その日、覚えているのは何時も通りの帰り道。
本屋に立ち寄り、人気ない道を歩いていた時だった。
不意に意識が揺れ出す。
なんだ、と思ったときには足がもつれて倒れてしまう。
その日、覚えているのは何時も通りの帰り道。
本屋に立ち寄り、人気ない道を歩いていた時だった。
不意に意識が揺れ出す。
なんだ、と思ったときには足がもつれて倒れてしまう。
そのまま、意識がブラックアウトしていた。
力が抜けて、体が重い。私に何が、起きた。
確認する間もない。
今思い出せしても、怪しい点は何もない。
どうして、こんなことに……。
こんなことになってしまった。
つぅ…………
……ここは?
私が漂う古いお家のニオイで目を覚ます。
次いで、男女の揉めるような声が聞こえる。
何が起きているんだろう?
…………
軋む体を持ち上げて、私も立ち上がる。
何が起きたのか、覚えていない。
確か……帰り道。
意識が急に重たくなって。
そして……。
ここはどこだ?
まずは落ち着こう。
持ち物は……カバンがない。
ポケットに感触。取り出す。
時代遅れの携帯電話。
それと……財布、あとは大事に抱えている本だけ。
持ち物の大半がない。
電話は圏外。
周囲は障子付きの和室。
旅館のような室内。
見えるのは木々。
流れる空気はひんやりしていて、森林の香りも乗っている。
……首に嫌な感触。
触ってみると、何かを無理やり付けられている。
これは……何だろう?
…………
踏み締める畳の感触は本物。
見慣れない風景。時刻は既に午前。
……結論。私は何かに巻き込まれた。
落ち着け。大丈夫、何とかするし何とかなる。
恐らくは誘拐だろうか?
ドッキリだと思いたいが……楽観的はいけない。
私以外にも誰かがいるみたい。
取り敢えず、他の人間の様子も見よう。
何が起きてんだこりゃあ!?
落ち着いてください!
外に出るのは危険ですッ!
……三白眼の男性がキレている。
何かに対して怒り狂いながら、八つ当たりをしている。
それを私は、気だるけに眺める。
何を騒いでいるんだろう。
その気持ちは察するけれど。
あっ、最後の人起きた!
よかった、無事だったんだね!
……えっ?
ハキハキ喋る人懐っこそうな女の子が私に駆け寄る。
手を取られ上下に激しく振られる。
何だろう、この子は?
あっと、取り敢えず自己紹介だよね
あたし、神田陽菜(かんだひな)!
よろしく!
……はじめまして
逆井凪(さかさいなぎ)です
簡単な自己紹介をする。
彼女は神田さん、という人らしい。
敬語はいらないと神田さんは言うので、気にしないことにする。
いやーよかったよ
もしかしたらやばいかと思っちゃった!
血色悪いけど死んでない
私が否定すると、神田さんはニコニコ笑っていった。
そかそか
取り敢えず、全員の意識回復したね
そんじゃ気合を入れて解決に向かおう!
取り敢えず脱出だ!
神田さん、私は事情を飲み込めていないんだけど。
彼女は私の手を取り、そのまま移動開始。
取り敢えず、逆井さんに名前教えておくね
あの大学生っぽい人が板垣桃子さん
あの喚いているチンピラが新城恵介さん
あっちで何かブツブツ言っている人が岡見浩太さん
正座して目を閉じてる眼鏡が上田真さん
ド派手なギャルみたいな人が卜部日和(うらべひより)さん
あっちでクールに外を眺めている人が車屋信一郎(くるまやしんいちろう)さん
向こうでイビキかいている大柄の人が羽田広明さん
壁に寄りかかって何か食べてるのは高橋楓さん
ここにいるのはあたし達含めて10人だけみたいだよ?
取り敢えず、どうしようか?
……私が起きる前に他の人は自己紹介していたのか。
一番最後の私に神田さんは教えてくれている、と。
どうしようか、と言われても。
事情をみんなわかってないらしいし、神田さんはハイテンションだけど、それはかなりまずい空気なのでは?
目が覚めたみたいだな
俺は上田真(うえだまこと)という
神田、ありがとう
いえいえ、どういたしまして
バタバタと元気に神田さんはほかの人のところに行ってしまった。
取り残された私は、正座していた男子に説明される。
まずは、お前の名前を教えてくれ
逆井凪
そうか、逆井
では状況を説明する
分からないだろう?
分からないことは確かに多い。
混乱しているけど、分かったこともある。
閉じ込められたのは分かった
持ち物は没収され、携帯は圏外
首にはよく分からない機械
拉致監禁にしては広い空間にいるけど
誘拐されたと思う
何処かで監視されているのかな
や、やたら落ち着いているな……
慣れているのか?
全然
これでも相当慌ててる
どこがだ……
説明しようとしたところ全部理解しているじゃないか……
唖然とする上田さん。
私は地味で空気で存在感がないから、そんな風に思われるだけだ。
今だって相当慌てているんだけど。
起きたんだ、あなた
…………
ん?
寝てる?
起きてる
そう
突然会話に乱入してくる彼女は確か……卜部さんだ。
古い廊下に座った私を、見下ろして彼女は問う。
あたし、卜部日和
あなたは?
逆井凪
私が名乗ると、彼女はふぅんと頷いた。
変わった苗字ね、あたしと同じぐらい
一応、名前だけ覚えておいてね
馬鹿が暴れているから、そっとしておいてやって
迂闊に近寄ると危ないから
分かった
背後では例のチンピラが暴れている。
かかわり合いにはなりたくない。
死んでなかったんだね、キミ
ならいいけど……
起きたか
これでも食べておくといい
空腹では頭が働かない
私を見つけて車屋さんがドライに言い、高橋さんは私にお菓子を投げ寄越した。
食べていいらしいのでお礼を言って食べる。
ブツブツブツブツ……
ぐご~~~~~っ!
彼らは何をしているのだろうか?
よくわからないが放置。
アレな連中しかいないが……
では、そろそろ出発するか
出口、探さないとな
上田さんは立ち上がって、寝ていた大男を叩き起して、ブツブツ言っている人を連れて行ってしまう。
私、また取り残された。
いこっか
ん
卜部さんが私と一緒に行ってくれると言うのでついていく。
さて、どうするべきか。
今は、現状を見よう。
慌てず、落ち着いて。