第十話 古き洋館の息遣い・後編
第十話 古き洋館の息遣い・後編
――キルケー魔法女学園 研修施設 部屋――
どこの部屋も作りは同じなんだねー
そうみたい。壁は丈夫で抜け道、抜け穴、怪しいところはなし……
それぞれが被害に遭った時刻や状況もバラバラですよね
……なおさらよくわからなくなってきたな。
サニーは何か心当たりがあって調べようと言ったのか?
ないよ!
清々しい答えだ
でもこの洋館無駄に広いのに、アタシたちが見て回ったのって一部じゃない?
この洋館がどんな場所なのか、調べてみる必要があると思う
という理由をつけてここを探検したいと
うん
あっけらかんと答えるサニーに、皆が拍子抜けする。
いつどこで幽霊が出てくるかと緊迫している友人たちとは対照的だ。
そこまで開き直られると……
さー、ゆっくりしてたら朝ご飯の時間になっちゃうよ。行こう行こう!
とはいえ一度決めたこと、一同は腹をくくって未知の部屋の探索に乗り出したのだった。
――キルケー魔法女学園 研修施設 廊下――
ここも普通の部屋でした。ただ他と違うのは、いくつか新しい書類や本があったことでしょうか
手分けをして部屋を回っている途中、レイリーがそんな風に報告を入れる。
書類や本?
ええ。恐らくですが『施設管理者』の部屋ではないかと
それ重要じゃん!
でも、特に変わった物はありませんでしたよ。
館の管理費の帳簿や、広間に置いてある電化製品の説明書が置いてありました
現実的だな
ちゃんと管理されてるのね。
それなのにどうしてその人はいなくなったのかな……?
どっかで死んじゃってたりして。あはははは~
ヴェロニカの冗談に、一気に場が静まり返る。
笑えないと友人たちの顔色は青くなっていた。
まさか……館で不遇の死を遂げた施設管理者の霊が、わたくしたちに何か訴えているのでは
し、死体を見つけて欲しいと……そう呼びかけているんでしょうか
再びの沈黙。
誰一人として反論はしない。そうだとしてもおかしくないと全員が思っていた。
……よし、探索を続けよう。もしそれが真実なら、アタシたちがなんとかしないと!
――キルケー魔法女学園 研修施設 地下回廊――
そうして探索の場所を地下へ移したサニーたちがまず最初に見たのは、
おびただしい数の絵画が飾ってある回廊だった。
肖像画……? この館に住んでいた人たちでしょうか
かなり古いものですわね。にしても服装がどこか……珍妙というか。
この女性の身なりなんてまさに魔女じゃありませんこと?
魔女でも不思議ではないな。うちの学園の施設なのだから
魔女の館かー
サニーがぽつりと呟いた言葉に、また一同が静かになる。
ね、ねぇ……静かになるのやめよう……? なんか出てきそう……
――っ!!
震える声でナタリアが呼びかけた瞬間、レイリーが息を呑む。
そして一枚の絵を見つめたまま硬直した。
や、やめてよレイリー脅かさないで……
あの老人の絵……さっきは向こうを向いていたと思ったのに
老人? ちゃんと見ていなかったからわからないな。
でもそう言えば――
ふと、チズが手近にあった若い女性の絵の額に触れる。
すると不思議なことにどこからか囁き声が聞こえてきた。
甘い物は好きよ。ケーキでも果物でも、わりとなんでも食べるわ。
嫌いな物は……お父様の説教かしら
……っ!?
チ、チズ……何か言いました……?
いや、わたしじゃない……
そして後ずさりしたエマニュエルの袖が、トンと反対側の絵に触れた。
すると。
どうも気苦労が絶えません。
子供たちが奔放すぎて……育て方を間違ったのでしょうか
ひっ……!?
もっと大きな庭にしたいわね。色とりどりの薔薇を植えて華やかにするの。
ああでもその前に外壁の補修をしないと――
今年はいい作物が取れました。来年は趣向を変えてザクロを――
老若男女、あらゆる肖像画が一斉に喋り出す。
簡単な自己紹介から世間話、近況、本の物語まで内容は様々。
確かなことはとにかく、絵が喋っているという驚くべき状況だった。
なになに? 急にうるさくなったんだけど
喋る肖像画だなんて……
わー、すごい。これどんな魔法使ってるのかな!?
呑気ですねサリーは……! もう行きましょう、寒気がしますっ
ドタバタとサニーたちは回廊を去って行く。
ずらりと並んだ肖像画たちは、彼女らが去ってなお騒々しくお喋りを続けていた。