シャンブル・ヤーデ

いやいや、ようやく来てくれたか、クリエくん

クリエ・エーデルシュタイン

……こんにちは

シャンブル・ヤーデ

元気がないようだね?なにか不備でもあったかな?

クリエ・エーデルシュタイン

……別に何も

クリエ・エーデルシュタイン

やっぱり、この人苦手……

街の裏路地のさらに奥

闇医者、シャンブル・ヤーデの家はそこにあった。
彼は卓越した技術を持っているが、変人であることでも知られていた。


「人は神の下に平等」なんて、今時神父様以外言っている人はいないというのに。

この男は平等愛に心酔しているようにも見えた。

シャンブル・ヤーデ

さてさて、診察を始めようか

クリエ・エーデルシュタイン

…………

あと、解剖が大好きだ。

シャンブル・ヤーデ

ところで、昨日も怪盗を行ったそうじゃないか

クリエ・エーデルシュタイン

…………うん

診察と言いながら、手術台の上に寝かされるのも慣れてしまった。

普通の人なら絶対に快く思わないだろうが、クリエは診てもらえるならなんでもいいというスタンスだった。

シャンブル・ヤーデ

よし、CSも問題なさそうだな

クリエ・エーデルシュタイン

逃げる途中で少し血を吐いちゃったけど、大丈夫?

シャンブル・ヤーデ

長時間活動したせいかもしれんな。君は肺に腫瘍があるから、あまり動くとCSでもカバーしきれなくなる

シャンブル・ヤーデ

分かっていると思うが、CSはコンビネーション・スウィンドルの略、要は特別な加工宝石だ。病や疾患を抱えた臓器の代わりになり、体の力を飛躍的に上昇させることができる。君の肺のひとつがそれだ

クリエ・エーデルシュタイン

そのCSのおかげで、私は走ることができるようになった……

シャンブル・ヤーデ

そう。そして、CSのおかげで君は怪盗シャムロックになることができた

クリエ・エーデルシュタイン

普通ならありえないくらい足が強くなって……

シャンブル・ヤーデ

屋根にのぼることも、壁や屋根をけり破るほどのパワーとスピードを手に入れた

クリエ・エーデルシュタイン

……もっと長い間走れたらいいのに

シャンブル・ヤーデ

忘れてはならんのは、CSは万能の代物ではないということだ。結局は本物の臓器よりも性能は落ちるし、副作用だって存在する。君が吐血するのだってCSが君の運動に反応して過度なパワーを引き出そうとするからだ。君の場合は元々肺が病弱だったから、もう一つの肺も限界が近いのかもしれんな

シャンブル・ヤーデ

それに、CSはまだ不完全で不可解なことが多い。体のどの機能が向上するのかも分からないし、CSが体と合わずに砕けてしまう例も存在するくらいだ

シャンブル・ヤーデ

だが、君はCSと相性が非常にいい。いや、まるでコントロールしているみたいだ

クリエ・エーデルシュタイン

……ずっと走り回ってますから

シャンブル・ヤーデ

あぁ、不鮮明な説明ですまないね。なにせ君がCS移植手術の初めての成功者だ。まだデータが集まりきっていないからね

クリエ・エーデルシュタイン

いえ、ありがとうございます

クリエ・エーデルシュタイン

ふぅ……

すっかり遅くなってしまった。
長居するつもりもなかったのに、あの先生はやたらとクリエの心配をしてくる。

夜は危ないから泊っていけと言われたことも少なくない。
過保護とは違うかもしれないが、それに似た感じというか
残念ながら、学に乏しいクリエにはよい表現方法が思いつかない。

とはいえ、遅くはなったが、養父の家で夜食でも食べようかと考えていた時――――

…………あら?

クリエ・エーデルシュタイン

えっ?

あなた、こんな遅くに何をしていますの?

そこにいたのは、見知らぬ少女だった。
着ている服と言葉づかいから、貴族の娘だろうというのは分かるが、クリエはナルシスに連れられて貴族間の集まりに参加したことがほとんどない。

つまり、彼女が誰か分からなかった。


聞こえていますの?何をしているのかと聞いていますの!

クリエ・エーデルシュタイン

……散歩。そういう貴女は?

少しイラッとしたので聞き返すと、少女の顔が逆にパッと明るくなった。

まぁ良かった!散歩中ということは暇ということでよろしいですわね?では私の供をしてくださいませ

クリエ・エーデルシュタイン

…………はい?

実は少し困っていましたの。こんな暗い夜道を出歩いたことがないので、誰か供を連れておけば安心ではないかと

クリエ・エーデルシュタイン

つまり……怖いの?

そんなことは言っておりません!

よく分からないが、照れたり怒ったりと見ていて飽きない少女だった。


偶然にも、方向がクリエの目的地と同じのため、しびしぶ受け入れたのだった。

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