アオイ

っあー変な夢みたなぁ……

 目覚めればいつもの朝。
 頭の上にあるデジタル時計を見ればまだ六時だ。
 学校は八時からだし、早く起きすぎてしまった。

 それにしても変な夢をみた。
 異世界に行くとか、どんな中二病だ。

 しかも女装して魔女とか、笑えない。
 女に見られることにはうんざりしているというのに。
 それにしても風呂に入るあたりとか、妙にリアルだったなぁ。

 自分に呆れながら、からりとベランダへと続く窓を開けて……

 そっと窓を閉じて、カーテンを閉めた。

アオイ

……

 今、金色のカバが空を飛んでなかったか?

 それでいて、一瞬目に入ったベランダから見下ろした景色が、あきらかに俺の住んでるアパートじゃなかった気が……。

 もう一度勇気を振り絞って、カーテンを開けてベランダへと足を踏み出す。

アオイ

……

 庭で馬が走っていた。
 あれ、ファンタジーとかでよく見る、ユニコーンってやつだよな?

 思わず固まっていたら、俺が見てるのに気づいて、ユニコーンがこっちにくる。

 ……空飛んでる。
 ここ3階だよ?

 ユニコーンは俺の顔を覗き込むと、鼻をすんすんと鳴らした。

ユニ

あれ……君、不思議な香りがするね?
乙女の香りとはちょっと違う……男みたいな?

アオイ

えっといや、それはその……俺、外の世界から来たばかりだから!
それで男の臭いがするんじゃないかな!?

 とっさに言い訳をした俺の臭いを、ユニコーンはまだ嗅いでいる。
 まさか、臭いで男だってバレるなんて!?
 心臓がドキドキして、汗がだらだらと吹き出てくる。

ユニ

そっか、君別の世界から来たばかりの子なんだね。

どおりで男の臭いが混じってるわけだ。
ごめんね、いきなり臭い嗅いじゃって

アオイ

わ、わかってもらえたならいいんだ!

ユニ

ボクはユニコーンのユニ。
乙女の楽園を守護する、守護獣なんだ。

ボク達ユニコーンは、男を見つけたら駆逐する使命があるから……つい敏感になっちゃった!

アオイ

あっ、なるほど!
でも俺……私は、どこからどうみても女の子ですよ!

ふふっ、ユニさんったら嫌だなぁ!

 やばいやばい!
 臭いでバレるとか、危険でしかないよ!
 笑顔をつくりながらも、背中から大量の汗が噴き出しているのがわかる。

ユニ

うん、ごめんね。
こんなに可愛い君が男なわけないのにね♪

 ふふっとユニが笑う。
 どうやらバレたわけではなさそうだ。

ユニ

この世界って美少女が多かったりするから、それ目当てにやってくる男がいたりするんだよね

 男や不審者を見つけたらすぐにボクを呼んでね、なんてユニは言う。

アオイ

ち、ちなみに……ユニさんは……

ユニ

ユニでいいよ♪

アオイ

ユニは男を見つけた場合は、どうやって対処するんですか……?

ユニ

角で一突き……かな♪

 まったりとした、可愛い調子でユニは言う。
 彼女の頭にある角は、つやつやとしていて尖っている。刺されたら……痛そうだ。
 中性的な雰囲気の美少女である彼女が、笑顔でそんなことをいうと余計に怖い。

ユニ

それじゃ、ボクはパトロールの途中だから。
もし男を見つけたり、困ったことがあったらすぐに呼んでね。

乙女のピンチに、ユニコーンは駆けつけるから

アオイ

……ありがとうございます

 手を振り去っていくユニさんに、一応笑顔で……手を振り返す。

アオイ

これ……やっぱ夢じゃなかったんだ?

 現実は……そんなに甘くなかったみたいだ。

アオイ

と、いうわけで。
今日は服を買いに行こうと思います

ヒカル

別に部屋にあるものでいいじゃないか……

 朝からピンチを味わった俺に対して、ヒカルはのんきなものだ。

ヒカル

男物の服を着てようが、お前を一目で男と見抜ける奴はいないと私が保証しよう

アオイ

そんな保証はいらねーんだよ。
こっちはちょん切られるかどうかが掛かってんだ。

つーかお前、昨日俺がピンチだったのに一人だけ風呂を堪能しやがって……

ヒカル

いや、あれは最初に甘い話しに釣られたお前が悪いだろう。

折角のプリンセスコースだ。最後まで楽しんで何が悪い

 きのう俺が男だとバレるかバレないかの瀬戸際で、どうにかメルトさんの手から抜け出した後。

 ヒカルの元へ行って、帰るぞと急かせば……こいつときたら、コースが全部終わるまで帰らないとか言い出したのだ。

アオイ

ヒカルが帰るのを渋るから、修羅場から逃げ出してきたメルトさんに襲われそうになって大変だったんだぞ!?

 「愛」を司るアルカナの魔法少女・メルトさんは可愛い女の子に目がない、プレイガールだった。
 巻いたと思ったら次の瞬間には、背後に迫っていて。

メルト

さぁ、愛を確かめあいましょう!

 なんて俺を抱きしめては、メルトさんの彼女らしい他の女の子達にぼこぼこにされていた。
 懲りないあたり、メルトさんはかなりしぶとい人のようだった。

アオイ

そして俺は一つ気づいたことがあるんだ!

ヒカル

なんだ、そんな真剣な顔で

アオイ

この世界……女しかいないから、恋愛対象も当然のように女みたいなんだ。

だから……油断してたら、メルトさんみたいに積極的に迫られてしまう。
認めたくないが……俺、美少女だしな!

ヒカル

まぁ、美少女だな。男だけど

 ヒカルから、自分で言うなよという視線を感じるがそこは事実なんだからしかたない。
 それを踏まえたうえで、行動は慎重にしなくちゃいけなかった。

アオイ

メルトさんがいうには、上級生から風呂に誘われて断るのはタブーらしい。

ヒカル

へぇ、そうなのか。それは大変だ

アオイ

そのままの振る舞いで男だとばれれば、キノコ狩り。
女らしくすれば風呂に誘われて……キノコ狩り。

このままじゃ俺、どっちにしろ……キノコ狩られちゃうんだ……

ヒカル

な、なんだそんなしおらしい顔して。
そう落ち込むな。どうにかなる!

 適当な調子で聞き流していたヒカルが、俺の沈んだ声に慌てた顔になる。

アオイ

いっしょに行ってくれるよな、ヒカル?

ヒカル

うっ……わかったよ

 ヒカルは何だかんだで押しに弱い。
 一人で行くのは不安だったので、ヒカルでもいないよりはマシだった。

アオイ

一応地図があるから、ショッピング街には行けると思うけど案内があった方がいいな。

とりあえずこれから朝食みたいだから、暇そうな奴捕まえて案内させるぞ

ヒカル

おまえは結構たくましいよな……

 

 早速食堂に移動すれば、想像以上に広い空間がそこに広がっていた。

 いい香りが辺りに広がり、女の子達がそれぞれの席で朝食を楽しんでいる。

 バイキング形式で、席も自由なようだ。

ヒカル

これは……すごいな!

 寮の食堂っていうから、しょぼいのを想像していたのだけれど……いい意味で裏切られた。

 周辺の3つの寮と合同で食べる食堂は、ゴージャスという他ない。

アオイ

肉……!
久々の肉があるぞヒカル……っ!

米なんて何日ぶりだろう……!

ヒカル

お前はいったいどんな生活を送ってたんだ……

 ヒカルが呆れているが知ったことではない。

 取り放題ってなんて素晴らしい!!
 今のうちにカロリーを摂取だと、大量に皿の上にのっけていく。

 魔女の国が数百年日本の真上にあるからか、米や納豆などといった和食も充実している。

 朝は和食派ヒカルも、これにはほっと胸をなで下ろしていた。

スカーレット

ちょっとそこのあなたたち。
そこは姫林檎様の席よ!!

 いきなり怒鳴られた。
 ショートカットで強気そうな子だ。

ヒカル

いや別にトレイも何もおかれてなかったじゃないか。

席は自由だと聞いているぞ?

スカーレット

あぁ、もしかして新入り?
何寮の子かしら?

アオイ

きふぉうふぁら、ふぁいった……んぐ、えしゅ寮のふぁふぇふぁなふぁおいです!

ヒカル

昨日から入ったS寮の咲花アオイと剛力ヒカルだ。

 さすが幼なじみ。
 俺の言いたいことをよく理解している。

 食べながら喋るなと俺の頭を小突きながらも、訳はばっちりだ。

スカーレット

なるほどS寮の子ね。
私はA寮の魔法少女・スカーレット

アオイ

もぐもふも、もぐもふもふ

ヒカル

よろしくお願いしますと言っている

 食べながら喋るなと言っただろうと、俺の頭をぐりぐりとげんこつで小突きながら、ヒカルが言う。

スカーレット

まぁ、新入りならルールを知らなくてもしかたないわね。

ここはこの学園の女王、姫林檎様の特等席なのよ。

ヒカル

女王って、あの魔王みたいな見た目をした奴か。
学生だったのか?
それにしてはケバかったというか……

スカーレット

まさか、スペードの国の女王様なわけないでしょう!

なんて失礼な子なの!!

 その特徴を聞いて、すぐにスペードの国の女王を思い浮かべるということは。

 ……スカーレットも少なからずそう思ってたってことだと思うんだが。

 やっぱりあの見た目が女王っぽくないな、というのは俺やヒカルだけの意見ではないらしい。

姫林檎

ふふふ、賑やかね。
ご一緒してよろしいかしら

スカーレット

姫林檎様!
この子達新入りで、ここが姫林檎様の席だとわからなかったみたいで。
すぐに退かせます!

姫林檎

いいわ。近くの席が空いていますし、新しくやってきた小鳥さん達ともお近づきになりたいもの

アオイ

これまた変なのがきたなぁ

 手羽先にかぶりつきながら、俺はそんなことを思った。

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