同刻

堺 松井友閑屋敷

徳川家康

忠勝の!ちょっとかっこいいとこ見てみたい!

酒井忠次

あ、そーれ!

徳川家康

イッキ!イッキ!!イッキ!!!

本多忠勝

くっ…殿、某もう無理でござるよ

徳川家康

えぇ?なんだよもう…シラけるだろ?空気読めよ

井伊直政

殿。なんか絡み酒になってますよ。ほどほどにしてください

徳川家康

直政はかたいんだからさぁー。もう、俺やんなっちゃうよ。改易しちゃうよ、改易

榊原康政

殿、その手の冗談もおやめください。洒落になってません

徳川家康

ちぇっ。まったく、せっかくの酒なのにそうマジメでそうすんだよ

榊原康政

武士たるもの、酒に飲まれるような失態はあってはなりません

徳川家康

そこが硬いんだって。これくらい大丈夫だってば!

酒井忠次

まま、そうケンケンやらずとも。ささ、もういっぱい

徳川家康

んー、忠次は気が利くな

榊原康政

む、かたじけない

本多忠勝

それにしても、明日はどこを見て回るんです?

徳川家康

明日も港に行くぞ

本多忠勝

またですか?

徳川家康

またも何も、それを見に来たんだってば。堺の干拓って方法を使えば、岡崎ももう少し港を整備できるしさ

本多忠勝

某、もうちょっと中心街に行きたいでござる。たこ焼きというのをまだ食しておりませんゆえ

徳川家康

あーあれね。俺もちょっと興味あるんだよなぁ、あれ。いいよ、じゃぁ明日は忠勝別行動でちょっとたこ焼き買ってきて

本多忠勝

それ小間使いではありませんか!

徳川家康

それが嫌なら黙って着いて来いって。港を見とくのは大事。ホント大事

酒井忠次

ん…?騒がしいな、何事か?

殿!至急にございます!

徳川家康

ん、服部か?

はっ

徳川家康

良い、入れ

はっ!

徳川家康

何事だ?

服部半蔵

はっ…実は、先ほど、京へ出向いていた手の者からの知らせがあり…

徳川家康

ん、京都?なに、どしたの?もったいぶらずに早く

服部半蔵

はっ…それが、京都、本能寺、二条御所に火の手あり、とのこと…

徳川家康

本能寺…?二条御所?なんのことよ?

服部半蔵

本能寺は、信長様がお宿とのこと

徳川家康

先輩の!?

服部半蔵

二条御所は詳細不明なれど、信忠殿一行が妙覚寺より二条御所へ逃げ出たのではないか、と話も

徳川家康

謀反か…!

服部半蔵

…おそらくは

徳川家康

誰ぞ!馬準備しろ!俺もすぐに京都に入る!

酒井忠次

殿!何を言ってるんです!

徳川家康

先輩になんかあったんなら俺が出てって手を貸さないと!どれだけ世話になったか、その恩義忘れたわけじゃあるまい!

本多忠勝

し、しかし殿!我ら総勢でも三十余名しかございませんぞ!寡勢にも程がある!

徳川家康

しのごの言ってる場合じゃないんだって!先輩死ぬかもしんないんだぞ!

長谷川秀一

今のお話、誠でございますか!?

本多忠勝

おぉ、長谷川殿

徳川家康

長谷川。お前も一緒に来い。助太刀してやんないと、先輩が…!

本多忠勝

殿!無茶を言いなさいますな!

酒井忠次

そうです!まだどこの誰の手によるものかも分かっておらぬというのに!

榊原康政

…半蔵殿、敵方は?

服部半蔵

はっ、某の手の者は甲賀衆の動きについて下調べをしておったので、おそらくは甲賀衆…

本多忠勝

こ、甲賀衆とな!?甲賀は信長殿の傘下ではないか!

酒井忠次

だから謀反だと言っているだろう!

長谷川秀一

そんな…上様っ…!

服部半蔵

…そのあたりについては今、事情を探らせておるところです。しかし、ことが火急なのは、もう一点

徳川家康

なんだ?

服部半蔵

甲賀衆が本能寺への襲撃を初めて半刻ほどのち、京へ桔梗の紋ののぼりを掲げた軍勢が入っております

本多忠勝

き、桔梗の紋とな…!?

酒井忠次

桔梗となれば、もしや…

井伊直政

…明智殿が家紋…

長谷川秀一

そんな…!まさか!!!

本多忠勝

では明智殿が謀反を!?

徳川家康

…ありえない…

酒井忠次

はっ?殿…?

徳川家康

そんなこと、ありえない!光秀殿が先輩を謀るなんて…曲がり間違ってもありえるはずがない!

本多忠勝

どうしてそう言えるんです!?

徳川家康

光秀殿は先輩のぷろでゅーすに全霊を込めてたんだ!今更それをひっくり返すようなマネをするはずがない!

酒井忠次

しかし!もし、これまでの信長様の非道とも思える噂が光秀殿の流した風説であるのなら、この機を想定して信長様の悪評を作り上げたとも…

徳川家康

だから!それもありえない!絶対にない!

服部半蔵

…殿、お言葉ですが…

徳川家康

服部半蔵

某、光秀様の人となりは存じ上げない故、この状況から推して量るより方法がございません。

よろしいですか?京は現在、桔梗の紋を掲げた軍勢の手中にあります。状況からしてこの軍勢が信長様を討ったと考えることが自然。

仮にもし光秀殿が何らかの情報を持って信長様への闇討ちを察し、援軍に入っているのなら信長殿はひとまずは安心。

今は光秀殿が信長殿の闇討ちの首謀者と見て動いて置くほうが、吉

徳川家康

お前も言うか!いいか、光秀殿はな…!

酒井忠次

殿!まだ分からぬか!半蔵の言うとおりでござろう!光秀殿の人柄どうのこうのという話ではございません!状況からしての判断です!

徳川家康

くっ…!

井伊直政

しかし、逃げると言ってもこの数ではいかんともしがたいな…光秀殿が闇討ちをしたとなれば、大路は封鎖されていると思ってよかろう

榊原康政

半蔵の話では京の抑えようとしていることは明白。検問も設けておるだろう

酒井忠次

さもあろう

徳川家康

酒井忠次

殿。いつまでごねておられるか。信長様をお助けするにせよ、光秀殿を討つにせよ、この寡勢では如何様にもなりません。

今は一度逃げ延び、国元に帰り着いてから軍勢をあげればよろしかろう。そのためにも一刻も早く発つべきではございませんか?

徳川家康

…あい、わかった

井伊直政

ご明断なります

榊原康政

心中お察しするが、時がときでありますからな

徳川家康

…脱出するとして、退路は?

酒井忠次

街道は避けるべきでしょうな。万が一のときには絡め取られる

井伊直政

…となると…山越えになる、か…

本多忠勝

山越え!?甲賀と伊賀を合わせて超えるってのか!?

榊原康政

伊賀はまだ良いが…件の謀反には甲賀衆が関わっているのだろう?それとて危険ではないのか?

徳川家康

…服部、どう思う?

服部半蔵

…甲賀は、伊賀と異なり、諸氏が入り乱れた小戦国とも言える状況にあります。たどれば、佐々木氏の弱体化から六角氏、多羅尾氏などが立身する世です

服部半蔵

今回の謀反に関与しているのは、旧佐々木家の一部の家臣である可能性があります…この過程であるな、一人、話を通せる御仁を存じております

徳川家康

何者だ?

服部半蔵

はっ。近江甲賀は小川城城主、多羅尾光俊殿です

徳川家康

多羅尾光俊…って、あの?

本多忠勝

信用なるのか?

服部半蔵

多羅尾殿は信長様とはお会いになられたことがあるとのこと

徳川家康

確か、伊賀の乱のときに先鋒部隊の指揮を勤めた人だよね?

服部半蔵

はっ。信長様からは格別の待遇を賜っているとのお噂

長谷川秀一

わっ、私も、あの方なら信用できると思います

井伊直政

長谷川殿

長谷川秀一

幾度かお会いしたことがございます。彼のお人は、野心や恩義、忠義ではなく、一族とその郎党を宝とするお方でございます

井伊直政

ふむ…

服部半蔵

小川城までたどり着くことができれば、その先は伊賀です。我が手の者に加え、賃を払えば忍を幾人でも雇い入れられましょう

本多忠勝

賃か…それほど持ち合わせてないのう

長谷川秀一

そ、それならば、安土からもお支払いを!

徳川家康

いや、それはまずいでしょ長谷川っち

井伊直政

っち…?

長谷川秀一

いえ!私は上様より、家康様御一行の安全を任されている身でございます。私の決定は、上様が決定と同じ

服部半蔵

…伊賀の乱では、伊賀衆は信長様がご子息信雄殿にかなりの数の貴重品を奪われたと聞き及んでおります

服部半蔵

殿をお助けすることでそれらが戻るとあれば、百地、藤林両家もこぞって人を寄越すでしょう

榊原康政

…決まり、だな

井伊直政

殿、いかがです?

徳川家康

…わかった。その案で行く。ただし、急ぐぞ

本多忠勝

なに、聞き分けのない輩がおるようなら、蜻蛉切の餌食にしてくれましょう

酒井忠次

お前、そんなだから脳筋って言われるんだよ

本多忠勝

ぬぅ!?

徳川家康

直ぐに支度をさせろ。夜明けと共に、甲賀へ入る

一同

はっ!

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