同刻
堺 松井友閑屋敷
同刻
堺 松井友閑屋敷
忠勝の!ちょっとかっこいいとこ見てみたい!
あ、そーれ!
イッキ!イッキ!!イッキ!!!
くっ…殿、某もう無理でござるよ
えぇ?なんだよもう…シラけるだろ?空気読めよ
殿。なんか絡み酒になってますよ。ほどほどにしてください
直政はかたいんだからさぁー。もう、俺やんなっちゃうよ。改易しちゃうよ、改易
殿、その手の冗談もおやめください。洒落になってません
ちぇっ。まったく、せっかくの酒なのにそうマジメでそうすんだよ
武士たるもの、酒に飲まれるような失態はあってはなりません
そこが硬いんだって。これくらい大丈夫だってば!
まま、そうケンケンやらずとも。ささ、もういっぱい
んー、忠次は気が利くな
む、かたじけない
それにしても、明日はどこを見て回るんです?
明日も港に行くぞ
またですか?
またも何も、それを見に来たんだってば。堺の干拓って方法を使えば、岡崎ももう少し港を整備できるしさ
某、もうちょっと中心街に行きたいでござる。たこ焼きというのをまだ食しておりませんゆえ
あーあれね。俺もちょっと興味あるんだよなぁ、あれ。いいよ、じゃぁ明日は忠勝別行動でちょっとたこ焼き買ってきて
それ小間使いではありませんか!
それが嫌なら黙って着いて来いって。港を見とくのは大事。ホント大事
ん…?騒がしいな、何事か?
殿!至急にございます!
ん、服部か?
はっ
良い、入れ
はっ!
何事だ?
はっ…実は、先ほど、京へ出向いていた手の者からの知らせがあり…
ん、京都?なに、どしたの?もったいぶらずに早く
はっ…それが、京都、本能寺、二条御所に火の手あり、とのこと…
本能寺…?二条御所?なんのことよ?
本能寺は、信長様がお宿とのこと
先輩の!?
二条御所は詳細不明なれど、信忠殿一行が妙覚寺より二条御所へ逃げ出たのではないか、と話も
謀反か…!
…おそらくは
誰ぞ!馬準備しろ!俺もすぐに京都に入る!
殿!何を言ってるんです!
先輩になんかあったんなら俺が出てって手を貸さないと!どれだけ世話になったか、その恩義忘れたわけじゃあるまい!
し、しかし殿!我ら総勢でも三十余名しかございませんぞ!寡勢にも程がある!
しのごの言ってる場合じゃないんだって!先輩死ぬかもしんないんだぞ!
今のお話、誠でございますか!?
おぉ、長谷川殿
長谷川。お前も一緒に来い。助太刀してやんないと、先輩が…!
殿!無茶を言いなさいますな!
そうです!まだどこの誰の手によるものかも分かっておらぬというのに!
…半蔵殿、敵方は?
はっ、某の手の者は甲賀衆の動きについて下調べをしておったので、おそらくは甲賀衆…
こ、甲賀衆とな!?甲賀は信長殿の傘下ではないか!
だから謀反だと言っているだろう!
そんな…上様っ…!
…そのあたりについては今、事情を探らせておるところです。しかし、ことが火急なのは、もう一点
なんだ?
甲賀衆が本能寺への襲撃を初めて半刻ほどのち、京へ桔梗の紋ののぼりを掲げた軍勢が入っております
き、桔梗の紋とな…!?
桔梗となれば、もしや…
…明智殿が家紋…
そんな…!まさか!!!
では明智殿が謀反を!?
…ありえない…
はっ?殿…?
そんなこと、ありえない!光秀殿が先輩を謀るなんて…曲がり間違ってもありえるはずがない!
どうしてそう言えるんです!?
光秀殿は先輩のぷろでゅーすに全霊を込めてたんだ!今更それをひっくり返すようなマネをするはずがない!
しかし!もし、これまでの信長様の非道とも思える噂が光秀殿の流した風説であるのなら、この機を想定して信長様の悪評を作り上げたとも…
だから!それもありえない!絶対にない!
…殿、お言葉ですが…
!
某、光秀様の人となりは存じ上げない故、この状況から推して量るより方法がございません。
よろしいですか?京は現在、桔梗の紋を掲げた軍勢の手中にあります。状況からしてこの軍勢が信長様を討ったと考えることが自然。
仮にもし光秀殿が何らかの情報を持って信長様への闇討ちを察し、援軍に入っているのなら信長殿はひとまずは安心。
今は光秀殿が信長殿の闇討ちの首謀者と見て動いて置くほうが、吉
お前も言うか!いいか、光秀殿はな…!
殿!まだ分からぬか!半蔵の言うとおりでござろう!光秀殿の人柄どうのこうのという話ではございません!状況からしての判断です!
くっ…!
しかし、逃げると言ってもこの数ではいかんともしがたいな…光秀殿が闇討ちをしたとなれば、大路は封鎖されていると思ってよかろう
半蔵の話では京の抑えようとしていることは明白。検問も設けておるだろう
さもあろう
…
殿。いつまでごねておられるか。信長様をお助けするにせよ、光秀殿を討つにせよ、この寡勢では如何様にもなりません。
今は一度逃げ延び、国元に帰り着いてから軍勢をあげればよろしかろう。そのためにも一刻も早く発つべきではございませんか?
…あい、わかった
ご明断なります
心中お察しするが、時がときでありますからな
…脱出するとして、退路は?
街道は避けるべきでしょうな。万が一のときには絡め取られる
…となると…山越えになる、か…
山越え!?甲賀と伊賀を合わせて超えるってのか!?
伊賀はまだ良いが…件の謀反には甲賀衆が関わっているのだろう?それとて危険ではないのか?
…服部、どう思う?
…甲賀は、伊賀と異なり、諸氏が入り乱れた小戦国とも言える状況にあります。たどれば、佐々木氏の弱体化から六角氏、多羅尾氏などが立身する世です
今回の謀反に関与しているのは、旧佐々木家の一部の家臣である可能性があります…この過程であるな、一人、話を通せる御仁を存じております
何者だ?
はっ。近江甲賀は小川城城主、多羅尾光俊殿です
多羅尾光俊…って、あの?
信用なるのか?
多羅尾殿は信長様とはお会いになられたことがあるとのこと
確か、伊賀の乱のときに先鋒部隊の指揮を勤めた人だよね?
はっ。信長様からは格別の待遇を賜っているとのお噂
わっ、私も、あの方なら信用できると思います
長谷川殿
幾度かお会いしたことがございます。彼のお人は、野心や恩義、忠義ではなく、一族とその郎党を宝とするお方でございます
ふむ…
小川城までたどり着くことができれば、その先は伊賀です。我が手の者に加え、賃を払えば忍を幾人でも雇い入れられましょう
賃か…それほど持ち合わせてないのう
そ、それならば、安土からもお支払いを!
いや、それはまずいでしょ長谷川っち
っち…?
いえ!私は上様より、家康様御一行の安全を任されている身でございます。私の決定は、上様が決定と同じ
…伊賀の乱では、伊賀衆は信長様がご子息信雄殿にかなりの数の貴重品を奪われたと聞き及んでおります
殿をお助けすることでそれらが戻るとあれば、百地、藤林両家もこぞって人を寄越すでしょう
…決まり、だな
殿、いかがです?
…わかった。その案で行く。ただし、急ぐぞ
なに、聞き分けのない輩がおるようなら、蜻蛉切の餌食にしてくれましょう
お前、そんなだから脳筋って言われるんだよ
ぬぅ!?
直ぐに支度をさせろ。夜明けと共に、甲賀へ入る
はっ!