与兵のしつけ方

家に入り、与兵が台所に行ったので、鶴太郎は吾助に聞きました。

鶴太郎

与兵って、恐ろしく
コマシじゃない?

鶴太郎

無意識っぽく言ってる言葉が
妙にドキドキすんだけど。

吾助

あれ、反射で言ってるだけだから、
本気にすんなよ。

鶴太郎

反射?

吾助

あれで勘違いする女
多数。

鶴太郎

ぷぅ

鶴太郎は面白くありません。

吾助

ちょっと遊んだら、
才能が開花したんだ。

鶴太郎

何したわけ?

吾助

昔、あいつとケンカして、
あいつの部屋に籠城して……

鶴太郎

なんで?

吾助

さあ?
ガキだったし。

与兵

吾助!出て来いよ。
俺が寝れねえし!

吾助

下の診療用のベッドで
寝ればいいんじゃね?

診療所の屋根裏に与兵の部屋がありました。

与兵

やだよ。
オバケ出たらどうすんだよ!

吾助

そーだよな。診察用だもんな。
すっごい怪我とかして、あそこで死んだ人とかいるんだろうな……。

与兵

そ……そんなことないぞ。じいさんは腕のいいお医者さんだぞ。亡くなった人なんて、聞いたことないし。

この診療所で亡くなった人はいません。
でも、病院の怪談はよく聞きます。

吾助

どうかな?
死んだことに気づかない幽霊が、助けてくださいって、来るかもしれないな。

吾助

きっと血まみれだぞ……。

与兵

…………。

与兵

吾助、泊まってっていいから、
一緒に寝ないか?

吾助

…………。

吾助の方が、
少しおませさんでした。

吾助

あれが最初だったな。

鶴太郎

天然だね。

吾助

まあな。

鶴太郎

それで、泊まったの?

吾助

いや、帰った。

与兵

吾助!頼む!
泊まってってくれ!

吾助

嫌だ。帰る。

与兵

お前が変なこと言うから、
怖くて寝れないじゃないか!

吾助

オバケなんて出ねえから。

与兵

ホントか?

吾助

たぶん……。

与兵

たぶんってなんだよ!

吾助

百パー出ねえとは
言い切れないからな。

与兵

やっぱ、
出るかもしれないのか?

吾助

だから俺には
わかんねえって言ってんだろ。

与兵

吾助! お前、無責任だぞ。
俺をこんな気持ちにさせた責任、ちゃんと取ってけよ!

吾助

え……?

吾助の方が、
おませさんです。

与兵

泊まって
俺と寝ろよ!

そのまんまの意味で言っています。

吾助

えと……。

与兵

そしたら、お前の言うこと
なんでも聞くから……。

吾助

は?

与兵

その……、
俺ができる範囲でだけどさ……。

吾助

…………。

与兵

痛いのも
我慢するぞ。

殴られたりするのを想定して言いました。

与兵

それでもいいから俺と寝てくれ!

与兵はオバケが怖かっただけです。

吾助

と言う与兵を置いて帰った。

鶴太郎

いいな……。
小さい与兵にそんなことを言われるなんて。

吾助

それが少しずつグレードアップしたって感じ?

与兵

そんなこと言ってねーし。
変なねつ造すんな!

お鍋とお椀を持った与兵が来ました。

吾助

言ってたぞ。

与兵

吾助が悪いんだろ。
普通に言うだけじゃ出てこねえし。

そう言いながら、お鍋を囲炉裏にかけ、トン汁をよそいます。

吾助

お前が勝手に言ってただけだろ。

与兵

俺、恐ろしいことを言うガキだったんだな……。

大人になってから聞くと、血の気が引くような内容でした……。

鶴太郎

ぷぅ。

こつんと与兵に寄りかかりました。

与兵

うわっ。

与兵が汁をこぼしそうになります。

与兵

危ないから気を付けろって言ってるだろ。

鶴太郎

ボクも小さい与兵と遊びたかったな……。

与兵

無理。

鶴太郎

ぷぅぷぅ

与兵

お前とはこれからずっと一緒にいるんだから。

鶴太郎

…………。

与兵

嫁なんだろ?

鶴太郎

うん。

あっという間に鶴太郎の機嫌が直りました。

鶴太郎

与兵大好き!

そう言って、鶴太郎はまた与兵に抱きつきます。

与兵

だから……
どうしてお前は……。

慌てたようにお椀を持ちあげます。

吾助

…………。

吾助も嬉しそうに二人を見ていました。

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