マルク

勢いよく家を飛び出したはいいけど…どうしよう

思いどおりにいかなかったとか。母さんが僕の考えを理解してくれなかったからとかとかとか

…理由なんてどうでもいい

僕がしたいこと、僕の野望全部を否定されたような気分だった

もちろん母さんにその気はなかったと思う。しかし、あの部屋で感じた息苦しさ。威圧感が僕に襲い掛かってくる、その重圧に耐えられなかったんだ

キース

だから逃げたって?

…そう、逃げたんで

って、僕の頭に直接話しかけてくる声…?

キース

ったく、さっきから一人でごちゃごちゃうるさいんだよ

マルク

え?
人がいる…?
もしかして僕の考えてること筒抜け?

キース

筒抜けも何も、全部声に出てたけど

マルク

全部、声に!!?

キース

あー、だからうるさいって言ってんだろ

マルク

ご、ごめん

男はハーっと大きなため息をついた

それから、重たい腰を上げまっすぐとマルクの姿を捉える

キース

おまえ、泣いてるのか?

マルク

泣いてなんかないもん!!

キース

だから、いちいち騒ぐなってお子様

マルク

僕はお子様なんて名前じゃない!
マルクって立派な名前があるんだからな

キース

マルク…!?
お前、この町の住人か?

マルク

そうだけど
そういうお兄さんは旅人?

キース

まあ、そういうとこだな
それから、俺の名前はキースだ

キースと名乗った男は、マルクの全身を眺めながらうーんとうなている

マルクもまた、どうしてこの状況になっているのかと疑問に思うのであった

この微妙な空間をチクチクと縫う、時計塔の針の音

キース

そいえばさ…
この町の住人ってことは時計塔のこと知ってるだろ?

マルク

当り前だよ
まぁ、僕はこの町で一番時計塔に詳しいけどね

キース

それは好都合だ
観光ついでに、時計塔も見に行きたいって思ってたんだ。案内してくれないか?

マルク

この僕に案内を任せるのはいい選択だと思うよ

二人を照らす月明りはどこまでも遠く、声は夜闇に吸い込まれるのであった

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