美しいステンドグラスの下。
一行は、怒涛のように押し寄せるバケモノを駆逐し終えた。
疲労困憊のクロノは、腰を抜かしていた。
はぁ……はぁ……
バケモノは……暗黒に……帰れ……
美しいステンドグラスの下。
一行は、怒涛のように押し寄せるバケモノを駆逐し終えた。
疲労困憊のクロノは、腰を抜かしていた。
いってえ……
何でお前まで俺を殺そうとするんだよ……
あぁそうだよ何度でも蘇るよ!
某天空のお城みたいにさぁ!
だけどねぇ、死ぬたびに痛いんだぞ!
俺のことをなんだと思っているんだ!
餌と玩具
ごはん!
……
的?
絶望したァーっ!!
鳥が何か言って倒れた。
猫たちに存在をディスられていたらしい。
心が死んだ。
トニカク、ハヤクツギニイキマショウ
だな
雑魚の始末で結構時間を食っちまった
行くぜ、次の部屋目指して
ああ、そうしよう
そだね
ロボとうさぎに先導され、死屍累々を乗り越えて彼女達は次なる目的地に向かう。
そこには今までにない強大な悪意が待ち構えていた!
フハハハハハッ!!
よく来たな侵入者!
我が名は中ボスッ!
このフロアを管理するモノだ!
……なんか、いた。
喋っている。ブタの生物兵器?
にしては、ファンタジーみたいに見えるが……。
出た場所は今度は祭壇らしき場所。
うって変わって明るい場所で、仁王立ちするブタ。
豪快に笑って、穏やかじゃない空気を出す。
ボスはブタのバケモノってわけね
いいわ、ぶち殺してあげる
殺すッ!!
ぶわりと愉しそうに殺意を身に纏うダブルキャット。
うさぎとロボはマイペースに中ボスをスルーして物色開始。
スリッポンと紅茶は休憩に持参したお菓子を食べている。
えっ?
フェネクス、変身できるんですか?
一応な
これでもソロモン72柱の悪魔だ
本気出したら俺つえーぜ?
因みに悪魔憑きの技術の中には、憑依するみたいな要領で、自分の身に悪魔を宿す禁術もある
興味がありますね
さっきお前がやっていたあのまじないもその一種
悪魔憑きが使う初歩的な禁術だ
やろうと思えばお前はもうできるぞ?
一度でも足を踏み入れれば、強制的に身体が悪魔に取り憑かれやすいように書き換えられる
なんとっ!?
フェネクスとすっかり打ち解けたツッコミは、禁術に興味津々。
中ボスの登場すら気付いていない。
無視すンなやッ!!
キレる中ボス。
得物の棍棒を振り回して抗議する。
うっさいこの豚野郎
豚キムチにして喰ってやる
とんこつラーメンにしてやる
やたら好戦的なダブルキャットはまだいいとして。
他のメンツはまだ無いものとして扱っている。
テメェらこの俺様を舐めているのか!?
中ボスだぞ、中ボス!
今までの雑魚とは比べ物にならないくらい強いんだぞ!?
はぁ?
中ボスなんて所詮体力あるだけの雑魚敵じゃない
うちもそーおもうね
経験値多めにくれるだけでしょ?
違うん?
失礼極まりない発言を繰り返す彼女達に、中ボスは。
……しばくぞ?
やってみなさいよ
返り討ちにしてあげるね!
あくまで強気のダブルキャット。
他の人が関わってきてくれないので。
取り敢えず、バトルを開始してみた。
うっし、勝った
うにゃぁ……
まーけーたー!!
あっさり勝った、中ボスが。
ダブルキャットは床に転がる。
頭に湯気を上げる大きなたんこぶが出来ている以外に傷はなさそう。
成程、では某あの人みたいに『それでも!』とかくどいほど叫んでいるとわたしも強くなれるんですね?
まあな
その代わり一定時間、理性と記憶が無くなるぞ
覚えておけ
了解です
話し合いを終えて、鳥とツッコミが今頃彼に気付いた。
中ボスも彼女達が終えたのことに気付く。
……誰です?
どうも、中ボスといいます
ここでフロアボスしてます
そうですか
わたしたちは侵入者です
物件探索の為不法に侵入しています
そうですか、お疲れ様です
ならぶっ潰されても構いませんね?
構いません
こちらも押し通るだけなので
了解です
では、始めましょうか
はいっ!
……妙な戦闘前会話をして。
信じます
今自分が成すべきだと思ったことを
悪いことだってこともわかります
それでもっ……!
わたしの声に応えろ、フェネクスッ!
いいだろう、もう一人の主
その想いに応えてやる
キッケェェーー!!
なんですとぉ!?
どーやら禁術の魅力に呑み込まれて覚醒してしまったらしいクロノ。
見事、変身を遂げた!
だが然し、フェネクスと禁断の契約をした結果、フェネクスの悪魔としての根本にある、圧倒的悪意に飲み込まれてしまう。
理性と記憶が吹っ飛んで、中ボス以上のボスに成り下がってしまった。
キエェェェーーー!
蒼白く、仄暗い炎を嘴から漏らして、それを中ボス目掛けて勢い良く吐き出した。
うわっ、ちょ!?
あぶねえ!!
外れた攻撃が祭壇を破壊、酷い音を立ててガレキを作り上げる。
振り返り青ざめる中ボス。
あれを受けたら骨まで吹き飛ぶ。
あ、危ないわね……
もう少しで巻き込まれるところだったわ
思わず猫に戻っちゃった……
うちも元に戻っちゃったある……
一歩手前で慌てて回避していたダブルキャット。
人型を捨てて俊敏性を優先した結果、ケモノに戻ってしまっていた。
勝手に暴れまわる火の鳥を、放火後ティータイムをしていた二人と物色を終えたロボたちと共に話す。
なんかクロノさん、フェネクスと契約しちゃってるけどいいの?
フェネクス、スリッポンの悪魔でしょ?
だから、俺はスリ・ッポーだ
別に構わん
連中とは好きに契約していいと言ってあるしな
ソロモンの悪魔を使役できる人間は希少でな
俺以外は大抵、悪意に呑まれて人をやめる
が……新人の場合は恐らく平気だ
一度、先ほどやっているからな
あれは身体に悪魔などを降ろす禁術
系統は降霊術のひとつだ
いきなり一体化までやらかす素質のある人間を、俺は記憶にない
大した女だ、彼女は
もしや、俺と同じ同格のグリモワール……
『ホノリウス』かもしれないな
なにそれ?
本来は魔術書のひとつだ
正式名称は『ホノリウスの誓いの書』
多岐に渡る知識をひとつに収めた、非常に希少なグリモワールにあたる
俺達一流の悪魔憑きは『グリモワール』と呼ばれているが、これは魔道書に因んで名付けられている
同類の連中は全員同じだ
正確に俺個体が内包しているのはソロモンの小さな鍵こと『レメゲトン』
名の通り、悪魔を使役する魔道書だ
彼女もあれを見るからに、恐らくはグリモワールとしての才能がある
悪魔憑きとしては問題なく合格だ
まだ人の意識があるみたいだしな
悪魔や精霊を身に降ろす術に長けているようだな
ホノリウスの誓いの書には、その手の知識も豊富に書かれているという
アタエラレルトスレバ、ソノナトイウコトデスネ
意外な才能もあったもんだな
まさかSNSでのオフ会で二人目のグリモワールを見つけるとは
上の人間には俺から伝えておく
あれほどの逸材、見逃すには惜しい
程々にね
っていうかさっきのあれも似たようなもんだったんだ……
クロノにはスリッポンと似たような才能があったみたいである。
事実、今暴れて中ボスを丸焦げにしているのは彼女だ。
キェェエエェーー!
うぎゃああああーーーー!!
中ボスは形無しである。
何というか、合掌。
無事に生き残れることを祈る。