天正十年 六月十三日
山城国 宝積寺 羽柴秀吉軍 本陣
天正十年 六月十三日
山城国 宝積寺 羽柴秀吉軍 本陣
秀吉様
ん、なにごとだ?
はっ。信孝様の合流が終わりますれば、ご報告にまいりました
ふむ、ようやく、か。これでいよいよ体裁は整ったの
信長様のご子息でありますからな
まぁ、信雄殿もおるがなぁ…ん、この菓子は旨いの。ほれ、そちもどうじゃ?
は、では…ん、これはなかなか…!
で、数は如何程になった?
三万数千、と言ったところでしょうか
んー、切りが悪いの。いっそ四万ってことにしておこう
はは、豪気でありますな
明智殿の方は良く見積もっても二万が良いところであろう。あとはもう、問題は勝ち方じゃな
左様に
それとは別に、三河のことが気にかかる。その方は、どう思う?
松平殿ですか…秀吉様が天下を統べようとされるのであれば、いずれはぶつかるお相手にございましょう
そうであろうな。だがまぁ、すぐにどちらかが滅ぶようなことにはなるまい
と言いますと?
三河は所詮、御屋形様の盟友。家臣ではない。織田家を誰が継ごうが文句を言われる筋はないからな。
会議の席で論戦になるか、戦があってもせいぜい小競り合い程度じゃろう
では、なぜ気がかりなのです?
武田の領地を半ばほどは三河が抑えておる。甲斐には金山があるしの。近いうちに戦になることはなかろうが、しかしゆくゆくはわからん。
三河なんぞと言うところで力を付けられると、いつ京を狙われるかわからんしの
そのための三河潰しでありましたか
うむ、儂の計略も狂ってしまった。いずれにしても配下に加える案を考えておかねばな
そうですな…いっその甲斐や小田原の東の果てに封殺するというのも良いかもしれません
ふむ、なるほどの…美濃、三河を抑えておけば、当面の脅威は防げる、か
はい
考えておくことにしよう。その前にまずは家臣として従ってもらわねばならんしの
そのためには…
うむ、やはりこの戦の勝ち方は重要じゃろう
多少、色をつけて報告もしておきましょう
うむ。まぁ、とにかく徹底的にやれ。どこぞの国守が妙な考えを起こさぬよう、脅かす意味でも、な
承知いたしております
秀吉様、信孝様がご到着なさいました
あい分かった。お通ししろ
はっ!
さて、父を討たれた哀れな君子殿がまいられるぞ
そのようで…
今一度は、我主の忘れ形見とさせてもらおう。ま、今一度だけじゃな
天正十年 六月十三日
山城国 御坊塚 明智軍本陣
光秀様、布陣、滞りなく進んでおります
そうか…あい分かった
…まだお悩みですか、光秀様
いや…心は決まっている
ではいかがなされた?
かのような戦にその方らを巻き込んですまぬと思っている
今更でございます。我ら家臣一同、光秀様のためにここまでついて参ったまでのこと。詫びも感謝も、必要ありませぬ
…そうか
それに、去れと言われたところで去る者はおりませぬ。光秀様に謀反人の汚名を着せたまま諾とする者など、我が陣には一人もおりませぬゆえな
利三…
家族のことは
うむ。例の書と共に、各近親の国主達に頼み申し上げている。家康殿からの伝も各員に申し伝えた
であるならば、もはや後顧憂うものはございません
そうか…
それに、此度の戦は、御屋形様の進退も関わっておりますれば、むざむざと逃げるなどもってのほかかと
あれー?バレてた?
だからその髭面で従者に変装などできませんと言ったんですって
信長様…心中、お察しいたします
ありがと、利三。でもまぁ、自分で蒔いた種だしね。儂の責任で刈り取らないといけないと思うんだ。まぁ、光秀の軍勢を使わせてもらわなきゃいけない状況だけど
こちらは二万弱、秀吉殿方の軍勢は三万を超える勢い…我が方は寡勢にございますが、桶狭間の再現となると、家臣一同、意気軒昂にございます
あれねぇ…正直言うけど、あれ、先頭が崖から足踏み外して転げ落ちたから、もう行くしかなくって突撃したんだよ
ははは、御屋形様。そのようなぷろでゅーすでは立ち行きませんぞ?獅子奮迅の活躍をどうして濁される?
…儂、戦嫌いだからね…褒められても、嬉しくないし
そうでしたな
…光秀、本当に良かったの?
なんのことです?
家康の援軍断ったのとか、細川さんのとことかに送った書状のこと
あぁ、はい。巻き込むわけには行きませんからね…細川殿へも援軍は必要なし、とちゃんと書いておきました。
我らが負けるようなことがあれば、援軍要請を断ったと言い逃れできるよう、援軍要請をした偽の書状も同封して、です
そっか…
加えて、もしものときに家臣達を守ってくれるように頼んでもあります。これで私も、後顧憂うことなくこの戦に望めましょう
難儀だな、戦って。だから儂嫌いなんだよね
まったくでございますな…太平の世など、夢幻にございましょうか
さてね…もしこの戦いに勝ったら、そういうのをくりえいてぃぶしてみたい気もするな
ははは、なるほど。それは確かにくりえいてぃぶでございますな
そんときは手伝ってね
お約束はしかねますな。何しろここは戦場でございます
だから儂、戦国嫌い…
さもありましょう
しかしまぁ、今回ばかりはやらないわけにはいかないよね。部下を何人も斬られてるし…儂はいいけど、光秀を巻き込んだのはちとやりすぎ、サルの癖に
ははは、御屋形様がまことの魔王になり申すか
都合がいいのは、それをサルが信じてる、ってことだよね
さんざんに脅かしてやりましょう
あいつもともとふんどしにうんこ付いてそうなやつだけど、本当に『うんこなう』にしてやりたいね
ははは、豪気でございますな
そうとでも言ってないと怖いからね。とくに秀吉はガチだからさ。一介の農民から今や国取りを掛けた戦の指揮をするまでに立身出世だからね
飽くことのない権力への執念。ある意味、もっとも戦国の世に馴染んだ方でございますな
侍という生き方を真に理解してないとも言えるけどね
ははは、御屋形様からそのような言葉を聞けるとは思いませんでした
儂、侍は嫌いじゃないよ?
まぁ、確かに。家臣達の忠義の心こそ、誠の侍の証でありましょう
それで迷惑かけちゃってるのは承知で言うけど、たぶんそうなんだと思う
で、あれば、やはり引けぬ戦ですな…本能寺や二条御所で討たれた者たちのためにも
だよねー
光秀様!夕げの支度が整いましてございます!
やべっ!
そうか、分かった。直ぐに行く
はっ
行った?
もう大丈夫でございます
ふぅ
さぁ、参りましょう。最後の食事になるかもしれませんからな
そういうこというの、やめない?
なに、侍であればそのくらいの覚悟をもって望まねばなりますまい
あー、やっぱそうなる、か。儂、戦国嫌いだわー
そうもうされましても、な。望むか望まぬかにかかわらず、我らはこうして戦場を駆けるのが定めでございますよ
ちぇっ…やっぱ天下統一とかダルい。…光秀、今夜儂を暗殺してくんね?
何言ってんですか御屋形さま。ほら、食事ですよ
あー、酒ないの、酒?儂踊っちゃうよ、舞うよ!
まぁた敦盛ですか?やめてくださいって
なんでよ?士気を鼓舞するのが将の勤めだよ。人間~五十年~♪…
だからやめてくださいってwww