卜部さんに付き添われながら私も彼らと共に進む。
長い長い廊下。古びた窓の向こう側の森林。
手掛かりはなく、私達は互いが誰なのかもあまり知らず。
そして、状況さえも掴めない。

そんな中、私は胸に抱いている本の中に、見たことのないモノを発見した。
私はこんなものを挟んだ覚えはない。

これは……?

いつも挟んでいる、お気に入りの栞。
それが、何時の間にか別のに変わっていた。
見覚えのない栞に。

逆井凪さん
貴方の陣営は村人陣営です
貴方の役職は『占い師』です

そう記されている、小さな栞。
私の名前と、何かの情報。

……

なんだ、これ。
陣営? 役職……?
ぱっと見、意味不明な栞。
…………あれ、でも。
ふと、知っている気がした。
私、昔この情報を見たことがある。

…………

……思い出した
ゲームだ、これ
テーブルゲーム
名前は確か『人狼ゲーム』

中学生の頃に当時の友達がハマっていた推理ゲーム。
名前は人狼ゲーム。
多人数で行う一種のパーティゲームで、人間の中に紛れ込んだ人狼を推理で追い出すゲームだった気がする。

私も何故か参加させられていて、その度何時もまっ先に吊られて追放されていた。
あまり面白かったという感覚はない。
推理もへったくれもなく、メタな理由で問答無用で殺されていてはそうも感じる。

出番は特になく、どちらかというと観戦者として眺めていただけだったが。

なぜこんなものがここに?

私も分からない。
でも、これはきっと情報源になる。
とっておこうと、本の中に差し込み直す。
何も言わず、私は彼らの後を追う。
嫌な予感がする。
これは……大変なことになりそうな予感が。

どこまで歩いても、出口らしきモノは見つからない。
窓を割ろうにも、恐らく強化ガラスのようだ。
殴っても蹴っても、道具を使っても割れやしない。
そもそも、ここは4階ほどの高い位置にある。
下手に飛び降りようものなら悲惨なことになる。

恵介

クソがァッ!!

チンピラがキレて、八つ当たりを始めていた。
相当苛立っている。あれでは冷静な思考もできまい。

浩太

ブツブツブツブツ……

あっちの人は未だに小声で何かを呟いている。
あれでよく歩けるものだ。

広明

あー駄目だ、開かねぇ……
無駄に汚れちまったぜ

大柄な人が無理やり窓を開けようとして汚れている。
だから、施錠されていることに気付いて。

陽菜

取り敢えず、行けるところまで行こうよ
そこからじゃないかな

果てが見えないのにか?
迷路のように入り組んでいるんだぞ
僕は反対だ

桃子

でも動かない限りは、きっと何も変わらないよ?

信一郎

それをキミは望むのかい?
助けもこなさそうなこの状況で

あまりそれは得策とは言えないな
神田の言うとおり進むだけ進んでみよう

率先してどうにかしようとしている人たちが方針を決めている。
私には、関係ない。ただ、従うまでだ。
私はそういう風の振る舞いが、好き。
自己主張は嫌い。空気でいい。地味でいい。
その生き方、存在の仕方が私。
誰かを導くのは嫌。導かれるほうがいい。
何も考えない楽な生き方が、隙。

日和

決まったみたいね
そんじゃ、行こうか

彼らに従い、私はついていく。
どこまで行くのかはわからないけど。

信一郎

ここがいける最終地点のようだね

きたはいいが……
なんだここは?

鍵が閉められた部屋などは入れない。
壊そうとしても妙に頑丈だった。
誘導されるようにたどり着いたのは、洋室。
シンプルなデザインの室内には、テレビとDVDプレイヤーがセットされている。

広明

DVD……
これ起動すれば何かわかるんじゃねえ?

恵介

おいテメェ!
不用意に触るんじゃねえよ!!

チンピラが止めても、大柄な彼は聞くまでもなく実行。
テレビの画面に、映像が浮かび上がる。

皆様、ようこそおいでいただきました。

ゲーム会場へようこそ。

これから皆様には、殺し合いをしていただきます。

行われる演目は、人狼ゲーム。
残念ですが、ここからはゲーム終了まで出られません。

ご了承ください。

……殺し合い?

そう画面には淡々と浮かび上がる。
突然殺し合いをしろと言われて、動揺する私達。
次々文句を言うが、画面は一切無視する。
人狼ゲームというのゲームのルールが、コマ送りのように浮かんでは消える。
役職などは、もう私たちの手持ちに持たせてある。
私の場合は、栞だった。
それで確認しろとのこと。
大体、私の知っている通りの流れだった。
でも明確に違うこともあった。
ゲーム通り犠牲者を出せないと私達は全員殺される。
つまり……死にたくなければ、この中の誰かを常に殺し続けろということだった。

そして、とても重要なルールがあります。

ゲーム参加への拒否。
施設からの逃亡。
進行の妨害。
暴力による逸脱行為。
その他の違反行為。
それらを確認した場合。

皆様の首元に仕掛けさせてもらいました、爆薬が爆発して死亡するのでご注意ください。

挙句にはこれか。
この建物から出た瞬間、死ぬ。
この首の機械は監視装置だったのだ。
ゲームは既に始まってる。
初日の話し合いはもう行われている。
今から一時間以内に、一人殺せ。
さもなくば全員死ね。
そう画面には出た。

…………

現在、12時を少し過ぎた。
タイムリミットは1時まで。
それまでに誰か殺さないといけない?
これは昼間の追放ということか。
情報が全くない状態で?
殺しの手段は問わない。
ある程度はこちらで道具を用意したと画面には出た
説明は以上と最後に出て、画面は沈黙した。
途端に、騒ぎ出す彼ら。
喧騒が室内に溢れかえる。

話し合いを至急始めなければ……私は死ぬのか?
いや、ここにいる10人のうちの誰かは確実に死ぬ。
誰かを殺さなければ。誰かを、殺さないと。
私は……死ぬ。

…………

戸惑うのは当然だろう。
いきなり連れてこられて殺し合いをしろと言われたのだ。
取り敢えず、自己紹介からもう一度始めようと誰かがいうと、チンピラが怒り出して、場が乱れる。
誰かがそれを止めようとして、また。
これじゃあ、話し合いが始まらない。
……仕方ない。
死にたくないから、私が出しゃばろう。

ねぇ
始めよう、話し合い
早く決めて、誰か殺そう

急がないと一時間しないうちに全員死ぬ
死にたくないなら、そうしなきゃ

恵介

あ゛ァ!?
何言ってんだ!

チンピラが、私に詰め寄る。
胸ぐらを捕まれそうになって、私は逃げた。
正直、怖いよ。この人。
その間に誰かが割って入って、何とかなったけど。

わからないの?
ここまで大規模なことしておいて、ドッキリですなんてオチはないよ

この機械はどうやって説明する?
この状況は? 出来るの?

誰かを、殺さなきゃ……
殺さなきゃ、殺される
逃げる方法も、逃げる術もない

逃げられないんだ。
私達は、捕まっている。
楽観的な見通しは、もう無理。
言われたとおりにしないと、本当に殺されてしまう。
それだけは、嫌だ。

もう一度、言う
話し合いを始めよう
……このままいけば、どのみち助からない

現実を、見て
そして、どうするべきかを、判断して

……私は、そう言う。
目立ちたくないけど、死ぬのはゴメンだ。
人を殺せというのならば。
殺すよ。言われたとおりに、殺すよ。
でもその代わり、私を生かして。
言うことを聞くから殺さないで。
お願いだから。

陽菜

うん、あたしも逆井さんに賛成
このまま行けば全員死んじゃうよ

陽菜

取り敢えずそうする以外に方法なさそう
……嫌だけどさ
言われたとおりにするしかないじゃん

神田さんは、私に味方してくれた。
よかった、何とか一人だけでも私についてくれた。

桃子

でも……

渋られたり、文句を言われる。
当然だと思う。でも、これだけは言いたい。

じゃあ……みんなで仲良く、死ぬ?

私はそれでもいいよ
一人で死ぬわけじゃないから
道連れにできるなら

陽菜

あ、あたしパス……
死にたくないよ!
取り敢えず、努力はするし!

脅すとそれぞれは嫌そうに、だけど一応は話し合いをしてくれる態度にはなった。
……これで舞台は整った。
どうなるかはわからないけど……始めよう。
生命を賭けているらしい、人狼ゲームを。

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