『そんな事もあったかもしれんが昔の話だ。
今はもっと大人しいさ』と彼女は言う。
~その3~

第三電子魔術実験都市
 ~第五区画地下某所~

 研究員の中には魔術書の実験に携わる者がおり、それを魔術師と呼称している。
 二級魔術師は電子魔術書の起動と操作出来る者。
 一級魔術師は電子魔術書を応用して扱える者。
 特級魔術師は電子魔術書の可能性を更に引き出せる者。
 イデグチは特級魔術師としても最高の実力者である。

イデグチ

さあ、そっちの彼も魔術書破損は避けたいみたいだし、

お前も二冊も魔術書失ったらもう手詰まりだろ。

ロリ魔

………

ロリ魔

なんで、そう思うんだ。

イデグチ

そりゃ、一般的に魔術書を扱うってことは、その本を理解するってことだ。

多くの時間をかけて読み込んで、それを使えるように研究する。

理屈で言えば時間さえあれば何冊も使えなくもないが……。

時間と労力を考えれば、1冊をしっかりと使いこなしたほうが遥かに効率的さ

お弟子君

まあ、確かにその通りの理屈ですよね。

だけど……魔術師さん。

魔術書を理解する者は、何も研究者だけではないのですよ。

イデグチ

そりゃそうだろう。別に研究者って言う縛りは無い。

普通の一般人だって、理解しようと思えばできるモノさ。

お弟子君

……んー、いまいちニュアンスが違いますね。

ま、見てもらえば解かりますかね。

イデグチ

…………

イデグチ

いったいなんだって………。

ロリ魔

こういう事だ。

イデグチ

バカな……三冊目

イデグチ

ありえない。

……人一人で、そんな何冊も使いこなせるほど魔術書を理解できるわけ…。

ロリ魔

三冊で驚かれちゃあな。

なんなら、あなたが一週間眠れないくらいの本を用意するぞ?

イデグチ

あ、ありえないだろう!!

手に入れるのも、解読するのも、使いこなすのも!!

一人1~2冊が限度だろう!?

なぜそんなことができるんだ!?

ロリ魔

なぜかって?

お弟子君

そりゃあ、きっとメアリーの婚活よりも簡単な話ですよ。

ねえ、お師匠。

ロリ魔

私が書いた魔術書よ?

あたり前じゃない。

イデグチ

……ま、まさか……マギカライター。

ロリ魔

で、どうするんだ?

大人しく鍵を渡すのか?

イデグチ

……ちょっとまってくれ。

お前、本当に魔術書を書けるのか?

ロリ魔

これでも魔女だぞ?

お弟子君

あと作家ですよね。

イデグチ

マジか……。まさかこんな人材が転がってるとは。

なんとかして引き込みたい。

イデグチ

なあ、あんたうちの上司と話したいんだよな?

ロリ魔

会わせてくれるのか?

イデグチ

こんなヤクザのカチコミみたいな状況じゃあそれは難しいんだが……。

いったいどんな要件なんだ?

ロリ魔

……いや、まあそのあたりのことはなぁ

イデグチ

なんか、上司と良いこいつと良い、話を濁すな

イデグチ

はっきり言ってくれ。何が要因なんだ?

お弟子君

スーパーで割り込みされて缶チューハイ買えなかったんですよ

ロリ魔

ちょ、あんた勝手に何を言うんだ!!

イデグチ

………

イデグチ

……マジ?

お弟子君

マジです

イデグチ

マジですか?

……まあ、そんなこともあったかなぁって

お弟子君

そっから激動のカーチェイスを繰り広げて、13回の信号無視。

一般市街地での魔術使用に事故未遂数回。

お弟子君

第三電子魔術実験都市に逃げ込まれた時にそちらの正体が解り、引きずり出して謝らせるとお師匠が聞かなくて。

あ、そちらの横入りは事実ですね。

店員も証言してます。

イデグチ

……いや、民間で何やってるんですか。

私とて買い物くらいする。ただそこで、譲れない事があっただけだ。

ロリ魔

あれは一年に一回のセール品。並んでダメだったのならまだしも……。

横入りが無ければ、私はラス一をゲットしていたのだよ!!

お弟子君

僕も正直、大人げないなとは思ってるのですが……。

お師匠は言い出したら聞かないので、こちらに譲って頂きたい。

イデグチ

………

イデグチ

それで、この場は帰って頂けると?

お弟子君

流石にそれ以上は、どんな我儘言っても引きずって帰ります。

ロリ魔

失礼だな!!
目的達成すれば帰るさ!!

ロリ魔

私の目の前で土下座させて、頭を踏みつけてチューハイ回収したらな。

イデグチ

……土下座云々は置いといて、横入りはダメでしょう。

チューハイだけで良いので、エレベータでこっちに送ってくれますか?

………

……いいかいイデグチ特級魔術師君。

私はこの第三都市を預かる評議会の一人だ。

イデグチ

ですね。

そんな私が、賊のいう事を聞いて、私の大切な財産を差し出すと思うか?

イデグチ

………………

イデグチ

……は?

あってはならないのだよ。

メアリーの寿退社並みにあってはならないのだ。

ロリ魔

いや、それは許してやれよ。

それに私が庶民スーパーで安売り買ってるとか。

そんななんかカッコ悪い話が流れたら……

イデグチ

いやいやいやいや!! 何言ってるんですか!!

こんな荒らされたな状態で、これ以上被害出すつもりですか!?

良いから君はそいつらを追い返せば良い。それで解決だ。

イデグチ

ま、マジで言ってるんですか!?

どんなギャグですか!?

吉本系!?

イデグチ

死んでしまええええええええええええええええええええええ!!

お弟子君

そっちも大変ですねぇ。

どうです? きっと竹馬一緒にできるくらい良い友人に成れそうですし、

このまま三人で攻め入っては?

ロリ魔

ほんと、我儘な主人に振り回されるなんて、同情するわな。

お弟子君

ああ、それ面白いジョークですね。

イデグチ

……マジでうちの上層部は解体したほうが良いかもしれない。

だけど……今ここで攻め入ったところで、最終的にはたぶん三人じゃ生き残れないし。

イデグチ

……ここで安易に通したら、難癖つけられて捌かれるのは俺か

ロリ魔

で、いい加減そろそろ、鍵を渡してくれないか?

イデグチ

……やはり何とか帰って貰えないか……

ロリ魔

おい!! 聞いてるのか!?

こっちだって、早く帰って執筆しなくちゃいけないんだ!!

お弟子君

今月やっと入った仕事ですからねぇ。

これで来月はもやしの炊き込みご飯以外を食べることが出来そうですけど

イデグチ

おいまて、魔術書を書いて売ってるのか!?

お弟子君

いやいや、それに限らず魔女の仕事なんて今は需要ないですからね。

タウン誌のコラムですよ。

イデグチ

ここまでの魔術書を書けて、需要が無い?

イデグチ

……なるほど、どうやらここにおける需要を、彼女は知らないらしいな

イデグチ

仕事に困っているのか?

ロリ魔

作家なんてそんなものだ

イデグチ

……良ければ仕事紹介しようか?

ロリ魔

あなたが?

……悪いけどそんな権力あるようには思えないな

イデグチ

ま、まあ上司に通さないといけないが

ロリ魔

あんたの上司って、『あれ』じゃないか。そんなことできるとは思えないけどな。

イデグチ

ま、まあ確かに今すぐは難しいが。

イデグチ

それでも、将来的にこいつに利用価値がある。

俺の紹介って話をすれば昇進に効果はあるだろうし。

魔術書をいつでも確保できるのなら……、それ自体すらここでの権力にもなる。

ロリ魔

まあ、あんたがお偉いさんだったとしたら、考えても良い話だったけどな。

イデグチ

………

イデグチ

……お偉いさんか。
あながち、今の状況を考えると、成れないわけでもなさそうだな。

イデグチ

缶チューハイって、ひと箱いくらだったんだ?

お弟子君

出血大サービスお得価格1ケース2000円でしたね。いつもの半値です。

イデグチ

……ここは俺が通常価格支払うから、修めてくれないか?

ロリ魔

金の問題じゃない。メンツの問題よ。

お弟子君

すみませんねぇ、別にこちらもヤクザってわけじゃないんですけど。

イデグチ

そうか。てっきり今の発言で、指でも差し出せばいいかと思ったよ。

ロリ魔

例え2ケース分渡されたとしても、私は退かないぞ?

お弟子君

流石ですお師匠。迷惑極まりないですが、その心意気だけは尊敬します。

今月も油断ならない財政状況なのに。

イデグチ

お嬢ちゃん。

イデグチ

20,000円あげるから家にお帰り。

第三電子魔術実験都市
 ~第五区画地下某所~

 現在の電子魔術書は、そのほとんどを古来より伝わるアナログの魔術書をデジタル化したものを研究材料としている。
 しかしその中で出所不明だったり、もともと電子化された状態で発見されるものがある。
 一説によれば、それはそれは現代の魔法使いが執筆した者であり、そう言った魔術書を書くものを『マギカライター』と呼称する。

いやあ、流石はイデグチ君だ。あれほどの強敵を撃退するとは。

イデグチ

恐縮です。

追跡調査は進んでいるのか?

イデグチ

残念ながら、調査隊からは見つかったとは報告が来ていません。

まあ良い。うちの電子魔術師たちにも、いい経験になっただろう。

電子魔術書の破損は痛手だが、まあそれも致し方が無い。

魔術書不足の問題はもとからあった話だからな。

今回の件があっても無くても大差はない。仕方のない問題さ。

イデグチ

それは良いことを聞きました。

ん?

何か言ったか?

イデグチ

いえ、別に。

魔術書不足の問題が解決したとしたら、それはなかなかの功績ですね。

ああそうだな。

君も何か手があったら私に報告するように。

イデグチ

………

イデグチ

ところで、今日これから外出したいのですが?

ん?

何か営業でもしてくるのか?

イデグチ

ま、そんなところですよ。

未来に繋がればいいのですが

そうか、期待しているぞ?

イデグチ

ええ、楽しみにしていてください。

栗藻羽町
 ~ルチアの家~

 魔女はひっそりと生き延びていた。
 しかし、その術は実に限定的になっており、特にその中で一番この時代に適したものは『魔術書の執筆』であった。
 一部の人間が呼称していた『マギカライター』という名は、いつしか魔女が世の中に必要とされてきた時、彼女たちもまたそれを名乗るようになる。

イデグチ

おーいロリ魔センセ。 仕事依頼持って来たぞー?

ロリ魔

……おい、お前。今月何件目だ。

イデグチ

まだ三件じゃないかセンセ。

ロリ魔

終わってないんだよ!!

ひとつ前の依頼が!!

イデグチ

積んでいいからよ。頼みますわ。

お弟子君

あ、イデグチさんいらっしゃい。今月は依頼多いですね。

イデグチ

おかげさまで魔術書不足は改善傾向だがな。

しかしまだまだ足りん。

お弟子君

依頼のお蔭でこっちは食うに困らなくなりましたけどね。

本当に感謝しています

イデグチ

おいおい、食うに困ってたのはもう20年以上前だろ?

何をいまさら。

ロリ魔

……ん、そうかもうそんなになるのか。

私の作った魔術書をそっちの上層部に売り込んでくれてから。

ロリ魔

それはもう、良い手柄になったんだろ?

まったく、私を利用しやがって。

イデグチ

良いだろう? 

ちゃんとあの上司を連れ出して、土下座させて靴まで舐めさせたんだから。

ロリ魔

靴舐められた時は、あまりの悍ましさに蹴っ飛ばしたけど。

お弟子君

今となっちゃあ、第三都市にお師匠は無くてはならない存在ですからね。

それが過去の禍根を持ち出して来たら……まあ、無視できないでしょう。

ロリ魔

まあ、そう考えると……いろいろあったな

それにしてもイデグチ。お前未だにこんなところに原稿回収役とか……。

いつまでも下っ端って問題なんじゃないか?

イデグチ

俺は前線で仕事したいんだよ

イデグチ

まあ、実のところとっくの昔に評議会入りしてるんだが

イデグチ

なんせ顔が割れてたら、缶チューハイ一つで襲撃に合う可能性があるからな。

昇進したとしても、センセには言わねえよ。

ロリ魔

昔の事を持ち出すな。あのころは私も若かったんだ。

イデグチ

いや、若かったって……。その外見で何を言ってるんだよ。

ていうか、なんでお前ら歳喰ってないんだ?

ロリ魔

魔女だからな。死ぬ時にしか老化しないのさね。

イデグチ

だとしても……。

……じゃあお弟子君はなんでだよ。

お弟子君

まあ僕は……。

マギカライターの弟子ですからね。

イデグチ

答えになってねえよ。

イデグチ

……まあ、もしそうだとしたら……。

お前にもそのうち働いてもらうからな?

お弟子君

気長に待っていてくださいね。

~終わり~

『そんな事もあったかもしれんが昔の話だ。今はもっと大人しいさ』と彼女は言う。~その3~

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