レイリー

サリー! キルケー学園長ですよ、ちゃんとして!!

サニー

えー? こんな人だったっけ?

サニー

そういやアタシ、入学式の時居眠りしててよく見てなかった――

エマニュエル

サリー!? もういいですから、黙って!

キルケー

ふふふ。いいのよ、かしこまらなくても。
私も貴方たちにいっぱいイタズラをしちゃった

チズ

イタズラ?

キルケー

ごめんなさいね。
学園だと先生方にあれこれ言われちゃうから、
なるべく皆さんにちょっかいをかけないようにしてるんだけど……。
その反動が来ちゃったって感じかしら?

ナタリア

じゃあ、幽霊の正体は……もしかして……?

キルケー

幽霊? そんな風に思われてたのね。ふふふ、面白い

キルケー魔法女学園の学園長にして、圧倒的な力を誇る伝説の魔女。

まだ入学してさほど月日の経ってないサニーたちは、
入学の挨拶でしか学園長を見た記憶がない。

しかし改めてこうして顔を合わせるとその稀なる人物像がよく伝わってくる。




太陽の光を浴びて宝石のごとく輝く美しさ。

揺れる艶やかな髪の間からのぞく、柔和な表情。

こぼれ落ちそうな瞳は、瞬きするたびに心まで見透かされそう。そんな視線をこちらへ投げる。




彼女が『歴史上もっとも美しい魔女』と称されるのも当然だと、その場にいる全員が思った。

レイリー

……そっか、そういうことだったんですね。
どうりで聞き覚えのある声だと思いました……。

レイリー

でも、どうしてこちらにいらっしゃったのですか?

キルケー

暇だったから、たまには昔の家に帰ろうと思ってついてきちゃった。
私がいるからいいだろうと思って管理の人にお休みをあげたんだけど、
そのせいでアンとイザベラには余計な心労をかけたみたいね

チズ

では、施設管理者は亡くなった訳では――

キルケー

なぁにそれ? 勝手に殺しちゃダメよ。
今頃、久々のお休みで羽を伸ばしてると思うわ

ヴェロニカ

な~んだ。幽霊も行方不明者もいないのね

エマニュエル

学園長のお宅だったということであれば、あの不思議な仕掛けにも納得ですわ……

キルケー

あら何か見ちゃった?
昔遊びでかけた魔法がまだ解けてないみたいね。
試しに作った魔法道具もその辺に転がってると思うし、迂闊に触らないようにね

エマニュエル

少々遅かったようですわ……

キルケー

あらあら

一同の質問に答えながら、キルケーは何度も朗らかに笑う。

学園長という身分からとっつきにくいイメージを抱いていたが、
これまでの会話からすっかり皆キルケーに魅了され、緊張はどこかへ行ってしまった。

キルケー

そこの書棚にしても同じよ。
好奇心いっぱいなのはいいことだけど、ここの魔法書は立ち読み禁止

サニー

あ……

これまでぼんやりと会話を眺めていたサニーがようやく口を開く。

あの本を見たかったとばかりにキルケーと書棚を交互に見やったが、
さすがに偉大なる魔女を前に怖じ気づいたのか、口は開いても声が出てこない。

レイリー

勝手に書斎にお邪魔してすみませんでした

キルケー

いいえ。私も若い頃ならそうしてたと思うわ。
――さて、私こそちゃんと謝りに行かないとね。さっきアンをびっくりさせちゃったから

レイリー

アン先生、ですか?

キルケー

ええ。ちゃんと挨拶してなかったことを思い出して部屋に行ったんだけど、
私の姿を見るなり気を失っちゃって

エマニュエル

どうしてそんな……

キルケー

驚かせようと思ってゾンビに変身してたのがよくなかったかしらね?

ナタリア

それは…………驚きますね……

なんともイタズラ好きなキルケーの一面がうかがえるひとときとなった。

でもそれは魔女に憧れて魔女見習いになった彼女たちには嬉々たる時間で、
その微笑を見ているだけで幽霊騒ぎもすべて忘れることができた。
魔法を一切使わずとも、キルケーはそのように人を虜にする力があった。
本当に幸せな時間だったと、皆が後から語るくらいには。




しかし、一人だけ心残りを見せた生徒がいる。

寮に戻ってからも彼女だけはキルケーの魅力以外のことを語った。


――サニー・ウィッチは、キルケーの書斎で見た魔法書のことをずっと忘れられずにいるようだった。

10-4|古き洋館の息遣い・後編【6/1更新】

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