俊之がクーラーボックスを抱えて、
自宅の玄関へ帰って来た。
ただいま～。
俊之がクーラーボックスを抱えて、
自宅の玄関へ帰って来た。
おかえり～。
おかえり～。
おかえり～。
リビングに居た女三人が返事をした。
そして三人は立ち上がって玄関へ行き、
俊之を出迎える。
早く魚だけ出しちゃって。
分かったわ。
そう言うと、俊之の母がクーラーボックスから、
魚を取り出す。
続いて、絵美の母もクーラーボックスから、
魚を取り出した。
俊之は空になったクーラーボックスを外に出す。
外では隆行が待ち構えていた。
俊之はクーラーボックスを隆行へ渡す。
隆行はクーラーボックスを抱えて車に戻り、
車のトランクにクーラーボックスを入れた。
隆行が車に乗り込むと、絵美の父は車を走らせる。
釣り道具を自宅へ片付けて、
車を駐車場に置いてから、
絵美の父と隆行は俊之の家に
戻って来る予定だ。
俊之が今度は勝手口から家に入る。
お疲れ様～。
女性陣は皆、台所へ来ていた。
俺、しゃべり疲れちゃったよ。
釣りをしていたんじゃないの！？
俺と隆行は釣りそっちのけで、
ずっと、しゃべっていたんだ。
じゃあ、この魚は！？
全部、お父さんが釣ったんだよ。
あんた達は
一匹も釣れなかったの！？
だから、ずっと、
しゃべっていたから。
釣りだったら、
おしゃべりをしながらでも
出来るんじゃないの！？
そうなんだけど、俺達が
万が一に釣れちゃったりしたら、
お父さんの立場が
無くなっちゃうじゃん。
何、生意気を言っているのよ。
だから、俺達は殆ど、
餌も付けずに釣りをしていたんだ。
それじゃ、釣りじゃないじゃない。
そそ。
だから、くっちゃべっていただけ。
隆行と何の話をしたの？
それは言えないな～。
そう言いながら、俊之はリビングへ向かった。
そしてリビングで腰を下ろして言う。
それは、ともかく、
隆行は可哀相だったな。
何で？
絵美もリビングにやって来る。
俺は初めてだったから、
釣れなくても仕方がないけど、
うん。
隆行は何度か、お父さんと
釣りをした事がある訳でしょ。
うん。
だから、隆行、お父さんに
虐められていたから。
そっか～。
ねー、何か飲み物、ない！？
麦茶があるわよ。
絵美ちゃん、出してやって。
俊之の母が台所から言った。
はい。
絵美は台所に戻って冷蔵庫を開け、
麦茶の入った容器を出して、
コップに麦茶を注ぐ。
台所では絵美の母が手際良く、魚をおろしている。
俊之の母がそれを手伝っていた。
そして絵美は麦茶の入った容器を冷蔵庫に戻すと、
麦茶を注いだコップを持ってリビングに行き、
そのコップを俊之に手渡す。
俊之はコップに入った麦茶を一気に飲み干した。
そんじゃ、ちょっと
シャワーを浴びてくるね。
俊之が立ち上がる。
いってらっしゃい。
汗だくで、気持ちが悪くてさ。
そう言いながら、俊之が風呂場へ向かった。
暫くの後、俊之がタオルで頭を拭きながら、
リビングに戻って来る。
お父さん達、まだ来ていないの！？
川村さんのお父さん達も
シャワーを浴びたり
しているんじゃない！？
俊之の母が台所から応えた。
俊之の母と絵美の母は
台所で夕飯の支度をしている。
あ、そうだよね。
絵美がリビングにやって来て、俊之に訊く。
俊君、何か食べる？
まだ、いいよ。
お父さん達が揃ってからで。
分かった。
女チームはお菓子を作ったんでしょ！？
何を作ったの？
うーん。
色々。
そっか。
もう食べたの？
食べたよ。
美味しかった？
すごく美味しかったよ。
俺達の分はあるの？
ゼリーとケーキはあるよ。
そっか。
楽しみだな～。
ケーキは南瓜のケーキよ。
俊之の母が台所から口を挟んできた。
げー。
南瓜かよ～。
あはは。
じゃあ、俺はケーキはいらねー。
俊君、本当に南瓜が嫌いなんだ。
うん。
南瓜と薩摩芋だけは
苦手なんだよね。
えー。
美味しいのに～。
なんか、ポソポソして、
粉っぽいじゃん。
それが嫌なんだよね。
そっか～。
俊之がそんなんだから、
こういう機会でもないと、
作る事が出来ないのよね～。
再び俊之の母が口を挟んできた。
すると、玄関のチャイムが鳴る。
お父さん達、来たんじゃない！？
俊之の母が台所を抜け出して、玄関へ向かった。
幾らもしない内に、俊之の母に連れられて、
絵美の父と隆行がリビングへとやって来る。
絵美の父と隆行の髪は、
まだ乾ききっていなかった。
俊之の母が言った様に、
シャワーを浴びてきた様だ。
どうぞ、座って下さいな。
俊之の母に促されて、
絵美の父はテーブルの所で座った。
絵美の父から見て、右の側に俊之が座っている。
そして絵美の父から見て、左の側に隆行が座った。
俊之とは対面する位置である。
絵美の母が、
絵美の父が釣ってきた魚をお造りにし、
皿に盛ってリビングに持って来た。
結構、遅かったわね。
帰りは渋滞に捕まっちゃってさ。
そりゃ、そうでしょうよ。
それを見越して、向こうを
発てばいいだけでしょう！？
いや、行きは一時間ちょいだったから、
二時間もあれば十分かと思っていたら、
三時間もかかっちゃったよ。
それは、ご苦労様。
そう言うと、絵美の母は台所に戻った。
入れ替わる様に、絵美がビールとコップを持って、
リビングへやって来る。
そして絵美はコップを父に渡すと、
そのコップにビールを注ぐ。
お父さん、お疲れ様。
ありがとう。
そして絵美の父は最初の一杯を一気に飲み干した。
この一杯が最高に美味いんだよな。
すぐに絵美が二杯目をコップに注ぐ。
そして絵美は、まだ中身の残っているビール瓶を
テーブルに置いて、台所に戻った。
絵美の父がお造りに手を伸ばす。
俊君も隆行も食べなさい。
はい。
絵美の父に促されて、俊之と隆行は二人して、
お造りに箸をつけ、食べ始める。
すげー、美味しい。
ははは。
そうか！？
ウチじゃ、スーパーの刺身しか
食べられないからなぁ。
仕方がないでしょ。
台所から俊之の母が口を挟む。
それじゃ、また今度、
一緒に行こうな。
お願いします。
ちょっと早いけど、
お夕飯の用意をしましょうか！？
俊之の母がリビングへやって来た。
私はビールがあれば十分ですよ。
俺は早く食べたい。
隆行は？
俺もお腹が空いた。
判ったわ。
ちょっと待っていてね。
俊之の母が台所へ戻る。
それにしても、俊君も隆行も、
見事に釣れなかったな。
父さん、いつまで
同じ事を言っているんだよ。
俺達じゃ、お父さんには
到底、敵いませんよ。
俊君はまだ初めてだから、
仕方がないさ。
隆行だよ。
情けないのは。
父さん、もう酔っ払っているの！？
まだ、酔っ払ってなんかいないぞ。
じゃあ、ちょっと、
しつこ過ぎだよ。
女性陣には、
まだ話をしていないじゃないか。
なんだ。
自慢をしたいだけかよ。
絵美の母が揚げ物を皿に盛って、リビングに来る。
お父さん、ご機嫌ね。
絵美の母はそう一言だけ言って、
揚げ物を盛った皿をテーブルに置き、
再び台所へと戻る。
そりゃ、そうさ。
釣果があったのは、
私だけだったのだからな。
続いて絵美が餃子を盛った皿を持って、
リビングまで来て、それをテーブルに置いた。
本当にお父さん、すごいわ。
絵美もそう一言だけ言って、台所へと戻る。
こんなにいい気分になったのは、
本当に久しぶりだな。
俊之の母がサラダを盛った皿を持って、
リビングに来る。
本当にありがとうございました。
俊之の母はそう言いながら、
サラダを盛った皿をテーブルに置く。
いえいえ。
こちらこそ、俊君のおかげで、
とても楽しい一日にする事が
出来ました。
そう言って頂けると、
こちらもとても助かります。
そして俊之の母は台所へと戻った。
ご飯、まだー？
ちょっと待っていなさいよ。
台所に戻ったばかりの俊之の母が応えた。
絵美の父が一本目のビールを空ける。
すぐさま絵美が二本目のビールの詮を抜いて、
リビングまで持って来て、テーブルに置き、
台所へ戻った。
そして取って返す様に、今度は俊之と隆行のご飯を
よそった茶碗を持って、リビングへとやって来る。
サンキュ。
絵美は俊之と隆行に茶碗を渡すと台所へと戻る。
茶碗を渡された俊之と隆行は勢い良く食べ始めた。
その様子を絵美の父が優しい眼差しで眺めている。
隆行はご飯を三杯、俊之はご飯を四杯、食べた。
おかずも殆どが無くなってしまう。
揚げ物とお造りが幾らか残っているだけだった。
絵美の父も二本目のビールを空ける。
お父さん、もう一本、飲む？
台所から絵美が父に訊いた。
そうだな。
貰おうかな。
今日はいいだろ！？
絵美の父は少し酔いが回ってきている様だった。
絵美が三本目のビールを持って、リビングに来る。
はい。
でも、これで最後だよ。
判っているよ。
絵美は詮の開いたビールをテーブルに置くと、
台所へ戻った。
今日の餃子、味がいつもとは違ったね。
絵美ちゃんが作った餃子だからね。
台所から俊之の母が応えた。
そうだったんだ。
どうりで美味いはずだ。
私の餃子は不味くて悪かったわね。
再び台所から俊之の母が応えた。
別にそういう意味じゃないって。
おっかあのも美味しいけど、
俺はいつも食べているから、
代わり映えしないっていうかさぁ。
ははは。
じゃあ、今度は私が山ノ井さんの
餃子をご馳走にならせて
頂こうかな。
あら、川村さん、
嬉しい事を言って下さるわ。
私も食べてみたいな～。
じゃあ、次回は私が
餃子を振る舞わせて頂くわ。
台所から俊之の母と絵美が話に参加する。
隆行。
台所から絵美の母が隆行に声を掛けた。
何？
あんた、ケーキは食べる？
ケーキがあんの！？
あるなら食べるよ。
お父さんは？
私はケーキはいらないよ。
絵美、俺にはゼリーをくれよ。
了解。
絵美の母が南瓜のケーキを持って、
リビングに来て、そのケーキを隆行に渡す。
隆行、はい。
サンキュ。
絵美の母が台所へ戻る。
入れ替わる様に、絵美がゼリーを幾つかに
切り分けて皿に盛り、リビングに持って来た。
お待たせ。
サンキュ。
このゼリーも私が作ったんだよ。
そう言いながら、絵美はゼリーを盛った皿を
テーブルに置くと、台所へ戻って行く。
そうなんだ。
そう言いながら、俊之はゼリーを一つ、口に運ぶ。
私も一つ、頂こう。
絵美の父もゼリーを一つ、口に運んだ。
隆行は南瓜のケーキを食べている。
すごい美味しいじゃん。
これ母さんが作ったの？
それは山ノ井さんが作ったのよ。
リビングと台所で言葉が飛び交う。
やっぱり。
やっぱりって、何よ！？
だって母さん、こういうの
作ってくれた事がないじゃん。
ウチはオーブンがないから
作れないのよ。
隆行、私に一口だけくれないか！？
ゼリーを食べ終えた絵美の父が
隆行にケーキをねだる。
しょーがねーなー。
そう言いながら、隆行はフォークでケーキを
一口大に切り分け、フォークで刺して父に渡した。
絵美の父はすぐにケーキを口に入れて、
フォークを隆行へ返す。
本当に美味しいな。
皆さんに褒めて頂いて光栄ですわ。
ウチじゃ、俊之が南瓜、
苦手だから、作る機会すら
ありませんし。
絵美、ゼリーも美味しいよ。
でしょ。
でも、ゼリーは簡単だから、誰が
作っても同じ味になると思うな。
そんな事はないですよね。
お父さん。
俊之が絵美の父に話を振る。
そうだな。
絵美が作ってくれたと思うと、
より美味しく感じるよ。
俊君もお父さんもありがとう。
南瓜のケーキを食べ終えた隆行が、
ゼリーを口に運ぶ。
それじゃ、私達も締めのゼリーを
頂こうかしらね。
そうね。
女性陣はこれまで、合間合間に、
それぞれが適当に食事を済ませていた。
その締めとして、
女性陣三人は台所でゼリーを食べている。
こうして俊之達にとっての
夏休み最後の日曜日の夜が更けていく。
明日から学校が始まるまで、
俊之はバイトで予定が埋まっている。
そして二学期になると、
俊之は隆行の家庭教師も始める予定なのだ。
その前の和やかなる二家団欒の一夜であった。
