特別編・6(全3回)
特別編・6(全3回)
今回のお話の主人公:ミューリエ
場所:ラート中央街道
時期:第32幕の序盤
第2の試練の洞窟を出発したアレスたちは、
リパトの町へ向かって歩いていた。
その途中、
不意にミューリエがアレスに声をかける。
アレス、すまん!
えっ?
どうしたの、ミューリエ?
洞窟のそばに
忘れ物をしてしまったようだ。
取りに行ってくる。
…………。
そうなのっ?
じゃ、すぐに戻ろう。
いや、私だけでいい。
アレスはリパトの宿で
待っていてくれ。
なるべく早く追いつく。
でも……。
アレス、
ミューリエの言う通りにしようぜ。
コイツ1人の方が身軽だから、
もしかしたら
オイラたちがリパトに着く前に
合流できるかもしれない。
あ……確かにそうかも……。
ミューリエ、
絶対に追いついてきてよ?
約束だよ?
このままいなくなっちゃうなんて、
僕は嫌だからね?
あぁ、約束だ! 安心しろ!
良かった!
じゃ、気をつけてねっ!
……っ……。
アレスたちはリパトへ向けて歩いていった。
ひとり別れたミューリエは
彼らの姿が見えなくなるまでその場で見送る。
…………。
……行くか。
ミューリエは意を決し、
第2の試練の洞窟へ向けて歩き出した。
ある目的を果たすために……。
やがてミューリエはウェンディのいる
小屋の前に辿り着いた。
そのまま第2の試練の洞窟の方へ歩を進める。
アレスよ、許せ……。
ミューリエは胸の奥でアレスに謝罪した。
というのも、
忘れ物をしたというのは嘘ではないが、
それは『モノ』ではなかったからだ。
――忘れ物、それはデリンを殺すこと。
このまま彼を放っておけば、
確実にアレスの前に障害となって立ち塞がる。
魔王ノーサスの配下である四天王が
そう簡単に心を開くわけがない。
元・魔王である彼女には
それがよく分かっていた。
だからといって、
アレスの前でデリンを殺すわけにはいかない。
そのため、一旦は封じるという形にして
あらためて滅そうと考えたのだ。
っ!?
……クレアか。
ミューリエは木陰に魔族の気配を感じ取り、
静かに声をかけた。
すると彼女の使い魔であるクレアが姿を現す。
優しいのね、ミューリエ。
どういう意味だ?
有無を言わさず、
さっさとデリンを滅しておけば
こんな面倒くさいことを
しなくて済んだのに。
勇者様への気遣い?
元・魔王様とは思えない甘さね。
……うるさい。
相変わらずお前は一言多い。
あら、それは失礼っ♪
ところで、ほかの四天王たちの
様子はどうだ?
今のところ、
目立った動きを見せているのは
シャインだけね。
色々と悪巧みをしているみたい。
シャインか……。
ミューリエは頭を抱え、深いため息をついた。
シャインは魔王の四天王のひとりで、
子どものような無邪気さと残酷さを
併せ持っている。
しかも力や魔法にも長け、行動も読みにくい。
そうした厄介な相手だと
分かっているからこそ、
ミューリエは額にシワを寄せているのである。
シャインは執拗さだけは
四天王で一番だからな。
しばらくはヤツに
苦労させられるだろうな。
えぇ、彼女に対しては
特に意識して警戒しておくわ。
頼む。
それからほかの2人だけど、
どっちもしばらくは
脅威にならないでしょう。
エミットは勇者様のことを
歯牙にもかけていないみたい。
魔界で魔族たちの統制に
注力しているわ。
今の四天王最強なだけはある。
力が落ちている私では、
太刀打ちできるか
微妙なくらいだからな。
だが、あいつは力がある分、
慢心していて常に動き出しが遅い。
焦って動くころには
アレスが力を付けているだろう。
でも大きな壁になるには
違いないでしょうけどね。
クロイスはどうだ?
彼女は勇者様よりも
別のことに興味が強いから。
しばらくは動きそうにないわ。
ギーマのことか……。
ギーマとは魔界一の薬草師――。
彼に作れない薬はないと言われるほどで、
魔族の医師や薬草師たちから
『老師』と呼ばれて尊敬されている。
ただ、『とある噂』が原因で彼の身柄を
拘束しようとしている魔族が多くいる。
クロイスもそのひとりだった。
そのため、
彼は数百年前から魔界某所へ身を隠している。
ちなみに彼は
ミューリエやクレアと旧知の仲である。
でもシャインから
助力を求められたら
クロイスは動くと思う。
そうだな。
それなりに警戒は必要か。
じゃ、私は仕事に戻るわね。
報告、ご苦労。
その言葉を聞くか聞かないかのタイミングで、
クレアは転移魔法によってその場から消えた。
再びその場に静けさが戻ったところで、
ミューリエは厳しい表情を浮かべる。
そして洞窟の方へ向かって声をかける。
……出てきたらどうだ?
ふむ……。
直後、何者かが洞窟の奥から姿を現す……。
次回へ続く!