天正十年 六月十三日

山城国 宝積寺 羽柴秀吉軍 本陣

黒田官兵衛

秀吉様

羽柴秀吉

ん、なにごとだ?

黒田官兵衛

はっ。信孝様の合流が終わりますれば、ご報告にまいりました

羽柴秀吉

ふむ、ようやく、か。これでいよいよ体裁は整ったの

黒田官兵衛

信長様のご子息でありますからな

羽柴秀吉

まぁ、信雄殿もおるがなぁ…ん、この菓子は旨いの。ほれ、そちもどうじゃ?

黒田官兵衛

は、では…ん、これはなかなか…!

羽柴秀吉

で、数は如何程になった?

黒田官兵衛

三万数千、と言ったところでしょうか

羽柴秀吉

んー、切りが悪いの。いっそ四万ってことにしておこう

黒田官兵衛

はは、豪気でありますな

羽柴秀吉

明智殿の方は良く見積もっても二万が良いところであろう。あとはもう、問題は勝ち方じゃな

黒田官兵衛

左様に

羽柴秀吉

それとは別に、三河のことが気にかかる。その方は、どう思う?

黒田官兵衛

松平殿ですか…秀吉様が天下を統べようとされるのであれば、いずれはぶつかるお相手にございましょう

羽柴秀吉

そうであろうな。だがまぁ、すぐにどちらかが滅ぶようなことにはなるまい

黒田官兵衛

と言いますと?

羽柴秀吉

三河は所詮、御屋形様の盟友。家臣ではない。織田家を誰が継ごうが文句を言われる筋はないからな。
会議の席で論戦になるか、戦があってもせいぜい小競り合い程度じゃろう

黒田官兵衛

では、なぜ気がかりなのです?

羽柴秀吉

武田の領地を半ばほどは三河が抑えておる。甲斐には金山があるしの。近いうちに戦になることはなかろうが、しかしゆくゆくはわからん。
三河なんぞと言うところで力を付けられると、いつ京を狙われるかわからんしの

黒田官兵衛

そのための三河潰しでありましたか

羽柴秀吉

うむ、儂の計略も狂ってしまった。いずれにしても配下に加える案を考えておかねばな

黒田官兵衛

そうですな…いっその甲斐や小田原の東の果てに封殺するというのも良いかもしれません

羽柴秀吉

ふむ、なるほどの…美濃、三河を抑えておけば、当面の脅威は防げる、か

黒田官兵衛

はい

羽柴秀吉

考えておくことにしよう。その前にまずは家臣として従ってもらわねばならんしの

黒田官兵衛

そのためには…

羽柴秀吉

うむ、やはりこの戦の勝ち方は重要じゃろう

黒田官兵衛

多少、色をつけて報告もしておきましょう

羽柴秀吉

うむ。まぁ、とにかく徹底的にやれ。どこぞの国守が妙な考えを起こさぬよう、脅かす意味でも、な

黒田官兵衛

承知いたしております

従者

秀吉様、信孝様がご到着なさいました

羽柴秀吉

あい分かった。お通ししろ

従者

はっ!

羽柴秀吉

さて、父を討たれた哀れな君子殿がまいられるぞ

黒田官兵衛

そのようで…

羽柴秀吉

今一度は、我主の忘れ形見とさせてもらおう。ま、今一度だけじゃな

天正十年 六月十三日

山城国 御坊塚 明智軍本陣

斎藤利三

光秀様、布陣、滞りなく進んでおります

明智光秀

そうか…あい分かった

斎藤利三

…まだお悩みですか、光秀様

明智光秀

いや…心は決まっている

斎藤利三

ではいかがなされた?

明智光秀

かのような戦にその方らを巻き込んですまぬと思っている

斎藤利三

今更でございます。我ら家臣一同、光秀様のためにここまでついて参ったまでのこと。詫びも感謝も、必要ありませぬ

明智光秀

…そうか

斎藤利三

それに、去れと言われたところで去る者はおりませぬ。光秀様に謀反人の汚名を着せたまま諾とする者など、我が陣には一人もおりませぬゆえな

明智光秀

利三…

斎藤利三

家族のことは

明智光秀

うむ。例の書と共に、各近親の国主達に頼み申し上げている。家康殿からの伝も各員に申し伝えた

斎藤利三

であるならば、もはや後顧憂うものはございません

明智光秀

そうか…

斎藤利三

それに、此度の戦は、御屋形様の進退も関わっておりますれば、むざむざと逃げるなどもってのほかかと

織田信長

あれー?バレてた?

明智光秀

だからその髭面で従者に変装などできませんと言ったんですって

斎藤利三

信長様…心中、お察しいたします

織田信長

ありがと、利三。でもまぁ、自分で蒔いた種だしね。儂の責任で刈り取らないといけないと思うんだ。まぁ、光秀の軍勢を使わせてもらわなきゃいけない状況だけど

斎藤利三

こちらは二万弱、秀吉殿方の軍勢は三万を超える勢い…我が方は寡勢にございますが、桶狭間の再現となると、家臣一同、意気軒昂にございます

織田信長

あれねぇ…正直言うけど、あれ、先頭が崖から足踏み外して転げ落ちたから、もう行くしかなくって突撃したんだよ

明智光秀

ははは、御屋形様。そのようなぷろでゅーすでは立ち行きませんぞ?獅子奮迅の活躍をどうして濁される?

織田信長

…儂、戦嫌いだからね…褒められても、嬉しくないし

明智光秀

そうでしたな

織田信長

…光秀、本当に良かったの?

明智光秀

なんのことです?

織田信長

家康の援軍断ったのとか、細川さんのとことかに送った書状のこと

明智光秀

あぁ、はい。巻き込むわけには行きませんからね…細川殿へも援軍は必要なし、とちゃんと書いておきました。
我らが負けるようなことがあれば、援軍要請を断ったと言い逃れできるよう、援軍要請をした偽の書状も同封して、です

織田信長

そっか…

明智光秀

加えて、もしものときに家臣達を守ってくれるように頼んでもあります。これで私も、後顧憂うことなくこの戦に望めましょう

織田信長

難儀だな、戦って。だから儂嫌いなんだよね

明智光秀

まったくでございますな…太平の世など、夢幻にございましょうか

織田信長

さてね…もしこの戦いに勝ったら、そういうのをくりえいてぃぶしてみたい気もするな

明智光秀

ははは、なるほど。それは確かにくりえいてぃぶでございますな

織田信長

そんときは手伝ってね

明智光秀

お約束はしかねますな。何しろここは戦場でございます

織田信長

だから儂、戦国嫌い…

明智光秀

さもありましょう

織田信長

しかしまぁ、今回ばかりはやらないわけにはいかないよね。部下を何人も斬られてるし…儂はいいけど、光秀を巻き込んだのはちとやりすぎ、サルの癖に

明智光秀

ははは、御屋形様がまことの魔王になり申すか

織田信長

都合がいいのは、それをサルが信じてる、ってことだよね

明智光秀

さんざんに脅かしてやりましょう

織田信長

あいつもともとふんどしにうんこ付いてそうなやつだけど、本当に『うんこなう』にしてやりたいね

明智光秀

ははは、豪気でございますな

織田信長

そうとでも言ってないと怖いからね。とくに秀吉はガチだからさ。一介の農民から今や国取りを掛けた戦の指揮をするまでに立身出世だからね

明智光秀

飽くことのない権力への執念。ある意味、もっとも戦国の世に馴染んだ方でございますな

織田信長

侍という生き方を真に理解してないとも言えるけどね

明智光秀

ははは、御屋形様からそのような言葉を聞けるとは思いませんでした

織田信長

儂、侍は嫌いじゃないよ?

明智光秀

まぁ、確かに。家臣達の忠義の心こそ、誠の侍の証でありましょう

織田信長

それで迷惑かけちゃってるのは承知で言うけど、たぶんそうなんだと思う

明智光秀

で、あれば、やはり引けぬ戦ですな…本能寺や二条御所で討たれた者たちのためにも

織田信長

だよねー

従者

光秀様!夕げの支度が整いましてございます!

織田信長

やべっ!

明智光秀

そうか、分かった。直ぐに行く

従者

はっ

織田信長

行った?

明智光秀

もう大丈夫でございます

織田信長

ふぅ

明智光秀

さぁ、参りましょう。最後の食事になるかもしれませんからな

織田信長

そういうこというの、やめない?

明智光秀

なに、侍であればそのくらいの覚悟をもって望まねばなりますまい

織田信長

あー、やっぱそうなる、か。儂、戦国嫌いだわー

明智光秀

そうもうされましても、な。望むか望まぬかにかかわらず、我らはこうして戦場を駆けるのが定めでございますよ

織田信長

ちぇっ…やっぱ天下統一とかダルい。…光秀、今夜儂を暗殺してくんね?

明智光秀

何言ってんですか御屋形さま。ほら、食事ですよ

織田信長

あー、酒ないの、酒?儂踊っちゃうよ、舞うよ!

明智光秀

まぁた敦盛ですか?やめてくださいって

織田信長

なんでよ?士気を鼓舞するのが将の勤めだよ。人間~五十年~♪…

明智光秀

だからやめてくださいってwww

pagetop