吾助のお金の稼ぎ方

それから鶴太郎は三日に一反のペースで反物を織り続けました。

反物も6反ほどになりました。

吾助

あいつ、大丈夫か?

鶴太郎

思ったようなのが
織れないんだよ。

そう言って、癇癪を起していました。

吾助

そっちは与兵に任せるしかないな。

吾助は反物を持って山から戻ってきたところでした。

銀次

アニキ!

与兵に勝手にヤクザの下っ端と思われた銀二がニコニコと吾助に近寄ってきます。

吾助

銀次か。
ちょうどいいところに来たな。

銀次

そろそろかなと思って
張ってたんですよ。

銀次

へへ。例の糸
仕入れてきやしたぜ。

そう言って、銀次は吾助に紙袋を渡します。

吾助

悪いな。
方向は合っているみたいだぞ。

鶴太郎

前のよりはいいけど、
まあまあかな?

その日の朝、糸を渡したときに鶴太郎はそう言いました。

銀次

まだダメって言うんすか?
例のガキは。

吾助

「まあまあ」だそうだ。

銀次

俺がどんだけ大変な思いをして買ってきてると思ってやがるんだ!

吾助

感謝してるよ。

銀次

そうっすか?

銀次

アニキにそう言ってもらえると、
嬉しいっす。

銀次は吾助が大好きです。

銀次

今度の糸はイイっすよ。

じいさんに勧められたんすよ。

吾助

ジジイの?

銀次

山を五、六個越えた密林に行かされて、天狗の面をつけたオヤジから買ってきました。

吾助

……………………。

吾助

……ご苦労だったな。

銀次

アニキのためなら、
どうってことないっすよ。

吾助

……すぐに買えたのか?

銀次

「俺様を倒してからにしろ」とか言ってきたから、ちょいと遊んでやりましたけどね。

吾助

どれくらい?

銀次

三日三晩ほどでさぁ

吾助

それで最近見かけなかったのか。

銀次

これが意外と強いオヤジで。

その甲斐あって、見事な糸なんすよ。俺ぁ、ほれぼれしちまったっすよ。

これなら間違いありませんぜ。

吾助

……ジジイは?

銀次

診療所にいるんじゃないすか?
出てきてないっすよ。

吾助

……。

吾助

多紀さんの方はどうだ?

銀次

あいつは俺にはもったいない
いい女房です。

吾助

それはわかってるから……。
織物の方だよ。

銀次

へへっ

嬉しそうに銀次が笑います。

銀次

俺が苦労して手に入れた甲斐あって、見違えるものができましたよ。

吾助

そうか……。

銀次

それでも、ガキが作ったっていう反物には、とてもかなわないって言ってました。

俺は女房の作る反物もなかなかだと思うんすけどね。

吾助

……。

吾助

それも後で見せてもらう。

銀次

じゃあ、すぐに持ってくるっす。

吾助

そんなに急がなくてもいいぞ。

銀次

一刻でも早く持ってきますぜ。

銀次は走って行ってしまいました。

吾助

今度は天狗の面のオヤジ?

吾助

ジジイの周囲は昔から謎が多い……。

銀次はすぐに戻ってきました。
手には反物を持っています。

銀次

うちのが作った反物っすよ。

銀次は反物を吾助に渡します。

吾助

……。

吾助

あいつが作ったのほどではないが、いい出来だな。

初めに見たのがこちらの反物だったら、これを良いと思ったはずです。

銀次

俺はこっちの方が
いいと思うっすけどね。

吾助

感じ方は人によって違うからな。
どっちがいいかはその人次第だ。

銀次

へへ。

吾助

これ、預かってもいいか?

銀次

どうぞどうぞ。

吾助

こっちも一緒に
交渉してくる。

銀次

よろしくっす。

吾助

あと、その天狗の糸、
大量に仕入れられるか?

銀次

任せてください。

吾助

頼む。

銀次

アニキにそんなこと言われて、断れるヤツなんてこの町にはいませんぜ。

そう言って、銀次は軽い足取りで帰っていきました。

吾助

……。

吾助

志乃のところに
先に行くか……。

吾助は高級住宅街の方に向かいました。

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