休日は家で過ごすことが多い。

特に最近は、夏休み中の癖が抜けてないらしく、出不精が治らない。

夏月、暇なら手伝って

はいはい


俺は読みかけの文庫本を置いて、ソファから立ち上がり食卓へ向かった。

昼食だ。簡単に市販のソースを絡めただけのパスタらしい。皿を列べるのを手伝う。

何よその顔は

手抜きだなって

正直ね


母がこめかみをひくつかせながら怖い声を響かせる。

母上の教育の賜物です

再教育のために昼ご飯抜きはどうかしら

そんなことより早く食べよう

自分でネタふったくせに


そう言いつつ互いに向き合って席に着く。

いただきます。

何読んでたの?


母はパスタを器用にフォークで巻きながら尋ねた。

視線の先は俺が読んでいた文庫本。

よくわかんないけど沙希が貸してくれたやつ

仲良いのね、面白い?

そこそこ

どんなの?

男の子が異世界に迷いこむようなの

ファンタジーか

いやどっちかというとSFかな。
異世界って言っても基本的に同じ世界なんだけど、元の世界と決定的に違うのが人類にしっぽがある世界なんだ

しっぽ?

うん。で、しっぽのない主人公と仲間の男が観察対象として軍に隔離されてっていう話

それだけ?

基本的に。それで元の世界にも戻れなくて、ひたすら疎外感を覚えるみたいな

沙希ちゃんには悪いけど、つまんなそう

俺もそう思う

ダメよそんなこと言っちゃ

今自分で言ったくせに

私は良くてもあんたはダメなの

意味がわからない

返す時は沙希ちゃんに面白かったって言うのよ

はぁ


相変わらず俺の母は感性で言葉を紡ぐ子供のような人である。

じゃあ沙希ちゃんとは仲良くやってるのね?

基本的には


脳裏に浮かんだ昨日の泣き出しそうな笑顔は無視した。

それならいいわ


そう言って、彼女はフォークで器用に巻き上げたパスタを口に含む。

俺は対照的に箸でもそもそと食べる。だって使いやすいじゃん。

最近、夏月楽しそうだね?

そう?

うん、いいことだわ

そう


ふいに思う。

いつかこの母とも道を違える時が来るのだろう。

沙希との昨日の出来事のように。

俺は救世主なのだから。

でもそれまでは、親子であっていいと思った。

ごちそうさま

願わくば巣立ちであれ 9/11 sat

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