――キルケー魔法女学園 研修施設 部屋――

レイリー

はぁ、はぁ……よくわからないまま部屋に飛び込んでしまいましたけど、この部屋は……?

サニー

さらにほこり臭くなったねー。物置なのかな? 色んな物が置いてあるけど

回廊を抜けた場所にあった部屋は暗く、室内を照らす電球の一つは切れていた。

家具や本などが雑多に置いてある中、ひとかたまりの山がサニーの目に留まる。

サニー

なんかこの辺の物、面白そうだなー。この時計とか、普通とは文字盤が違っててオシャレだよ。
動いてないのかな、時間が全然合ってないし――

何の気なしに、サニーが置き時計を手に取り、反時計回りに針を動かす。

しかしそれを見た友人たちは、サニーを指差して固まった。

エマニュエル

サリー、あなた……!!

ヴェロニカ(アニー)

あはははは。サリー、背が縮んじゃってるよ

サニー

へ?

当人が自分の姿を改めると、確かに言われた通り身体が一回り小さくなっていた。


しかし、背が小さくなったと言うよりは。

サニー

なんで子供になっちゃってんの?

エマニュエル

……子供の頃のサリーも、今と大差ないのですね。あらゆる意味で

サニー

何それどういう意味

エマニュエル

成長が感じられないと……いえ、今はそれどころじゃありませんでしたわ

レイリー

ど、どうするんですかその姿……! その時計のせいでしょうか!?

サニー

まあそうだろうね

サニーが頷きながら時計を棚に戻すと、すぐに彼女の容姿は元に戻った。

サニー

手に持たないと効力がないみたいだね

レイリー

ああ、よかった……

チズ

なるほど。針の先の文字が『-5』になっているな。
5歳若返った姿になる、ということだろうか

ヴェロニカ

へええー、おもしろーい。歳を取るほうもやってみてよサリー

サニー

なんで人にやらせようとすんの。ていうかこの文字盤……100まである……

レイリー

100年後の姿――

それ以上は誰も続けない。


またも寒気を感じたようで、レイリーは友人たちを部屋から出るように促す。

レイリー

ど、どうやらこの部屋には魔法道具があるようです。
安易に触ったら危険かもしれません

エマニュエル

そ、そうですわね。とりあえず……100年後の姿なんて見たくありませんわ……

次の部屋次の部屋へと、急ぐサニーたちだった。

――キルケー魔法女学園 研修施設 廊下――

最後にたどり着いたのは。
地下に潜ったはずの階段を、また登ったところにあった突き当たりの部屋だ。


扉には月桂樹を模した装飾が彫られており、ついさっき掃除したかのように汚れはなく、美しかった。

サニー

立派な扉だね。もう残ってるのはこの部屋くらいかな。

サニー

……でも鍵がかかってる

レイリー

何かありそうですね。気になりますけど、鍵がかかってるなら――

ヴェロニカ

夫人は鍵開けの魔法使えたよね~?

エマニュエル

ええ、使えますけど……開けるんですか? 本当に?

サニー

ここまで来て諦めるのもおかしいでしょ。この部屋で最後なんだから

エマニュエル

そうかもしれませんけれど……

チズ

何かあったらすぐ逃げられるようにしておこう

サニー

うん。大丈夫だよ、アタシが先頭を歩くから

エマニュエル

……わかりましたわ。では――

エマニュエルがひとことふたこと呟き、小さな光がドアノブ周辺を包む。

何度か瞬いたあとそれらは弾け、代わりにガチャリと音がした。

エマニュエル

成功です

サニー

おっけー。じゃあ、行こう

迷いなくサニーはドアノブに手をかけ、扉を開く。
友人たちもためらいながらそれに続く。

エマニュエル

こういう時のサリーはやけに頼りになって、恐ろしいくらいですわね

ナタリア

自分の意思がハッキリしていて、羨ましいな……

ヴェロニカ

ちゃんと先頭行ってくれるのは助かるよね~

チズ

無謀とも思えるが、サリーが決断してくれるからこそ前に進める

レイリー

褒めすぎると調子にのると思いますけど。
でも、そうですね――サリーのそういうところは、私も好きです

ゆっくりと扉を開いた先の部屋は、光に満ちあふれていた。

10-2|古き洋館の息遣い・後編【6/1l更新】

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