今日の追放者が決定しました。
時間内に追放者を処刑してください。
時間内に処刑できなかった場合、全員死亡します。

テレビの画面に、浮かび上がる不気味な文章。
誰もいじっていないのに。

なっ……!
僕はまだ投票していな……
ぐッ!?

桃子

うぅっ!?

……二人が、首を押さえて倒れ込む。
話し合いは既に決した。
どうやら、機械に締め付けられているようだ。
投票をしていないから、追放者が決まったあとに拒否をみなされて、死ぬのだろうか。

まだ間に合うかも
誰でもいいから、入れたら?
じゃないと、そのまま死んじゃうよ

ふざ……けるなッ……!

折角私が助言したのに、巫山戯るなって言われた。
じゃあいいよ。死んじゃえばいい。

信一郎

穏やかじゃないね、高橋
早く入れておきなよ
彼女は生きろと言っているんだ
そのまま死なれたら僕も目覚めが悪い

桃子

う……うぅ……!

もう一人の方は、私を指差す。
それだけで、瞬間解放されたように大きく息を吸う。

……クソッ!

結局、最後の一人も私を指差した。
苦しそうにしながら、恨みがましい視線で私を見上げる。
彼女も解放された。
追放される本人も私を指している。
でも結果は変わらない。

浩太

貴方は……ッ!!

言いたいことはあるだろう。
だが、もう諦めてもらおう。
私が生きるために、死人には死んでもらわなきゃ。
じゃなきゃ、私が死んじゃう。

…………

さて、ここからだ。
誰が殺すとか、そんなことはどうでもいい。
彼らは処刑される人を見て、目を逸らす。
本人は、僕は狼じゃないとか言い出した。
僕は村人だから、殺さないでくれと。
……知ったことじゃないよ。
私が殺すしかないんだ。自分の為。
せめて後悔できる選択肢を選んで、未来に繋ぐ。

残り時間、25分……
多分、死ぬまでのカウントも含めての25分だから、苦しませると危険だよね

方法はなんでもいいって言ってた
道具は……何処?

私が、探し出すと眼鏡が掴みかかろうとしてきた。
私は何とか避けるが、転んでしまう。

浩太

よくも……ッ!!
よくも僕を指定してくれましたねッ!!

予想はしていたよ。
激昂して、私を殺そうとしてくるのは。
誰だってそうするもの。私だって逆ならする。

陽菜

逆井さんっ!

神田さんが手を貸してくれた。
眼鏡を横合いから体当たりして行く手を遮る。

浩太

こンのっ!
邪魔するなァッ!!

陽菜

ソファーの後ろに何か置いてあったよ!
取り敢えずそれじゃないかな!

小柄な神田さんが、明らかに弱そうとはいえ、男子に飛びかかって応戦してくれている。
今しかない。

ありがとう

私はお礼を言って、ソファーの後ろに急ぐ。
そこには大きな鍵付きの木箱が置いてあった。
無理やりこじ開けると、中身は沢山の……武器?
銃とか、刃物とか……そういう類ばかり。

恵介

俺も手ェ貸すぜ、アホ!

腕っ節の強そうなチンピラも参戦。
眼鏡を後ろから羽交い締めにして動きを封じる。

陽菜

ゴチャゴチャうっさいオタク男!
気持ち悪いし気色悪いし鬱陶しい!!
早く死んじゃえ!!

浩太

誰がオタクですかッ!!
おかしいでしょこんなのっ!!

恵介

ゴタゴタうるせぇんだよボケナス!
テメェが死にゃあイイんだ!
黙って死ね!

私が木箱をあさっていると、そこにも邪魔者が現れた。

目の前で人殺しなどさせてたまるか!

邪魔しないで……退いて!

いいや、退かないな!
暴力に訴えてでもやめさせる!

お菓子をくれた人だった。
怖い顔で私から木箱を奪おうとする。
させない。もう時間がないんだ。
あと20分。急がないと……!

信一郎

やれやれ、見ていられないな
見苦しい男の死に様なんてね

お前を選んだ俺達の責任だ
覚悟してもらおうぞ、岡見

浩太

クソォォぉぉっ!!

上田さんと車屋さんも参戦して、眼鏡を押さえて押し倒す。
四人がかりなら、問題はない。
問題は……。

信一郎

こっちは任せてもいいかな、上田
僕は彼女に加勢してくる

ああ、頼む!

相変わらずクールに言う車屋さん。
睨み合いをする私達、お菓子の人の背後に回る。

桃子

させないよっ!!

信一郎

おっと……
これは困ったな

大学性みたいな人がそれを遮る。
あぁ、応援が!!

さぁ、木箱を渡してもらおうか

嫌……絶対に嫌っ!

駄目だ、この人が邪魔をする。
私一人じゃ突破出来ない。
このままじゃ、時間が……。
武器もないのに、人一人を短時間で殺すことなんて出来やしな……。

……あれっ?

待って。
……本当にないの?
この状況で、眼鏡を手っ取り早く確実に殺す方法。
何か見落としている。私は、重要な何かを。

……あっ!

思いつく。
本当に、私達の生殺与奪が他の人間に掌握されているか、ついでに分かる方法が。
これは、名案だ。
これを使えば、今の膠着状態を打破できる。

神田さんッ、窓!!

陽菜

ふぇ?

突然私が彼女の名を叫ぶ。
ほうける神田さん。
なんのことか分からないようだった。

窓開けてッ!!
早くッ!!
今なら開くはず!!

今までは全ての窓が施錠されていた。
でも私は気付く。ここから一番近い窓。
既に、鍵が開いているのが見えた。
つまり、ゲームが始まれば窓などは開くシステムだったんだ。
始まらない状態では閉じ込めるために施錠されていたけれど。

信一郎

オーケー察した……
僕が行こう!

車屋さんがそう言うや、踵を返す。
彼女に背を向けて。

桃子

えっ?

予想外の行動に、止まる思考。
あれならまだ動かない。
でも凄い……。
今のだけで私の意思が通じた!?
車屋さんは一番大きな窓を開ききった。

信一郎

彼を外に放り投げるんだッ!
後は勝手に死ぬッ!!

そう。
ルールを違反した場合は死ぬ。
それを逆手に取る。
追放者を、本当に追放する。
建物の外に。
恐らく逃亡禁止は、言い換えれば出てはいけない。
出てはいけないというのは、この建物からのこと。
是が非でも放り出せば、このルールに則り死亡する、ハズだ。
出た時点でゲーム放棄でも逃亡でもなんでもいい。
武器を使って殺せないなら、ルールを使って殺せばいいんだ。
今はそれしかない。

神田さんッ!!

陽菜

うんっ!!
取り敢えず分かったよッ!

私は木箱を捨てて、立ち上がって走る。
チンピラと上田さんと戻った車屋さんが、暴れて抵抗する眼鏡を運んでいる。

そういうことか……ッ!

私の後を追うお菓子の人。
運動には自信はないけど……。
やるしかないんだ!!

恵介

抵抗してんじゃねえぞボケェッ!

苛立ったチンピラの拳が鳩尾にのめり込む。
大きく「く」の字に曲がる身体。今が、好機!
神田さんが離してと指示して、窓の前に屈む眼鏡。
上田さんは避難した。
神田さんも助走を付けた。

陽菜

殺るよ逆井さんっ!
合わせて!

死ねェッ!!

私は持っていたお気に入りの本を、思いっきり投擲。
神田さんは眼鏡のメガネに向かって、飛び蹴りを放つ。
くるくる回転する超がつく程分厚い私の本。
重さは大体二キロ弱。
いつも持ち歩いているから分かるが、投げても殺傷能力はそれなりにある。

浩太

……えっ?

顔を上げた眼鏡。それがアダとなった。

私の投げた本の角が眉間にヒット。
本は垂直に上がり、その後に神田さんの蹴りが顔を吹っ飛ばす。レンズが割れたようだ。
そのまま窓の外に仰け反る眼鏡。

陽菜

逃がさないっ!

恵介

オマケもくれてやるぜェ!

着地した神田さんが、降ってきた私の本をキャッチ。
踏ん張ろうとしている眼鏡の顎を下からかち上げる。
更にチンピラの渾身のパンチが炸裂。
窓枠から上半身がのけぞって、落ちそうになった。
よし、これで最後だ!

もひとつオマケェ!

信一郎

追撃するよ!

私は近くにあった椅子、車屋さんは……何と重たそうな机を片手で持ち上げて、フラフラしている奴に投げた。
それらは飛んでいくと、

ド派手な音をさせて、彼にぶち当たった。
その衝撃で、彼の身体は完全に外に落ちる。
この高さだ。
それだけでも死ぬだろうが、メインはルール違反だ。
年には念を入れておく。

幾らなんでも死ぬぞ!?

投げ終えたあとで、後頭部に衝撃。
続いて、フローリングに顔からダイブ。
私は顔面を強打した。
お菓子の人に殴られたらしかった。

陽菜

逆井さん大丈夫?

…………いたぁい…………

陽菜

そうだよね、痛いよね
取り敢えず後で見せてね

助け起こされ、何とか立ち上がる。
鼻っつらが痛いよ……。と、外から。

爆発したような派手な音が聞こえた。
恐らくは、眼鏡が爆ぜた音だ。
と、同時にテレビに処刑完了の文字が浮かぶ。
それをみて、私は脱力してしまう。

お、終わった……生き残れた……

陽菜

そう、だね……
あたし達、死なずにすんだね……

恵介

ふーっ……
あぶねえあぶねえ

なんとかなったか……

信一郎

取り敢えずは、ね……

これで分かった。
確かに人は死ぬ。確実に死ぬ。
これは本物のゲームだ。
もう、後戻りはできない。
選んで殺した、その事実は取り消せない。
でも……今だけは。
生き残されたことを、安堵させて。

なんてことだ……

桃子

…………

私達の邪魔をした二人も、放心状態だった。
むしろ、こいつらのせいで死にかけたのもあるけど。

日和

終わった?
じゃ、あたし戻るね

一連の騒動を傍観していた卜部さんは、一人で部屋から出ていった。
何もしなかった彼女だけは、どちらとも言えない。

陽菜

何あの人、感じ悪いなぁ……

鼻血出てきた……

陽菜

わーっ!?
と、取り敢えず拭いて逆井さんッ!

初日は、こうして過ぎていく。
処刑したあいつのおかげで、今日は生き残れた。
良かった……。

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