食事を終えた私は、サフィラさんに案内され、広い洋館の案内をしてもらっていた。

サフィラ

ここが、食事部屋から一番近いトイレですわ。

 そう言って、サフィラさんが指差す。

ジャスミン

トイレ、広いんですね。

 女子トイレの個室が、ここから見えるだけで、6個もある。

サフィラ

たくさんのお客様が来ることもありますしね。

では、次にいきましょう。

 長い廊下に響き渡る私とサフィラさんの足音。

 静まりかえった廊下には、よく響く。

サフィラ

ここが、私の部屋です。

 そう言って足を止め、ドアにかかったサフィラという文字のプレートを指差した。

サフィラ

何かあれば、ここに来てください。

では、最後に、あなたの部屋を案内しますね。

ジャスミン

は、はい……。

私は、言われるがまま付いて行った。

 廊下に響き渡る靴の音、後ろを振り返ると、廊下の先が暗闇に飲まれている。

 改めて気づいたが、使われていない部屋が多々あるようで、しかも、隣の部屋との距離がとても長い。

サフィラ

ここが、ジャスミンさんの部屋です。

 そう言って、サフィラさんドアノブを回した。

ジャスミン

わあ、広い部屋。

ここを使っていいのですか?

サフィラ

ええ、ここはお客様用に用意しているお部屋ですから。

ジャスミン

そうなんですか。ありがとうございます。

 私は、閉じているカーテンを開けてみた。

 外は大雨が降っていた。

サフィラ

大雨ですわね。

 サフィラさんが窓の外を見ながら言う。

ジャスミン

そうですね。

ここに泊めてもらえて良かったです。

泊めてもらえていなかったら、今頃、この雨の中でずぶ濡れですね。

サフィラ

この分だと、明日も続きそうね。

明日も雨だったら、もう一泊していったら?

この洋館に記憶の手がかりがあるかも知れませんよ?

ジャスミン

悪いですよ……。

見ず知らずの私を何日も泊めるなんて。

サフィラ

見ず知らず……ねー。

まあ、アーサー様は許してくださるわ。

 何か意味深なことを言ったサフィラさん。

 私のことを知っているの?

ジャスミン

あ、あのー。

もしかして、私のこと知っていますか?

サフィラ

いいえ。何にも。

 笑顔で答えるサフィラさん。

 そして、サフィラさんは、思い出したかのように言った。

サフィラ

そうだ。

ジャスミンさん。

今日はもう、部屋の外に出ないほうがいいですわ。

ジャスミン

え、どうしてですか?

サフィラ

窓から外を見てみなさい?

 外は雨が降り、森が赤い月明かりに照らされている。

 あれ? 月明かり?

ジャスミン

サフィラさん、これって……。

 噂好きなサフィラさんがニヤリと笑う。

サフィラ

フフフッ……。こんな大雨なのに月明かり。

おかしいわよね? それに、赤い満月の夜は何かが起こる。

そして、この地方では、赤い月夜の雨は特に良くないことが起こるという噂よ。

そう、具体的に言えば殺人。とかね。

ジャスミン

さ……、殺人ですか……。

サフィラ

冗談よ。ただの噂話。

でも用心しておきなさい。

噂話は怖いものよ?

ジャスミン

……。

 サフィラさんは、そう言い残して部屋を出て行った。

ジャスミン

私、完全にからかわれているなー。

 私はベッドに身を委ねると、疲れていたのか、そのまま眠りについてしまった。

pagetop