なんて無礼な少女なのだろう。
ところで貴女、名前は何と言いますの?
…………クリエ
っ…………くすくす
……?
ごめんなさい、随分と庶民的な名前だと思いまして
…………どうも
なんて無礼な少女なのだろう。
どうなさいました?急に黙り込んじゃって
……別に
しかし、世の中物騒になりましたわねぇ……
最近は怪盗シャムロックという賊が出回ってるなんて聞くじゃありませんか。もう夜も眠れませんわ
…………そう
唐突に自分の名前が出たのには驚いたが、隣の彼女が夜になると自分に怯えて眠れないのを知って、つい頬が緩んでしまう。
自分でも子供みたいだなと思ってしまうクリエだった。
先日なんてピルツ様の家の宝石まで盗まれたと聞きました。とても胸が痛みますわ
この調子では、我が家の大事な純性宝石も狙われるのも時間の問題ですわね……
…………えっ?
純性宝石?
ええ。我が家系に代々伝わる、正真正銘の純性のダイヤモンドですわ
思わず、格好の獲物が網にかかった気分だ。
彼女の話が嘘でないなら、ついに純性宝石が手に入るかもしれない。
手に入れることができれば、弟や義父の病気を治す手術を受けさせることができるかもしれないのだ。
焦っちゃダメ……!
今までも純性宝石と謳っていた宝石が鑑定後に加工宝石だと判明した例はたくさんあった。
もう二の鉄は踏まないようにしないといけない。
……それって、本当に純性なの?
まぁなんて失礼な方なの!我が家に代々伝わるダイヤモンドがまがい物だと?
でも……加工宝石だってたくさん出回ってるし……
いいえ!我がブルートシュタイン家のダイヤモンドは絶対に本物です!
びっくりするくらい単純な人で助かった。
クリエ自身、こうやってかまをかけて情報を得ることは得意ではなかったが、そんな心配も必要なさそうだ。
そこまでおっしゃるなら、見に来ますか?我が家の宝石を!
えっ?
……いいの?
勿論ですわ!絶対にほえ面かかせて見せます!!
明日の正午、このダリア・ブルートシュタインの屋敷にいらしてください!そこで純性のダイヤモンドを御覧に入れますわ!!
……う、うん
いつのまにか、彼女――ダリアの迫力に気おされてしまっていた。
だが、クリエからすれば棚からぼた餅だ。
盗みに行く前に、屋敷の中を偵察に入ることができる。しかも、堂々と。
わめくダリアの言葉を聞き流しながら、クリエの目は怪盗シャムロックと同じになっていた。