洞窟の奥から姿を現したのは、
第2の試練の洞窟の審判者である
ウェンディだった。
彼女は無表情でミューリエを見据えている。
洞窟の奥から姿を現したのは、
第2の試練の洞窟の審判者である
ウェンディだった。
彼女は無表情でミューリエを見据えている。
立ち聞きとは趣味が悪いな?
どうやら本当に
勇者様のために
動いているようだね。
ふっ、当然だろう。
私はもはや魔王ではない。
しかも厳密には魔族でもない。
今の私はアレスのためだけに
動いている。
それがアレクとの約束だからな。
伝説の勇者アレク様との約束か。
だが、お前のせいで
アレク様は命を縮められた。
憎しみを含んだ責めるような口調――。
ウェンディは目を大きく見開いて
ミューリエを睨み付けていた。
するとミューリエは視線を逸らし、
顔を曇らせながらポツリと呟く。
……その件に関しては
何も申し開きができん。
だからこそ、
ヤツの子孫であるアレスには
私の全てを捧げる覚悟なのだ!
ミューリエは力ある言葉を放った。
だが、それを聞いたウェンディは
小さく鼻で笑う。
そうかい……。
それなら、
ここへ何をしに戻ってきた?
さてな?
だが、貴様なら
察しはついているのではないか?
……洞窟の奥で封じている魔族を
始末しに来たのだろう?
魔王時代の非情さは
変わっていないようだね。
ついさっき、
クレアから私は甘くなったと
言われたばかりなんだがな。
ニヤリと微笑んでみせるミューリエ。
それに対してウェンディは反応をしない。
むしろ少し呆れたような顔をして
小さくため息をつく。
確かに邪悪な意思で
動いているわけでは
ないみたいだけどね……。
だが、お前は勇者様の気持ちが
何も分かっていない。
勇者様の仲間として
ともに旅をする資格などない!
か細く弱々しい老体から発せられたとは
思えないほどの強い叫び声。
大きく見開かれた目には気迫が溢れている。
そんなウェンディの姿に
百戦錬磨のミューリエでさえも思わず怯んだ。
な、なんだと?
お前はアレク様との約束のために
アレス様と旅をしているそうだね?
それは本当の意味で
アレス様のために
旅をしているとは言えない。
っ!?
まだ心の奥底からアレス様を
認めているわけではない。
それがお前の本音だろう?
そ……それは……。
だ、だがっ、
全く認めていないわけではない!
動揺を見せ、歯切れの悪いミューリエに
ウェンディは追い打ちをかけるように
言葉を続ける。
仲間ならアレス様を
信じてやらなければ
ならないんじゃないのかい?
お前はアレス様の気持ちを
裏切ろうとしている。
どういう意味だ?
アレス様はあの魔族を助けた。
それを蔑ろにする気かい?
魔族がそう簡単に
心を許すわけがない!
だから私はっ――
……ならばなぜお前は
アレク様に心を開いた?
ウェンディはミューリエを睨み付けながら、
責めるような口調で言い放った。
その正鵠を射たような指摘に
ミューリエは勢いを完全に削がれてしまう。
そ、それは……。
アレス様は
いずれあの魔族が心を開き
自らの力になると
無意識のうちに感じている。
もしその芽のない相手なら、
倒すという行動に至るだろう。
本人にその自覚はないだろうがね。
アレク様もそうだったはずさ。
っ!
ミューリエはアレクのことを思い返してみて、
大きく息を呑んだ。
アレクの倒した相手が
彼の力になり得なかったかは不明だが、
助けた相手は確かに
全員が彼の力となっていたからだ。
もちろん、ミューリエ自身もそのひとりだ。
まさかとは思いつつも、
彼女の呼吸は大きく乱れて収まらない。
悪いことは言わない。
アレス様の力と感覚を信じて
あの魔族に手を出すのは
やめておくんだね。
それにアイツは封じられていて
身動きが取れないんだろう?
殺そうと思えば
いつでも殺せるじゃないか。
……分かった。
しばらく様子を見ることにしよう。
賢明な判断だね。
ついでだから
面白い話をしてやろう。
面白い話?
訝しむミューリエに対し、
ウェンディはニヤリと怪しく頬を緩めた。
次回へ続く!