天正十年 六月一日 未明

丹波山城国境付近

斎藤利三

光秀様。後続、遅れなく行軍してまいっております

明智光秀

あいわかった。やや速度を上げる旨伝令を出せ

斎藤利三

御意に

明智秀満

…閲兵とは、考えましたな

明智光秀

うむ…まぁ、言い訳に過ぎないがな

明智秀満

直、桂川がみえて参りましょう

明智光秀

そうだな…

明智秀満

信長様は、我らをお恨みになりましょうか?

明智光秀

…分からぬな。お怒りになるやもしれん。しかし、私も武士だ。決めたからには、そのような瑣末なことを気にかけているべきではない

明智光秀

あとは、秀吉殿次第だ…

明智秀満

…心中、お察し致します

明智光秀

ときに…お倫は息災か?

明智秀満

はい…お義父上…

明智光秀

そうか…お主がもらってくれると申し出てくれて嬉しかった…出戻りのあやつは、寺にでも出すより他にないかもしれぬと考えておったのだ

明智秀満

滅相もございません。某などにはもったいないくらいの女房にございます

明智光秀

武家の妻とは苦労が耐えぬ場所だ。私も妻には頭があがらぬよ

明智秀満

光秀様のご寵愛ぶりは、家臣のあいだでも語り草でございます。ご謙遜召されるな

明智光秀

なに、そうでもしなければ私も『曲者』されてしまうからな

明智秀満

『曲者』…?なんです?

明智光秀

いや、はは、気にするな…む?

明智秀満

おぉ、桂川が見えてまいりましたな!

明智光秀

うむ。先行した利三の軍勢は既に整っておるか…

明智秀満

さすがの手腕でありますな

明智光秀

主もしかと頼むぞ

明智秀満

畏まってございます

桂川河畔

明智秀満

我が隊は、斎藤家左へ隊列をなせ!グズグズするな!

明智光秀

ぬかりないか?

斎藤利三

は、光秀様

明智光秀

なら良い

斎藤利三

後方の忠光殿の隊が遅れております。全隊が揃うまで、あと半刻はかかるかと…

明智光秀

ふむ…時は惜しいな…

斎藤利三

いかがいたしましょう?

明智光秀

秀満の隊が揃うまでは待つ。そこに間に合わぬようなら、馬を走らせて指示をだそう

斎藤利三

御意に

ーーー!

明智光秀

…ん?

斎藤利三

いかがなさいました、光秀様?

明智光秀

声が聞こえぬか?

斎藤利三

声、でありますか?

ーーーー!

斎藤利三

…これは…しかと!何事か…?えぇい、全隊、光秀様をお守りしろ!

明智光秀

待て、利三。聞こえぬか?

至急ー!至急ーーー!!

斎藤利三

これは!

明智光秀

うむ、お主の放った早馬だろう

ダダダッダダダッダダダッダダダッ ザザザザッ

伝令

どぉー!どう!至急!至急お伝え申す!

明智光秀

やはりか…!

斎藤利三

良い!そのまま申せ!

伝令

はっ!信長様の居られる本能寺へ軍勢!謀反です!

斎藤利三

まさか…!光秀様が懸念していた通りとは!

明智光秀

くっ…遅かったか!秀満!

明智秀満

はい!光秀様!全隊、川渡り、終えましてございます!

明智光秀

よし!利三、忠光へ早馬を走らせ、忠光は妙覚寺へ向かえと伝え!川渡り前の忠光以外の隊へは、別名あるまで待機の命!

斎藤利三

はっ!誰ぞ!誰ぞある!

明智光秀

ものども、聞け!

光秀様が何か仰るぞ

おい、黙れよ

なんだ?なにかあったか?

明智光秀

これより我々は京へと入る!

京へ?

なんでだ?高松へ向かってたんじゃないのか?

明智光秀

脅威は備中にあらず!

!?

明智光秀

敵は、本能寺にあり!

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