天正十年 六月一日
京都 本能寺
天正十年 六月一日
京都 本能寺
ふぅ、やっとついたの
ここが本能寺でございますかや?
坊丸、力丸!馬を!信長様、こちらです
あぁ、蘭丸、儂別に一人で降りれるから、そんなとこで踏み台にならなくても…
なりません!この蘭丸めを踏んでくだs…もしものことがあれば、この蘭丸、腹を切らねばなりませぬゆえ!
今、変な願望漏れなかった?ま、いいか…じゃ、悪いけど…
ヒョイ
(ズシッ)恐悦至極!
え!?なに!?どうして!?
上様ぁ。帰蝶、怖くで降りられぬでございます
えー?いつも颯爽と乗り降りしてなかったっけ?木曽の女人武士、巴御前の化身なるぞー、って
プンスコ
いいから、お手をお貸しくださいませ!
はいはい、気を付けてね
キャピ
ふふふ、やはり上様はお優しい殿方でありまするな
メラメラ
おのれ…!
ニヨニヨ
ククク…
信忠はちゃんと妙覚寺についたかな?
利治めもついておるゆえ、平気でございましょう。それに信忠は吉乃殿に似て頭の良い子です。ご心配召されるな
そうだな…まぁ、とにかくずいぶん馬に乗ってたから儂お尻痛くなっちゃった。座敷で休みたい
お尻が痛い!?
妾が揉み解して差し上げましょうぞ
い、いえ!それは某が!女人様の御手に大事があってはいけませぬ!
小姓は黙っておれ!妾とて木曽の女人武士、巴御前の化身と呼ばれる薙刀の名手ぞ!そこらのか弱い女人と一緒にしてくれるな!
信長様!ここは某にお頼みください!
なにを!上様!妾を重宝なさいますかや!?
え、えぇっと…あ…あ、そうだ!儂、腹減っちゃったな!じゅ、住職ー!頼んでた夕飯、準備できてるー?
上様!お逃げになるのですか!?
信長様!お待ちください!褥は!褥はこの蘭丸とー!
ナマズは泥に潜った
よし…引き続き、目を離すな。合図の音を聞きもらすなよ
御意に
同刻
備中 高松城
羽柴秀吉 陣中
秀吉様、安芸守様御一行がお見えにございます
おぉ、来おったか。お通ししろ
はっ…
ザッザッザッザッ
お初にお目にかかる、羽柴殿
輝元殿、わざわざご足労願い申し訳ないの
・・・
じゃが、大将殿みずから参られた、ということは、ご相談しておった件については承諾してもらえるということでよろしいな?
左様にございます
ふむ、良い判断とお見受けいたす。あー、なにぶん我が殿は世に聞く『魔王』であるのでなぁ、従わぬものの首は必ず取らぬと気がすまぬタチでの
…我が家臣郎党と領地は安堵していただけるな?
もちろん、違わぬよ。じゃぁ、彼の城の清水宗治とかいうのはダメじゃな。この儂をサルと小馬鹿にしおった
ぬぅ…
なに、心配召されるな。こちらからも人質を出すと、その僧兵にも伝えたはずであるが?
は…黒田殿との申し合わせございますれば…
…心得た
うむ。清水殿は、その身を持って輝元殿、ひいては毛利家の名誉をお守りになる。大変名誉なことではないか
…はっ
それと、お頼み申し上げていた軍勢の準備は出来ておられるかな?
できてございます。あとは如何様にもお使いいただけます…
万事解決、と言ったところかの。よし、酒を持て。清水殿への差し入れも忘れるでないぞ。別れ盃もなしに腹切りなどさせられぬ
はっ、では、準備致します
うむ。他の者は出陣の準備を整えよ。上様にこの義をご報告にまいらねばならぬからな…くふふ、がはははは!
・・・