ヒナ!

夕日に照らされてオレンジ色に染まった彼女を見て、僕は真っ先にその名前を呼んだ。

一番に。誰よりも先に、僕は彼女にそう言いたかったのだ。

もっとも、彼女に『ヒナ』と名付けたのは僕で、他に彼女をそう呼ぶ人もいなかったのだから、急いで呼ぶ必要もなかったのではあるが。

それでもその時の僕は、彼女を見た瞬間にはそう叫んでいたのだから仕方がない。

久し振り。覚えててくれたんだ、私のあだ名。その名前で呼んでくれたのは君が初めてだよ!

だから、彼女のこの言葉を聞いた時僕がどんなに嬉しかったかということは、おそらく文章ではとても表現しきれない。

久し振り。もちろん、覚えてるに決まってるよ

言って、僕は笑った。実際のところは分からないけれど、今思えばこの時の僕はとても変な顔をしていたと思う。

その場に鏡があれば、ヒナだけじゃなく僕も笑っていただろう。

……それはつまり、その時ヒナは僕の顔を見て笑っていたということになるのだが……

ふふふ

彼女が柔らかに笑う。

ははは

合わせるように僕も笑った。笑い合う僕たちを置いて、ユキとレモンは一緒に公園を走り出した。

その様子を見て、僕は手にあったボールを彼らのさらに奥にめがけて力いっぱい投げた。

予想以上に飛んだボールに、これまた予想以上の速さでユキとカレンが追いついた。

わあ! 私、レモンがあんなに力いっぱい走るところ、初めて見たかも!?

驚いたような声で彼女は言った。
その顔を見て、、僕は少々笑いながら続けた。

ユキもだよ。いつもはあまりスピードも出さないのに。もしかして僕のことを気にかけて、わざとゆっくり走ってくれてたのかな?

きっとそうだよ。だってユキは、優しくて元気な女の子なんだから!

僕が笑っていることに気付くと、ヒナもまた笑って言った。

そんな僕たちをよそに、ユキとカレンは二人だけでお互いにボールを飛ばし、取りに走りながら遊んでいる。

その様子を見ながら、自然と僕たちの足取りは同じ場所へ向かっていた。いつもの場所。座り慣れたあのベンチへ。

と。辿り着いてようやく気付いたのが、その椅子に張られていた一枚の白い紙。

ひらひらと風になびくそれには、黒い文字で『ペンキ塗りたて』と書かれていた。

これじゃあ座れないね

そうだね。まあ仕方ないよ、あそこに行こう

少し子供っぽいかもしれないが、いつもの椅子に座れなかった僕たちは。ジャングルジムをよじ登りてっぺんに二人、腰を下ろした。

向こうではユキとカレンが仲良く遊んでいた。少し高い場所というだけなのに、なんだかいつもより彼らが小さく感じられた。

そして、もう一つ。

うわあ~、綺麗

本当にね。多分一人じゃこんなに綺麗には見れなかったよ

言って、僕たちは、飽きもせずに夕日を眺めながら色々と話し込んだ。

帰路に着く頃には、その日の夕日も山の向こうへと姿を隠してしまっていた。

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