追っ払われた
与兵たち

しかたがなく囲炉裏の部屋に戻ってきました。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

納屋の方からはた織りの音が、また聞こえてきました。

与兵

大丈夫だと思うか?

吾助

何が?

与兵

足とか
寒いのとか。

この家は、雪が残る山奥にあります。

吾助

火とか持ってってやれば?

与兵

そうだよな。

与兵は何本か薪を持って納屋に行きました。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

……止まった。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

しばらくして、またはた織りの音が聞こえてきました。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵が戻ってきました。

吾助

お帰り。
どうだった?

与兵

いらないって。
でも、外に置いてきた。

与兵は持って行った薪で簡単な暖房を作って置いてきました。

与兵

夜はあんなに寒い寒いって言うのに……。

与兵は心配そうにため息をつきました。

与兵

茶でも飲む?

吾助

もらうよ。

与兵は台所でお茶を入れました。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

ん。

与兵はお茶を吾助と自分に入れました。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

お前さ、今まで彼女のこと、
こんなに気にかけてたことあったか?

お茶を飲みながら吾助が言いました。

与兵

あいつは彼女じゃねーし。

吾助

嫁だったな。

与兵

なんか、
そう言うし……。

吾助

お前はどう思ってんの?

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

俺は、大事なヤツだって
思ってるけど……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

認めてもらえねーじゃん。
一般的に……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

男だしガキだし……。

吾助

だな……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

なんとかなんねえ?


他力本願与兵が吾助に言いました。

吾助

う~ん

吾助は湯呑を両手で持って考えます。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

あいつ、
戸籍あるのか?

与兵

ないのか?

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

それ聞いてんだけど。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

ないんだったら、女として新しい戸籍を作って、それなりの年になったら結婚とか?

与兵

外見あれだし、
いけるんじゃないか?

吾助

そんな簡単にできるか。
日本国籍って取るの難しいみたいだぞ。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

その筋に頼んでも?

吾助

お前、そんなところに頼みたいの?

与兵

いまさら借金
増えてもいいんじゃね?

吾助

俺はやだぞ。
やるんなら自分でしろ。

与兵

……やめておこう。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

俺に借金させる
つもりだったわけ?

与兵

いや、これ以上、吾助に迷惑をかけるわけにはいかない。

吾助

本気でそう思っているのか?

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

……。

吾助

……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

……。

吾助

……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

……。

吾助

……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

いつものことです。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

そもそもあいつ
何人なんだ?

与兵

ここに来たとき、「この国では」とか言ってたから、多分、外国人?

与兵

どこの国かはわからない。

吾助

四分の一は「この国の血が入ってる」って言ってたぞ。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

なんでそんなこと知ってんだ?

吾助

お前の留守中に聞いたんだよ。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

てか、お前。気にならないのか?
相手の出身地とか素性とか。

与兵

あんまり
気にならない。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

お前さ、付き合う相手がどんなヤツかとか、ちゃんと調べてから付き合えよ!

与兵

詮索されるの、
嫌かな?とか思って……。

吾助

自分の彼女がどんな人間かも知らないし、得体のしれないガキは家に置くし!

吾助

だからヤクザの女なんぞに引っかかるんだろ?!

与兵

あ……
ごめん……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

その……明美?
今も元気?

吾助

知らねーし!

与兵

もう付き合ってないのか?

吾助

どっか行ったし!

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

ヤクザな旦那が登場したら、
さっさと身を隠したってことか……。

そんな吾助を、申し訳なさそうに与兵は見ました。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

明美はいなくなったのに、
チンピラが残って
今も金を渡しているなんて……。

へへっ

あのチンピラは、きっとその手下だろうと与兵は思いました。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

なんだかんだで、
吾助も続かないよな……。

与兵

何か欠陥でもあるのか?
いいヤツなのに。

与兵

俺が女だったら、そんなヤクザな旦那なんかと別れて、吾助と一緒になるし。

与兵

やっぱ女って、何、
考えてるかわかんないよな。

自分が原因だと、気づいていません。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

今は彼女
いるのか?

吾助

あ゛?

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

いねーし。

与兵

そっか。


なぜか嬉しそうです。

吾助

男でガキな嫁がいるよりは
ましなんだよ!

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

それでもいるのといないでは
天と地ほどの差があるぞ。

吾助

目ぇ覚ませ。
下半身クソ男が。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

考えてもみろ。
あの顔で……

鶴太郎

おんぶ

与兵

とか

鶴太郎

だっこ

与兵

とか

鶴太郎

与兵、大好き。

与兵

とかって
言うんだぞ。

与兵

家事でもなんでもやってやろうって気になるよな。

吾助

外見で決めるの、
そろそろ止めろ。

与兵

じゃ、何で決めるんだ?

吾助

自分で考えろ。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

俺は

鶴太郎

吾助ってМだよね。ボクを痛めつけて喜ぶってより、ボクを痛めつけて傷ついた与兵に責められたいって感じがする。

吾助

の印象が強い。

鶴太郎はほんのわずかな時間で、吾助の本性を見抜いていました。

吾助

あれ、とんでもない
曲者だろう。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

ジジイもそうなんだよな……。

じいさん

ワシはなんでもお見通しじゃ。

はっきりとは言ってきませんが、微妙にバレてます。

吾助

ジジイは年の功って感じだけど……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

うーん。

吾助には引っかかっていることが、たくさんあります。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

お前、ジジイの出身地、知ってるか?

与兵

え?じいさん?
この辺じゃないの?

与兵

俺らがガキの頃からいるじゃん。

吾助

そうなんだよな……。

与兵

誰より古くからいるし。

おじいさんは町の長老格で、みんなから頼られる人です。
なんだかんだで吾助もおじいさんには世話になっています。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵が立ち上がります。

与兵

食事の支度するけど、
吾助はどうする?

吾助

ああ、うん。食うよ。
あいつの怪我も心配だからしばらくいるつもりだし。

そう言って、吾助は納屋の方を指します。

与兵

泊まってくか?

吾助

いいか?

与兵

いいぞ。
布団もあるし。

与兵も嬉しそうです。

与兵

久しぶりだな。
吾助がウチ泊まってくの。

町にある診療所の方ですが、小さい頃はいつも一緒にいました。

吾助

そうだな。

与兵

いつも俺の方が先に寝ちゃって……

吾助

……。

与兵

起きると吾助の方が先に起きてて……

吾助

……。

与兵

お前、どこで寝てたんだ?

吾助

お前のベッドで寝てたぞ。

与兵

そうだったのか?

吾助

あのベッド、でかかったし。

与兵

そっか……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

微妙な空気が流れました。

与兵

じゃあ、野菜取ってくる。

収納庫は外にあるので、与兵は出て行きました。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

……。

吾助は火に当たりながら、考えていました。

じいさん

ガキっていうのはな、なんでもかんでも手伝ってはいけないんじゃ。ジジイはいつでもそっと見守っているのが役目じゃ。

それがおじいさんの口癖で、陰にひなたに見守りながら、与兵を育てていました。

じいさん

お前だってワシにとって息子みたいなもんだぞ。

そう言って、小さかった吾助の頭をなでてくれたことも覚えています。

吾助

あのジジイが自分の子供を放っておくとかって、考えられないんだよな。

とにかくおじいさんは、他人の面倒をよく見ています。

吾助

自分の子供を放置していたから、他人の子供で罪滅ぼしっていうタイプでもなさそうだし……。

吾助

もしそれだとしても、
鶴太郎は年が合わない。

鶴太郎は、12、3歳に見えました。

12、3年前の与兵たちもそれくらいの歳で、その頃におじいさんが長期に出掛けたり、鶴太郎に似たような風貌の外国人が来たようなこともありませんでした。

吾助

無理ではないかもしれないが、
あのジジイ……。

じいさん

長く生きていれば
結婚くらいするだろうに。

吾助

もてるのか?
あの顔っていうか、性格で……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

じいさん

ワッフル旨いだろ。
ワシの得意料理じゃ。

それも、気になっています。

吾助

鶴太郎の父親はハーフのはず。

じいさん

   →
ハーフ?

吾助

に、見えなくもないか?
細いからわかりにくいけど、目の色青っぽいし。

薄汚れてはいるのですが、おじいさんの肌の色や目の色が薄いことに、吾助は気づいていました。

吾助

年を取れば、人種も性別も大差なくなるっていう感じ?

吾助は気になりますが、他の人はあまり気にならないみたいです。

吾助

言葉は通じるし、とにかく昔から居るからな……。

吾助

あとは、孫っていう可能性……。

鶴太郎

与兵。

じいさん

がっはっは!

吾助

ないな。

吾助

血がつながってると思いたくない……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

同郷はあるかも?

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

まてよ……。町中が女装……。
ジジイの女装?

とんからりん

とんからりん

とんからりん

じいさん

         →
の女装を想像してみた。

吾助

無理だろ?

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

あ……。

吾助

女装が似合わなくなると
追い出されるとか……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

じいさん

がっはっは~

吾助

これが女装してたら
追い出したくなるかも……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

いやいや……。
さすがにそんな村、ナイな……。

吾助はため息をつきました。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

与兵

どうしたんだ?
難しい顔して。

野菜を抱えた与兵が戻ってきました。

吾助

なんでもない……。

吾助

ちょっと、したくない想像をしただけだ……。

与兵

そうか……。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

メシの支度ができたら、呼んできてやれ。まだ長時間はやらせない方がいい。

与兵

そうだな。
これができたら呼んでくる。

与兵は台所でてきぱきと支度をはじめます。

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

とんからりん

吾助

何かが
引っかかるんだけど……。

静かな山奥に、はた織りの音が響いていました。

pagetop