天正十年 六月一日 未明
丹波山城国境付近
天正十年 六月一日 未明
丹波山城国境付近
光秀様。後続、遅れなく行軍してまいっております
あいわかった。やや速度を上げる旨伝令を出せ
御意に
…閲兵とは、考えましたな
うむ…まぁ、言い訳に過ぎないがな
直、桂川がみえて参りましょう
そうだな…
信長様は、我らをお恨みになりましょうか?
…分からぬな。お怒りになるやもしれん。しかし、私も武士だ。決めたからには、そのような瑣末なことを気にかけているべきではない
あとは、秀吉殿次第だ…
…心中、お察し致します
ときに…お倫は息災か?
はい…お義父上…
そうか…お主がもらってくれると申し出てくれて嬉しかった…出戻りのあやつは、寺にでも出すより他にないかもしれぬと考えておったのだ
滅相もございません。某などにはもったいないくらいの女房にございます
武家の妻とは苦労が耐えぬ場所だ。私も妻には頭があがらぬよ
光秀様のご寵愛ぶりは、家臣のあいだでも語り草でございます。ご謙遜召されるな
なに、そうでもしなければ私も『曲者』されてしまうからな
『曲者』…?なんです?
いや、はは、気にするな…む?
おぉ、桂川が見えてまいりましたな!
うむ。先行した利三の軍勢は既に整っておるか…
さすがの手腕でありますな
主もしかと頼むぞ
畏まってございます
桂川河畔
我が隊は、斎藤家左へ隊列をなせ!グズグズするな!
ぬかりないか?
は、光秀様
なら良い
後方の忠光殿の隊が遅れております。全隊が揃うまで、あと半刻はかかるかと…
ふむ…時は惜しいな…
いかがいたしましょう?
秀満の隊が揃うまでは待つ。そこに間に合わぬようなら、馬を走らせて指示をだそう
御意に
ーーー!
…ん?
いかがなさいました、光秀様?
声が聞こえぬか?
声、でありますか?
ーーーー!
…これは…しかと!何事か…?えぇい、全隊、光秀様をお守りしろ!
待て、利三。聞こえぬか?
至急ー!至急ーーー!!
これは!
うむ、お主の放った早馬だろう
ダダダッダダダッダダダッダダダッ ザザザザッ
どぉー!どう!至急!至急お伝え申す!
やはりか…!
良い!そのまま申せ!
はっ!信長様の居られる本能寺へ軍勢!謀反です!
まさか…!光秀様が懸念していた通りとは!
くっ…遅かったか!秀満!
はい!光秀様!全隊、川渡り、終えましてございます!
よし!利三、忠光へ早馬を走らせ、忠光は妙覚寺へ向かえと伝え!川渡り前の忠光以外の隊へは、別名あるまで待機の命!
はっ!誰ぞ!誰ぞある!
ものども、聞け!
光秀様が何か仰るぞ
おい、黙れよ
なんだ?なにかあったか?
これより我々は京へと入る!
京へ?
なんでだ?高松へ向かってたんじゃないのか?
脅威は備中にあらず!
!?
敵は、本能寺にあり!