編入生と風宮会長との申請試合。
まだ朝礼前だと言うのに、その噂は瞬く間に広がり、校庭には大勢の観客が集まっていた。
編入生と風宮会長との申請試合。
まだ朝礼前だと言うのに、その噂は瞬く間に広がり、校庭には大勢の観客が集まっていた。
申請試合開始!
金剛地寺が試合の開始を宣言した。
デバイス起動!
金剛寺の開始宣言と同時に動いたのは風宮会長だった。
風宮会長は、試合の模範のように円滑に簡易デバイスを起動。
会長の武器は主に砲撃。大量の砲撃系の武器を瞬時に展開し、相手に反撃の隙を与えることなく相手を鎮圧する。
悪いけど、手加減はしないわよ!
会長はいつものように、得意技の広範囲一斉射撃を展開。
簡易デバイスとはいえ、会長の攻撃は威力が半端ではない。
この攻撃に耐えることのできる奴は、そうは居ない。
――――――っ!
会長の攻撃で希の居た場所は土煙で覆われた。
さあ、これでわかったでしょ?
あなたは私に勝つことはできない。
神裂 希、あなたは退学よ。
土煙で覆われている希に会長が退学を宣言する。
それは、おかしな話ですね。
風宮会長。
希の声が聞こえたのと同時に、希の影が浮かび上がった。
会長のあの攻撃を食らって立っているだと?
審判の金剛寺が驚きを隠せないでいる。
たいしたものね。
どういう技を使ったのかしら?
風宮会長が希に問いかける。
当然ですよ。会長も知っているはずですよ。
煙の中から希が歩いて出てくる。
そんな……。
その武器は……。
風宮会長はおろか、その場に居た観客の全員が驚いた。
希の持っていたその武器、それはつまり、練成形態の武器であったからだ。
あなた、あの攻撃の間に練成をしたとでも言うの?
会長は少し、動揺しているようである。
いいえ、違います。
この武器で風宮会長の攻撃を防いだんです。
希は当然の如く答える。
会長も知っているでしょう?
簡易デバイスでは練成形態には勝てない。
それは教科書にも載っている当然のこと。
つまり、この学園の一番の実力者である風宮会長であったとしても、同じことが言える。
そう言って希は、持っている桜色に輝く刀を構えた。
今度はこちらから行きますね。
そう言うと、希は地面を強く蹴り、風宮会長との距離を一気に詰める。
速い!?
希の「瞬間練成(仮)」に動揺した会長は、次の動作にわずかな遅れを生じさせた。
これで終わりです!
会長の目の前に辿り着いた希は、刀を横一線に振り抜いた。
えっ!?
会長に向けて振り抜いたはずの刀から、本来ならば聞こえるはずの無い金属の衝突音が聞こえた。
そう簡単に倒されないわよ!
会長は新たに、一挺のライフル型のデバイスを出現させ、その銃身で希の攻撃を防いでいた。
さあ、今度こそ決着よ!
風宮会長が、希を囲うようにして周囲に展開させた砲撃の第二射の準備を終え、全ての銃口を目の前の希に向ける。
これでは、希はどこにも逃げることができない。
っ――――――!
会長の攻撃は狙い通り、希に全弾命中。
申請試合は会長の勝利という形で幕を閉じた。
痛ったー。
私が目を覚ましたのは、医務室のベッドの上だった。
あ、あの……。
大丈夫ですか?
私に問いかけてきた人物は、目がパッチリと大きく、背が少し小さめのナース服を着た少女であった。
彼女の印象は、どことなくウサギを彷彿させるように思えた。
あ、あの……。ここは……?
私が彼女に聞くと、彼女は慌てて答えた。
ここは学園の医務室です。
あなたは、会長と申請試合をして、それに負けて怪我をしたので、ここにつれて来られたんですよ?
そっか。
私、負けたんだ。
久しぶりに負けたということを思い出し、思わず苦笑いをしてしまう。
私は医療科の愛川 恵と言います。
あなたと同じ、高校二年生です。
あと、会長が運んできてくれたんですよ?
自己紹介と同時に意外な発言が彼女から発せられた。
風宮会長が?
私は、驚いた。
そのまま学園の外に放り投げられるかと思っていたからだ。
愛川さん、会長はどこに?
私はベッドから立ち上がり、愛川さんに会長の場所を聞いた。
そう言えば、会長があなたを呼んでいました。
目が覚めたら会長室に来るようにって。
会長室?
ということは、退学の手続きか何かかな?
あー。退学かー。
私がベッドの上で声に出して言うと、愛川さんが思い出したかのように、私に言った。
あ、でも、退学は取り消してもらえたみたいですよ?
愛川さんが、持っているタブレットを操作し、私にデータを見せてくれた。
そこには、この学園への正式な編入が認められたことが書かれていた。
これは、どういうこと?
疑問に思いながら、取り敢えず生徒会室に向かうことにした。
治療、ありがとね。メグちゃん。
め、メグちゃん……!?
愛川さんのパッチリとした目が、驚きで余計に大きくなる。
フフッ。これからよろしくね。
私は、そのまま生徒会室に向かった。
生徒会室に向かう途中、廊下を歩いていると、優斗に出会った。
お、希。怪我は大丈夫だったか?
優斗が笑顔で話しかけてきた。
うん。大丈夫だったよ。さっきはごめんね。
優斗の言ったとおり、風宮会長は強かった。
なんだかんだで、手加減をしてくれていた火憐さんとは、魔導のエネルギーが違っていた。
びっくりだよ。俺の忠告は無視するし、勝手に申請試合始めちゃうし。
優斗が苦笑いをしながら言っている。
ごめんね。今度からは気をつける。
私がそう言うと、優斗は私の頭をやさしく撫でた。
で、退学は無しになったんだろ?
優斗もそのことを知っていた。
え、何で知ってるの?
ああ、希が気絶している間にみんなの前で言ってたからな。
それに、あれは多分、希の覚悟を見たかっただけじゃないかな?
覚悟?
私が首を傾げると、優斗が早く生徒会室に向かうよう促した。
大体の内容はわかるけど、会長も悪いようにはしないって言ってたから、緊張することは無いと思う。
優斗の言葉に、私は少し安心する。
家族がいるという感覚は久しぶりだ。
とは言っても緊張しないなんてできない。
なぜなら、生徒会室の入り口のドアがいわゆる大豪邸の玄関のドアのような重高感あふれるデザインだったからだある。
こんな所に風宮会長達、生徒会メンバーがいるんだ……。
ほかの教室とは異質の高級感を醸し出しているドアを前に、そのドアノブに手を掛けることを少し戸惑ってしまう。
私は覚悟を決めて、ノックをして中に入った。
し、失礼します……。