姫林檎さんに頷く。
へぇ、あの日本からいらっしゃったの。素敵ね
はぁ……ありがとうございます
姫林檎さんに頷く。
日本のお話、色々と聞きたいわ。今日はどのような予定になっているのかしら
これから服を買いに行く予定だ
あら、そうなの?
なら、私のお気に入りの店を紹介しましょうか?
いえ、こういうのは自分の足で探すのが楽しいので
ん? 誰かに案内してもらいたいと朝は言って……っ!?
人がやんわりと断ろうとしたのに、ヒカルときたら余計なことを言おうとする。
思いっきり足を踏みつけて黙らせてやった。
おい、アオイ!
人の足を踏むな!!
あらごめんあそばせ!
床かと思いましたの
怒るヒカルにわざとらしく笑ってみせる。
バカかヒカル。
姫林檎さんに服屋の案内を頼んでみろ!
あのダサイシャンプーハットを、顔につけることになるだろうが!
いいじゃないか。
便利だぞシャンプーハット。
ああやってつけると、ライオンのタテガミみたいで素敵じゃないか
ヒカルのやつときたら、他人事だ。
じゃあヒカルがつけろ
嫌だ
何をこそこそとお話してますの?
シャンプーハット……とか聞こえたような……?
言い合いをしていたら、姫林檎さんが小首を傾げる。
昨日風呂屋に行ったんですけど、シャンプーハットがなかったなぁっていう話しをしてたんですよ。
ははは……
それなら、専門店で売ってますわよ。
探してみるといいと思いますわ
そうしますわなんて言いながら、どうにか誤魔化す。
あら、アオイさん達ではありませんの
声がして振り返れば、エリザベスさんがいた。
あっ、エリザベスさんおはようございます
おはようございます。
先日はお見苦しいところを見せてしまいましたわね。
ワタクシったらヒカルさんが男だと勘違いしてしまって……
挨拶すれば、エリザベスさんがすまなさそうな顔をした。
ちょっとエリザベス!
あなた姫林檎様がいるのに無視して、新入りから挨拶をするってどういうことなの!
キャンキャンと犬のように吼えたのは、姫林檎さんの取り巻きであるスカーレットだ。
あら、いましたの?
あまりにも厚化粧が濃すぎて、仮面の人形か何かだと思っていましたわ
あいかわらずですね、エリザベス。
それにしても……ずいぶんみないうちに、シワが増えたんじゃないかしら?
あれ、何この空気。
姫林檎さんとエリザベスさんってもしかして超仲悪かったり……?
おい、ヒカル。今がチャンスだ。こっそりと抜け出すぞ
いいのか放っておいて
いいのいいの。ごちそうさまでした、お先にしつれいしますね。って今小声で言ったから、大丈夫だ
そういうものかとヒカルが納得してないようなしたような顔をして、トレイを片付ける俺に続く。
さてと。服のかわいい子は当然として……できれば大人しそうで、親切な感じの子がいいな。
ほら、ヒカルも探せ
まるで、ナンパ相手を物色するみたいだな……
あまり気が乗らない感じで、ヒカルも周りを見渡す。
あんた達、何をキョロキョロしてるの……って、あーっ!
あなたは!!
あっ、たしかメルトさんの……
この間はよくも逃げてくれたわね!!
いや別に逃げてなんかいないですけど
うるさいわよ。ほら、きなさい!
ずるずる手を引かれる。
食堂から連れ出されたあたりで、壁ドンされた。
美少女からの壁ドン。
普通男の俺がやる側じゃないのとか、これただの金銭せびりの図だよねとかそんなことを考えてたら、胸ぐらを掴まれた。
あなた見ない顔よね。ワタクシと同じ、一年生かしら
は、はい
ワタクシにはわかってます。お姉様に誘惑されて、のこのことついていったのでしょう?
悪いことはいわないから、あの人は止めなさい。
あなたのことはお姉様にとっては遊びでしかないの。
それに、あなたではお姉様を扱いきれないわ!
牽制するかのように女の子が言ってくる。
たしか、ゼシカ……って呼ばれていたよな。
そもそも、俺はメルトさんに惚れてるわけでもなんでもないんだけど。
勘違いですよゼシカさん。
俺の一族は人に肌を見せてはいけないというきまりがあって、それで寮の共同風呂じゃまずいなって思って悩んでたら、メルトさんが風呂屋に連れていってくれたんです。
まぁ……襲われそうになるとは思いませんでしたけど
えっ……じゃあ、お姉様を狙う泥棒ネコってわけじゃ……
ありません
というか、泥棒ネコってなんだ。
きっぱりと否定すれば、ゼシカさんの雰囲気が柔らかいものになった。
ほっと息をついて、それなら早く言ってよね、なんて口にしている。
あなた寮とクラスは?
S寮で、クラスは1-3です。
それならワタクシと一緒ね。同じS寮で1-3所属よ。
アルカナのカードはまだ確定してないけど、『星』が現時点では最有力候補といったところかしら
すらすらと説明し、ゼシカが手を差し出してくる。
勘違いして悪かったわね。同じ寮で同じクラスなんだし、仲良くやりましょう?
なんだ、悪い子じゃなさそうだな。
しかもクラスメイトだったのか。
はい! ありがとうございます、ゼシカさん
同級生だし、ゼシカで構わないですわ
じゃあ遠慮なくゼシカで。
俺は咲花アオイ。アオイって呼んでくれていいよ。こっちのは、俺の幼なじみの剛力ヒカルだ
敬語じゃなくていいと言われて、それに従う。
こういうときに遠慮して敬語のままでいると、後々距離を縮めるのに苦労するしな。
はじめまして
……男?
違います
眉を寄せたゼシカに、きっぱりとヒカルが言う。
なんで女もののワンピースを着てるのに……男に間違われるんだ……
まぁ、お前のオーラっていうか、身から溢れる何かが男前だから仕方ないだろ
そんなもの溢れさせた覚えは一切ないぞ……
ヒカルがしょんぼりとしている。
着替えたのにこれなのかと言いたげだ。
ごめんなさい、気を悪くしたなら謝るわ。あなたも同じクラスなの?
あぁ。一応な
ワタクシ、これから街にお買いものに行くつもりなのだけれど、よかったら一緒にお茶でもどうかしら。
勘違いしたお詫びと、親睦会をかねて
よろこんで!
ちょうど服を買いに行こうと思っていたところだったんだ!
そうなの?
ワタクシも春物の服を見てまわろうと思ってたから、都合が合うわね。
それじゃ決まりね。支度してくるわ
いい返事をした俺に、ゼシカが笑った。