ドヤ顔で勝利宣言。
勝利したのは、フェネクスとクロノタッグだった。
奇妙な決めポーズをして、二人はカッコつけていた。
倒れた中ボスは、呆気なく焼豚にされてしまった。
あなたの敗因はたった一つです……中ボス
たった一つのシンプルな解答
お前は俺たちを融合させた
ぶひぃ……
ドヤ顔で勝利宣言。
勝利したのは、フェネクスとクロノタッグだった。
奇妙な決めポーズをして、二人はカッコつけていた。
倒れた中ボスは、呆気なく焼豚にされてしまった。
に、人間業とは思えないんだけど……
…………
ダブルキャットがクロノを見て畏怖していた。
自分たちが負けて相手を一方的に嬲っていた姿はまさに悪魔。
恐れ戦き震え上がる。
ん?
終わったか
オツカレサマデス
出来上がった無様な敗者を見下ろして、観戦者は呑気にクロノに声をかけた。
これで次のフロアにはいけるだろう。
まだまだ、奥はあると見ている。
不味そうな焼豚だね……
こいつどうする?
死んでないけど
ふむ……
バルバトスへの供物にでもしておくか
紅茶の言うとおり、痙攣しているのでまだ生きている。
死んでいないなら丁度いいと、スリッポンが容赦ない一言で、バルバトスを呼び出した。
……今度は何用か?
バルバトス、供物だ
持ち帰り他の連中に振舞ってやってくれ
迷惑そうな顔で喚び出されたバルバトス。
今度は何事かと問うと、主が褒美をくれるという。
見下ろせば、中々の代物だった。
……ほぉ
上物の豚ではないか
これを、我らに?
あぁ
肉を寄越せとあいつが喧しいだろう
くれてやれ
そういう事情なら有難く頂戴していこう
我が主よ、感謝する
ワイルドに頭を引っ掴んで、バルバトスはニヤリと口角を上げる。
何だか嬉しそうだった。
薄くなるシルエット。
掴まれた中ボスも一緒に消えていく。
やがて、完全に悪魔と豚は消失した。
アレって上物だったんだ……悪魔的に
あいつらは家畜の肉が好きでな
その中じゃあ、喋る豚は上物なのだろう
よく分からない価値観だが、喜ばれたので良し。
彼らは足を進め、次のエリアへと向かった。
地下牢……か
漸くそれらしくなっていたじゃねえか
そうですね
牢屋って言うと違和感はないです
彼女達が訪れていたのは、地下牢だった。
地下に進む階段を発見して今度はこっちだとみんなで決めて突き進む。
クロノのテンションも回復し、このメンツのあれこれもスルーできるようになっていた。
これでも一応戦時中の建物なんだよ?
そりゃあ発狂しちゃった科学者とか壊れた生物兵器入れるための牢屋くらいあるって
ですよねー
じゃなきゃここで創り出された兵器の管理はどうするんだって話ですよ
でしょでしょ?
ま、廃棄されて長いこと経つけどね
中にまだいるから気を付けてね
わざわざすいません案内してもらって
気にしないでいいよ
ここから先は行かせる気はないからさー
……ん?
お前誰だァッ!!
うおっ、重たッ!?
何時の間にか会話に加わっていたお前誰ださんに鋭いツッコミを入れるクロノ。
素手で横合いにいたそいつに裏拳を振るう。
受け止めた相手は生身相手の一撃に驚いていた。
そこだァッ!!
だが甘いッ!!
続く二撃目を防ぐ何か。
両手で手を掴み合い、力比べを開始していた。
見上げるとそいつもまた、巨大生物兵器だった。
クロノさーん、みんな行っちゃうよ
一体ここで何して……
でかッ!?
誰あんた!?
どうやら一行は先に行っていたらしい。
戻ってきてくれた紅茶が、ぎりぎりと競り合うクロノとそいつを発見して思わず叫ぶ。
相手は見上げるサイズの人型兵器。
誰あんた!? と言われたら
答えてあげるが世界の情け
地下牢の破壊を守るため!
地下牢の治安を守るため!
愛と理想の守護を貫く!
なんか名乗り始めた。
しかも聞いたことあるこの名乗り方。
だがこの一瞬、逃すわけにはいかない。
最後までは言わせないまま、
食らえッ!!
名乗っている相手に向かって躊躇いなく発砲する。
相手の頭に直撃し、しかし弾丸は弾かれた。
何という外骨格をしているのだろう。
あぶなっ!?
名乗ってる時に撃つ普通!?
不意打ちに怯む相手。
ツッコミを入れている暇があるのか。
愚かなやつめ、今は戦いの時だッ!!
はぁぁぁっ!!
うわっ、ちょ、やめて!?
話聞いて!?
相手の都合など無視。
銃連射、乱射、兎に角撃ちまくる。
あいつが倒れるまで、撃つのを、やめないッ!
背後では騒ぎに気がついてみんな戻ってきているけれどクロノは気付かない。
銃は効果なし……くそっ!
フェネクス!!
フェネクス、もう一回いけませんか!?
何度もやってたら身体が持たねえぞ!
俺以外にしておけ!
俺とやると消耗が著しいんだ!
小鳥曰くやりすぎると魔道に堕ちてやがては人間をやめてしまうらしいので、おすすめはしないというが、打破には必要。
自分以外でやれというのだが……。
誰とやれって言うんですか!
バルバトスですか!?
クロノが目の前の何かと睨み合いながら問うと、背後から声。
スリッポンだった。
おい新人
お前のことを気に入って手を貸してもいいという奴がいるが、どうする?
身に宿すのはお前だ、決めてくれ
ぜ、是非お願いしますッ!
ぬおおっ!
なんだかわからぬが、させないぞ!!
相手の攻撃が激化する。
連続パンチを何とか避けているクロノ。
尚、普通の人間の動体視力では裁くことは到底不能な速度で繰り出されている。
この時点でクロノ、魔道に堕ちかかっていた。
あたしたちは無理ね
爪も牙も通じない相手じゃ勝ち目ないわ
人間さんに任せましょ
りょーかーい!
ダブルキャットは戦線放棄。
うさぎとロボはまた見物。
紅茶が参戦しようとして、あの物理的に硬いモノには攻撃しようがないと分かって撤退した。
あいつ硬!
反則的に硬いよ!?
PSYのチカラで粉々にしようとしてもならない。
硬すぎるのだ、相手の体が。加勢できない中。
くっ!?
死ねえーーーー!!
クリティカルヒットを貰ってしまったクロノは吹っ飛ばされた。
紙切れのように舞い上がる少女の身体。
壁に叩きつけられて、沈黙した。
クロノさんっ!?
紅茶が駆け寄ると、口から大量の血を吐き出したクロノが倒れていた。
ぐったりしていて、動かない。
これは……本当に……。
おい、新人が死ぬぞ
いい加減にカッコつけていないで往け!
――あの子がそんな簡単に死ぬ?
――フェネクスを宿しておいて?
――それこそ有り得ないって!!
そう、その場にいる全員に聞こえる透き通った声。
女の子の高い声は、浮かび上がった魔法陣の中から響いていた。
祝詞はナシだ!!
往け、グラシャラボラスッ!!
言われなくても手を貸すよ!!
このグラシャラボラスがね!!
魔法陣から飛び出してきたのは……眼帯の少女。
華麗に着地し、直ぐ様跳躍。
なっ……!
退きなよッ!
敵に蹴り飛ばし、仰け反らせる。
そのまま、倒れていたクロノに……突貫した。
ほうける紅茶の目の前を通り過ぎる悪魔。
へっ?
悪魔がったーい!
悪魔が突撃してぶつかる。
一瞬、倒れていたクロノの身体が輝く。
目の錯覚のように刹那に消えて。
次の瞬間。
合体完了!!
誰あんたッ!?
ピンクの煙を出して、そこには平然と立っているオッドアイの女の子がいた。
誰でしょうこの人は。
えっ!?
なんでわたし別人になってるんです!?
なんでってそりゃこの僕、グラシャラボラスが手を貸しているからね
君のことは知っているよ、クロノ君
面白い子だね、自動契約おめでとう
わたし契約した覚えはありませんよ!?
説明した覚えもないし!
僕と契約して悪魔少女になってよ!
もうなってるけどね!
必要なことどころか手順もすっ飛ばして
ちょ、わたしの身体で何してるんです!
どこの害悪小動物の手法ですか!?
怒らない怒らない!
せっかく美少女になったんだ!
思いっきり暴れようか!!
話を聞けーーーー!!
どうやら自動的に契約からの合体、そして一体化。
クロノと悪魔は同じ身体を共有しているようだ。
一人芝居のようにぎゃあぎゃあ騒いでいる。
だからあいつを出すのは嫌だったんだ……
あのノリと勢いだけで生きている能天気め……
後悔したように、スリッポンは呟いていた。
とにもかくにも、クロノ新フォーム。
グラシャラクロノに変身したのだった。