学校への登校途中に、衝撃の事実を突きつけられた俺は、その事実に驚愕しながらも、詳しく話しを聞いてみることにした。

 希の話を聞いていくと、どうやら希の家族と俺の親父は知り合いだったらしい。

 そして、この婚約も、親同士が勝手に決めたことらしく、最近まで希もこのことを知らなかったらしい。

 しかし希の家族の死により、身寄りが無くなり、俺との婚約の事実や、その他もろもろをその時に俺の親父に聞かされ、引き取り手のいない希を親父が引き取った。

ということだそうだ。

 さらに俺の親父が、どうせ結婚するんだから、苗字が一緒でも支障がないだろうということで、苗字が神裂になったらしい。適当な親父のやりそうなことだ。

 そして今に至り、今年からこの学園に通うことになったということだそうだ。

 ここまでの話を聞いたとき、希は淡々と明るく話していたが、中々に壮絶な話の内容だったので、俺は少し驚いた。

神裂 優斗

 な、なあ、嫌な事思い出させて悪かっ――――。

 俺がそこまで言いかけた時、その言葉に被せるように希が言った。

神裂 希

 そろそろ学校だね。

 笑顔で言う希の先の道を見ると、学園の正門が見えてきていた。

 正門の前には、一般の学生と生徒会が挨拶運動をしていた。

 なんだかんだで、希の旧姓や、実家を聞くことはできなかった。

 いや、はぐらかされたと言うべきか。

 そのことに若干の疑問を覚えながら、しかし、これから一緒に暮らして行くのだから聞く機会はいつでもある。

 俺はそう思い、この話はまたいつか、希に聞くことした。

神裂 希

 へー。これが、日本の朝の登校風景かー。

 希が目をキラキラさせて、生徒会の方に歩いていく。

神裂 優斗

 あ、まずい

 俺がそう言った瞬間、生徒会の一人が首にかかった笛を勢いよく鳴らした。

 ピピーーーー!

神裂 希

 え、何?

 希がキョロキョロしていると、笛を鳴らした人物が歩いてきた。

 そして、希の前に立ちはだかった。

風宮 梓

 あなた、ここは神聖な学舎よ?

 厄介なのにつかまった。

 彼女は、この学園の生徒会長、三年生の風宮梓だ。

 風宮梓、長い髪に豊満な胸、スポーツ万能、成績優秀。

 彼女は、この学園の実質的のリーダー。というより、女王だ。

神裂 希

 え、えっと……。

 どう返して良いかわからない希はアタフタしている。

神裂 優斗

 しょうがないな。

 俺は、人だかりになっているところを掻き分け、希と生徒会長のところに行った。

神裂 優斗

 風宮会長。

 俺は、二人のもとに辿り着き、会長に話しかけた。

風宮 梓

 あら、神裂君。

 おはようございます

 会長は、希を睨みつけたまま俺に返事をした。

風宮 梓

何か用ですか。
今、あなたにかまっている暇はありません。

 依然、希を睨んでいる。

神裂 優斗

 あの、風宮会長。

 希は今日来たばかりなので、制服とかは大目に見やってください。

 俺が希の事情を説明すると、会長は希を睨んだまま、希に言った。

風宮 梓

 今回は大目に見ましょう。

 しかし、そのスカート丈や髪など、生徒手帳でしっかり確認して明日までに直してくるように。

 そう言って去っていこうとする会長。

 それに対して、希が会長を呼び止めた。
 

神裂 希

それはできません。

 その言葉に、その場に居合わせた生徒の全員が驚いた。

 それは、会長の怒りを買った生徒の全員、いわゆる不良や態度の悪い生徒は、この会長によって、退学もしくわ強制的に態度を改めさせられているからである。

神裂 優斗

 か、風宮会長?

 俺が恐る恐る会長に尋ねると、会長は、ゆっくり希の方を見て言った。

風宮 梓

 そうですね。

 あなたはまだ、私の怖さを知りませんでしたね。

神裂 優斗

 やばい。これは申請試合になる。

 俺は直感でそう思った。

 会長はここの学園で一番の実力の持ち主。

 いくら希に俺を倒せる実力があったとしても、魔力量で圧倒される。

神裂 優斗

 どうにか申請試合を回避しなければ……。

下手したら登校初日で退学処分だ。

風宮 梓

 今から申請試合を行います。

 会長がそう宣言すると、会長と希の電子生徒手帳に申請試合という文字が浮かんだ。

神裂 希

 え、申請試合って?

 希は首を傾げている。

風宮 梓

 申請試合とは、もし、生徒会もしくわ学園側に不服があるとき、又は、生徒間の意見の衝突が生じた時に、学園内のどこでもできる試合のことです。

 そして、続けてこう言った。

風宮 梓

 今、あなたは私の言ったことに対して、できませんといいました。

 ですので、あなたの意見を通したいのであれば、申請試合で私に勝つこと。

 それが唯一の方法です。

 会長は希の承諾を待っている

神裂 希

 そう。わかったわ。

 希は軽い感じで承諾した。

 「おい。あいつ、承諾したぞ。」

 「終わったな。」

 「あの子、どうなるんだろ。」

 集まった野次馬がそれぞれに話し始め、周囲がざわつく。

神裂 優斗

 おい、希。

 いくら俺に勝ったからと言っても、会長は無理がある。

 俺は、慌てて希に駆け寄って、俺でさえ会長には苦戦を強いられることを伝えた。

神裂 希

 でも、ユウは勝ったんでしょ?

 髪型の校則違反を指摘されていない俺を見て、希が言った。

神裂 優斗

 それは、会長が手加減してくれたからであって、今の希の状況とは違う。

 俺は必死に希を説得するが、希はそれを聞かない。

風宮 梓

 神裂君。試合の邪魔よ

 会長はやる気満々だ。

神裂 希

 そうだよ。会長の言うとおり。それに、私は負けない。

 そう言って、希は校庭に浮かんだ、スタートポジションの光が示す位置に着く。

 すると、会長が試合のルールを話し出した。

風宮 梓

 ルールは模擬戦と同じ。

 もし、あなたが勝てば私はあなたの服装や髪型、そしてあなたの行動に対して、これからの学園生活で一切の不問を約束します。

 その代わり、私が勝った場合、あなたはこの学園から出て行って貰います。

 大抵、こんなリスクを負ってまで会長と申請試合をする馬鹿は居ない。

 それは会長が強いということを知っているからだ。

 しかし、それを知らない希は、この言葉が会長の最後通告とは思っていない。

神裂 希

 いいよ。それは必ず守ってくれるんだよね?

 希が聞く。

風宮 梓

 ええ。ですが、あなたが私に勝てなければ強制退学。

 それも守っていただきますよ。

神裂 希

 もちろん!

 負けるつもりは無いので。

 二人は笑顔で話しているが、その空気はそれとは正反対の、戦いの火花が散っているようであった。

金剛寺 猛

では、私が審判をします。

 そう言って、背の高い体格の良い男が審判の位置に着く。
 
 生徒会副会長の金剛寺 猛だ。

風宮 梓

 名前を言ってなかったわね。私の名前は風宮 梓よ。

 会長が思い出したかのように言った。

神裂 希

私の名前は神裂 希。

今日からこの学園に通う編入生よ。

 希は笑顔で言った。

 そして金剛寺が試合の開始を宣言する。

金剛寺 猛

 では、これから生徒会の権限により、申請試合を始めます。

 エリアはこの学園の校庭内。

 障害物は一切なし。

 なお申請試合の間、校庭外に危険が及ばぬようバトルフィールドを形成。

 この間、校庭内に一切の人の立ち入りを禁じます。

 もちろん、誰かさんの立ち入りもできないので、そのつもりで。

 副会長の金剛寺が眼鏡を光らせ、俺を睨んでいる。

神裂 優斗

 わかっているよ。

 どうやら、邪魔をするなということらしい。

 まあ、何がともあれ、始まってしまったものは仕方がない。

 昨日の道場の模擬戦での「瞬間練成(仮)」を客観的に見ることができるチャンスなわけだ。

 ここは、希が会長相手にどこまでやれるか。その実力を見せてもらうことにしよう。

金剛寺 猛

 両者、準備は?

 金剛寺が言う。

風宮 梓

いいわよ。

神裂 希

 もちろん!

 二人がそれに答える。

金剛寺 猛

 申請試合開始!

 金剛寺が試合の開始を宣言した。

第十四話:《学園の女王1》

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