マリー

……。

 マリーさんは、やっぱり怒っていた。

 しかし、それにかまわず、クロードさんは話を続けた。

クロード

木の実を採りに、森に入ったときのことです。

マリー様は、当時、活発なお方でして、晴れている日は、いつもお屋敷の外に出て、遊んでいたんです。

 クロードさんは思い出すように話し始めた。

ジャスミン

へえー。意外ですね。

 マリーさんの第一印象として、とても優しい穏やかな人という印象があったので、少し驚いた。

クロード

そして、いつもなら、当時子供であった、私を含める使用人の誰かがついていたのです。

しかし、その日に限って仕事が多く入っていて、マリー様についていられる使用人がいなくなってしまったのです。

 クロードさんは少し暗い顔をした。

ジャスミン

仕事ですし、仕方がないことじゃないですか。

 私は、クロードさんに言った。

 誰でも、そういう時はある。

クロード

ええ、確かにそうなのですが……。

その日、マリー様は森に木の実を採りに行ったみたいで……。

 ああ、よくある展開……。

ジャスミン

森で迷子になっちゃったんですか?

 私は、言った。

クロード

はい……。

私たちが気づいた頃には、日が傾きかけていて……。

 すると、マリーさんが話しに入ってきた。

マリー

あ、あの時は仕方なったのよ。

誰も、私のことを相手にしてくれないし……。

 少し照れながらマリーさんが言う。

ジャスミン

意外と寂しがりやさんなんですね。

 このとき私は、マリーさん使用人達に好かれている理由がなんとなくわかった気がした。

マリー

え!?

私、からかわれてる!?

クロード

それで、、私たちは総出でマリー様を探したんです。

ジャスミン

どこにいたんですか?

 私はクロードさんに聞いた。

クロード

それが、森の中にある花畑で、眠っていらっしゃって。

ジャスミン

マリーさん可愛いですね。

マリー

……。

 マリーさんは何も言わないで、顔を赤くして俯いている。

クロード

ええ、正直、ほっとしました。

だから、こういうことが無いようにと、マリー様のお父様から、怖い昔話を作り、勝手にマリー様が森の中に入るのを防ぐという依頼があり、当時の使用人達でこの話を作ったということですね。

まあ、正直、怖くもなんとも無いのですが……。

ジャスミン

それを言ったら、マリーさんがかわいそうですよ。

マリー

ふ、ふんっ! 

そんな話、怖くもなんとも無かったわ!

 こういう性格が、使用人から好かれる性格なんだろうなー。

 私は心の中で思った。

サフィラ

あらあら、はじめてこの作り話を聞いた夜にお漏らしをしたのは誰でした?

 サフィラさんが不適な笑みを浮かべて話しに入ってきた。

マリー

そ、そんなこと……。

わ、忘れたわ!

 マリーさんは、たぶんこのことを鮮明に覚えているのだろう。

 私には、わかってしまった。

アーサー

こらこら、食事中にそういう話は厳禁だ。

まあ、マリーの可愛い話が聞けたから、別に良いけど。

 とうとう、アーサーさんまで話に乗ってきてしまった。

マリー

ア、アーサー!

ユース

ハハハッ。

シルビア

フフフッ。

クレア

フフッ。

 そんなこんなで、私は、このお屋敷の住人達と楽しく食事をした。

 このときは、まだ思いもしなかった。

 これから始まることになる、恐怖の時間の存在を……。

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