天正十年 五月三十日

丹波亀山城

斎藤利三

叔父上殿。利三、戻りましてございます

明智光秀

戻ったか。して、首尾は?

斎藤利三

はっ。各所への密偵、早馬の準備、滞りなく終わりましてございます

明智光秀

あい分かった。苦労を掛けたな

斎藤利三

滅相もございません。しかし、叔父上。なぜこのような手管を?

明智光秀

うむ…すこし、な…

斎藤利三

…?

トタトタ

御免!

明智光秀

構わぬ

明智秀満

戻りましてございます

明智光秀

おぉ、左馬之助か。入れ

明智秀満

はっ

明智光秀

どうだ、家臣達の様子は?

明智秀満

はい、いずれも意気軒昂。安芸守様を返り討ちにせんと、高らかに鬨をあげてございます。藤田殿、茂朝殿の郎党も、直、整いましょう

明智光秀

左様か。苦労であった

明智秀満

はっ…光秀様、ひとつ、よろしいでしょうか?

明智光秀

ん、なんだ、左馬之助?

明智秀満

此度の戦に出られた光秀様は、どこか気が抜けてございます

斎藤利三

左馬之助!貴公はなにを申すか!

明智秀満

光秀様。そのようなご様子は士気に関わります。ましてや、光秀様は一軍の将であらせられます。その迷い、我ら最大の敵となりましょう

斎藤利三

黙らんか!その首、よほど要らんと見える!

チャキッ

明智光秀

良い、利三。左馬之助の申すことはもっともだ

斎藤利三

し、しかし!

明智光秀

私は家臣からの忠言を粗末には扱わぬよ。左馬之助、そなたには私がそのように見えておると?

明智秀満

恐れながら

明智光秀

ふむ、そうか…。利三、お主はどうだ?

斎藤利三

…恐れながら…某も、気にはかかってございました…

明智光秀

そうか…

明智秀満

光秀様。我ら、光秀様のいかなる采配をも受け入れる覚悟はできております。迷われず、御心のままに決断されるがよろしいかと

明智光秀

うむ、感謝するぞ、左馬之助。だが…主らの言うように、私もまだ迷っておるのだ。決めかねている

斎藤利三

…迷われている、というのは、いったい、どういったことでございましょう?

明智光秀

聞きたいか?

斎藤利三

そのための我ら重臣と心得ております

明智光秀

…そうだな…では、しかと聞いてくれ。御屋形様のことだ

斎藤利三

…信長様、でございますか…?

明智光秀

うむ…謀反だ…

明智秀満

!!!

斎藤利三

!!!

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