは思いながらも、友人たちの会話はそこで終了したのだった。
――キルケー魔法女学園 図書館――
そしてそのころ、当の本人は。
……やっぱり、ここじゃ見当たらない……
図書館の書棚を見渡して大きなため息をついていた。
端から端まで魔法書を見て、読んだことのない本は一応目を通してみたけど
違うんだよね、ともう一度ため息。
勉強は得意じゃないし、本を読んでいると眠くなる。
魔法を使えば失敗ばかりで、この学園に入学できたのも奇跡としか言いようがない。
そんなサニーだったが、この図書館の書棚のどこにどんな魔法書が並んでいるかはだいたい覚えてしまった。
そのくらい、通い詰めた。
でも、見つからない……
暗い表情のまま、サニーは図書館を後にする。
――キルケー魔法女学園 中庭――
目的を果たしたければ、魔女になればいい。
それに、魔法女学園に入ればきっと手がかりはあるはず。
そう思い続けて今まで頑張ってきた。
けれどいつまで経っても前に進んだ気がしない。それどころか進級も危ぶまれると言われる始末だ。
このままでは魔女見習いになった意味がない。
焦ったってしょーがないのはわかってるけど
退学になったらもう……調べることだってできないし
ぐるぐると頭の中を暗い考えばかりが回っている。
寮に帰る気分にもなれず、サニーは学園の中庭を一人歩いていた。
もー……。
なんだか、疲れちゃったな
独白しながら芝生の上に寝転がる。
元気と情熱が取り柄のサニーだったが、ここ数日はその取り柄もなりをひそめていた。
正確に言うと、学外研修から帰ってきてから。
さらに正確に言うと、キルケーの書斎であの魔法書を見てからだ。
……そうだよ、あの魔法書を手に入れることができれば
そうしたら、こんなに悩むこともなかったのに……
しかし書斎はよりによってあのキルケーのものだ。
学園長であると同時に、最高位にあたる魔女だ。
そのキルケーが読むなというなら、読めるわけがない。
手の届くところにあったのに……
あれさえ読むことができれば、自分の目的の手がかりが手に入る。
ずっと探し求めていたヒントがあそこにあった。
けれど目前でお預けを食らってしまって、サニーは焦っていたのだった。
ううう~~
ゴロゴロと芝生の上を転がる。
草まみれになりながら唸っていると、ふいに薔薇の香りがした。
ん?
草のベッドがお好みなのかしら。
それともそれは控えめな除草作業?
……!!
まさか。
その人のことばかり考えていたからだというわけではないだろうけど。
慌てて起き上がったサニーに笑いかけたのは、最高位の魔女――キルケーだった。