漸く、話し合いができる。
そう思ったのに。
ここでまた、NOと示す人がいた。

浩太

……そもそも、なぜゲームをやる前提になってるんです?
誘拐犯の言うとおりにするつもりですか?

浩太

その前にまずやることがあるでしょう?
本当に出来ることはないのか
あらゆる可能性を探るべきではないんですか?

ぶつぶつと独り言を言っていた例の眼鏡だ。
名前なんだっけ、この人。
彼だけじゃない。まだ、いる。

恵介

俺も賛成だぜ

……チンピラ。
まだ出るつもりなのか。
死ぬという可能性を示唆されているのに。
この人、馬鹿なのだろうか?
でも、いいこと思いついた。
私含め一部は死にたくない。
でもついて行きたくない、議論を放棄している人がいる。
だったら。

……分かった
じゃあ好き勝手してていいよ

残った私達でどっちかを追放する
やりたくないなら、引っ込んでて

残り、あと45分。
殺す時間まで含めて一時間以内なのだ。きっと。
だから、猶予はそんなにない。
急げ、急がないと死ぬ。
余裕がないんだ。心にも、時間にも。
早く追放して、早く殺さないと。

浩太

随分と従うことにこだわるんですね
そういう貴方がその人狼とか何とかという奴なんじゃないですか?

……周りは、私と彼の言い合いに沈黙を選んだのか、黙る。
あのチンピラでさえ、陰険そうな目で私を見る彼を見て、舌打ちする。

ねえ、もう一回聞くよ?
死にたいの?

まともな反論できないくせに、一丁前に異論を唱えるのやめてくれない?
だったら納得できるように説明して
この機械、この状況
出来るから文句言うんでしょ?

その可能性とやらはもう確かめた
事実出られない
見張られている可能性大
時間無駄にして全員と心中するの?

私は嫌だよ
死ぬなら、全員で死んでやる
でも私は死ぬのも嫌だから、言うことを聞く
それの何がおかしいの?

私は筋を通した。
死にたくないから。
自分ではどうしようもないから、従う。
それの何がおかしい。

浩太

従うことなんてないんじゃないんですか?
こちらはまだ自由に動けるんですよ?
状況だって、まだ完全には……

……グチグチ、グチグチと。
屁理屈ばかりこねてくれる。
何が自由だ。何が完全だ。
そんなもの、与えられているのか私達に。
馬鹿らしい。見ればわかるだろう。

もういい、だったら死んで
みんなのために
私の為に

私はお話にならないとこの男を判断した。
面倒くさい。しゃらくさい。
従わない異分子なんて死んでしまえばいい。
苛立って、私はそいつに一票入れた。

浩太

はっ!?

驚いている。
だけど、これだっておかしいわけじゃない。
もう、こっちは追い詰められていて、細かいことを考える時間すら惜しい。
早く、死んで。邪魔くさい人は。

この人、話にならない……
付き合っていたら私まで死んじゃうよ……

死にたくない、死にたくない……
こいつでいい、こいつが死ねばいい!

お前が死ねッ!!

みっともなく喚いているのは分かっている。
でもこっちの許容範囲はとっくに限界に来ている。
最短で選ばないと、最短で終わらせないと。
死んじゃう。私が、死んじゃう!!

陽菜

ちょ、落ち着いて逆井さん!
大丈夫、取り敢えずまだ時間あるから!

神田さんが駆け寄って錯乱寸前の私を支えてくれた。
抱きしめられ、感じる体温。
後ろに見える時計の示す残りの残り時間が……5分減っている。
急がないと、急がないと……。

陽菜

こんなに怯えて……
逆井さんだって必死なんだよ

陽菜

従ってれば取り敢えず安全なんだよ?
何で反抗して寿命縮めるの?
妥協でいいんだよ、従えばいいんだよ……

陽菜

一番やばい状況で考えるのが利口なんじゃないの!?
頭良さそうにみえてやってることあんた単なる馬鹿じゃん!

神田さん、私に味方してくれている……?

浩太

貴方達は……ッ!!
じゃあ逆に聞きますけど!
貴方は従って人を殺すって言うんですか!?

陽菜

殺すよッ!!

神田さんの怒鳴り声に、私は我に帰る。
ハッキリと、神田さんは肯定した。
私と、同じ選択を。そして、彼に票を入れた。

陽菜

じゃなきゃ、最悪の場合は死ぬ……
あたしだって、逆井さんと同じ!
死にたくないから、殺すしかない

陽菜

まだドッキリだとかいうわけ!?
日本でこんなのあるわけないじゃん!

陽菜

いい加減認めて!!
これが現実なの!!

彼女も私と同じで、震えている。
本当は、私達だってやりたくない。
でも、殺されるなら……。
死ぬのを回避するには、こうするしか……。

陽菜

投票放棄したければ勝手にすればいい
進行の妨げになってそいつが死ぬだけ!

陽菜

あたしは……逆井さんの味方するよ
そうだよね、死にたくないよね……

ぎゅっ、と抱きしめられる。
パニックを起こしていた頭が、冷静になる。
……そうだ。落ち着くんだ。

一日目は、情報が前提として出ていない
リスクがある選択をすれば、全滅する
時間制限あり、ルールによる制限あり……
全員の意見をまとめない限り、進めない

その選択が人殺しだというなら私はそれに従う

浩太

揃いも揃って!
馬鹿はそちらだ!

彼もいきり立って、上等だと私達に怒鳴りつける。
成り行きを、黙って見つめる他の人たち。

浩太

いもしない犯人に怯えて!
安易に人を殺す!?
それこそナンセンスだ!!

浩太

愚かとしか言いようがないッ!

私と神田さんは、この人を殺すと決めた。
この人は反乱分子だ。
全員を殺す、本当の人殺し。
殺される前に、異分子は排除しないと危険。
それが分かってくれたのは、神田さんだけだった。
捲し立てるように罵詈雑言を吐きつける。
私は何も言わない。神田さんも何も言わない。
言っても無駄だ。時間と、労力の。

恵介

おい、眼鏡

すると、チンピラが動いた。
マシンガントークで毒をぶちまける眼鏡の肩を叩く。
振り返る眼鏡。

浩太

なんですか、今取り込み中……

恵介

うるァッ!!

いきなりチンピラが眼鏡の面を殴り飛ばした。
頬を捉えた拳が、彼の顔を歪め、彼は倒れた。
ぼ、暴力行為……ッ!? 違反じゃ……。

恵介

確か……
逸脱行為って曖昧に書かれていたな
これは逸脱行為じゃねえだろ
考えられる範疇の行為だ
話を聞かねえクソを席につかせただけだしなァ

拳を制服で拭い、チンピラは倒れるメガネを見下ろす。
他の人は目を丸くするが、眼鏡を誰も助け起こさない。

恵介

現に俺は無事だからなァ
ったく……世話ァやかせやがって
おい、そこの根暗とアホ

私達を見て罵倒するチンピラ。
ね、根暗とアホ……酷い。

恵介

さっきはああ言ったが……そうだよなァ
最悪の方向に考えるのが利口ってもんだ
俺もテメェらの考えに賛成するぜ

恵介

俺もコイツを殺すのに一票入れるわ
出られねえ、閉じ込められてる
言うとおりにするしかねえしな

……意外だった。
あのチンピラが……私達を、支持してくれている。
何故……?

恵介

おい、傍観してるんじゃねえよ
早くしねえと全員死ぬぞ
きっと俺達は、奴らの……
犯人たちの玩具にされてる
今あいつらが言っただろ
他に方法はなさそうなんだぜ

恵介

それとも何か?
お前らは俺たちのかわりに死んでくれんのか?
それならいいぜ、そのまま死ねよ

恵介

悪ィが……俺は生きる努力はするんでな

浩太

ぐっ……

眼鏡が起き上がって、何か文句を言おうとする。
それを制止したのは、眺めていた男子二人。

……
仕方あるまい

信一郎

そうだね
僕も死ぬのは勘弁して欲しい
時間もないし……怨みっこなしだ

上田さんと車屋さんが私達に賛成した。
これで5名には達した。
あと一人。あと一人で、過半数になる。
誰か、手を貸して。お願い、誰か……。

日和

はぁ……

――卜部さん。
あの人が、溜息をついて票を入れた。
つまり、指を彼にさした。
これで、6人。過半数を超えた。

お、おい……ッ!
幾らなんでも横暴だぞ!!

桃子

こんなのおかしいよっ!!

女子二人が、私たちに異論ありと言う。
でも、流れ出したこれは止まらない。

広明

……俺はこっちに入れるわ

大柄な人が指差したのは、私だった。
……ある意味、当然だと思う。
この流れを作ったのは私だ。

時間内に流れは決まった。
過半数をもう変えることはないと思う。
後は……殺すだけだ。
まだ終わらない。まだ、続く。
あと。残り時間は、30分……。

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