やはりまた夢が関係している。



あのオフ会で出会ったアザミさんは、この呪いの噂の本人という事で間違いないのかもしれない。

……あの、その夢っていうのは、呪われた人間も見るんでしょうか!?

ツクヨミさんは、テーブルから身を乗り出して及川さんに尋ねた。

……いいえ、確かアザミの呪いと言われていたものはアザミが夢で殺したいと思う人を見ると聞いたわ。

……待って

及川さんは持っていたリュックの中から分厚い手帳を取り出すと、ページをめくりはじめる。

ええ、やはりそうね、夢を見るのはアザミ本人よ。
そして、夢を見て7日以内で死ぬってアザミは言っていたそうよ

7日以内……

私たちが会ったアザミさんの言っていた期限と同じだ。

7日──

思い起こせばキヨさんも、香奈恵さんもアザミが言った7日以内に死んでいる。

だからそれが予言や予知だという噂もあれば、アザミが殺したいと思う人間を夢に見る事で呪い殺したという話もあって
実際、彼女に恨んでいる人間を殺して欲しいと頼みに来る生徒までいたそうよ

えっ!? やだっ……

それで……実際その担任の先生以外にも生徒さんで亡くなった方っていたんですか?

いいえ、ほとんどアザミは引き受けなかったそうだから……

それじゃあ、ただの偶然なんじゃ?

…………

及川さんは一瞬口ごもり、手帳のページをまた何枚かめくった。

確かに、生徒の中には死人は出ていない
けど……アザミは担任の死を夢で見る前に、自分の父親と祖母の死を夢でみていて、自らその二人を呪い殺したって言っていたそうよ……

…………

…………

あの時、確かに私たちの会った彼女も言っていた。


最初に父親の死を夢に見て、その後祖母の死を夢で見た。


でも、それが呪いだなんてあの時彼女は言っていなかったはずだ。

そうアレは予知夢みたいなものなんだと言っていた……

それにね……アザミは担任が死んだあとその呪いの解き方を仲の良かった友達には教えていたそうよ

呪いの解き方!?

あるんですか!?

うん……
でもね~それがいくら聞いてもわからなかったのよ~

わからない?

どうして!?

そんな話はあったけど、誰も詳しくは覚えてないっていうのよ……
実際、生徒の中でその呪いをかけられたって人がいなかったからじゃないかしら?

そんな……


私はチラっとツクヨミさんの方を見た。


青白い顔をして彼は微かに震えている。

……じゃあ、やっぱオレも死ぬのかよ……

……!?

その言葉に及川さんは即座に反応し、勢いよく立ち上がるとツクヨミさんに詰め寄った。

どういう事!?

あの……実は……

私は今までの事をかいつまんで説明した。

オフ会で出会った、アザミという女性の事。
彼女が夢で死ぬ事を予期して死んでしまったメンバーの事。

更に、アザミ本人が不慮の事故で死に、死んだ後も死の連鎖は続いているのか、今度は気味の悪い夢を見た者が死んでしまったという事。


そして、その夢をここにいるツクヨミさんも見てしまったのだという事。

その夢がどういう夢なのかは……

私もまだ聞いてないのでわからないのですが……

私がそこまで言うと、ツクヨミさんが俯いたまま重々しく口を開いた。

香奈恵……オレの彼女が、死ぬ前に変な夢を見たって言ってたんです……

それが暗い道を進んでいくと知らない女がいて
そいつに『シデノクニへの行き方は……』って言われる夢で……

シデノクニ……?

……?

…………!!

彼女はその女は知らない人だったと言っていました……

でも、その夢で香奈恵は公園へ続く道、丸く青く浮かぶモノ、空から降る骨……そう言われたって言ってて……

それで?

オレ、香奈恵が死ぬ時側にいたんです!

そしたら……い、言われた通りの場所や物が香奈恵の死んだ時にあって……

つまり、それは死の予兆って事かしら?

死の予兆……?

死を告げるもの……
死の前兆を意味するもの

それをアナタの彼女は夢で告げられたって事じゃない?

多分……

それで、アナタももしかしてその夢を見たの?

重い沈黙が流れた。


空気が一瞬でずっしりと重たくなるのがわかる。

はい……

ツクヨミさんは頷き、話し始めた。

オレの見た夢も彼女とほとんど同じです……


知らない場所と知らない女の夢でした……

…………女……

なるほど

興味深いわね詳しく聞かせて

長い廊下がひたすら続いている知らない場所……

オレは暗い通路をひたすら歩いて行きました……

しばらく行くと知らない女がいました。

髪が長くて白いワンピースを着た……

でも、オレの知っている人ではないようでした。

女の声は低く、くぐもっていてまるでテープのスロー再生を聞かされている様なそんな声でした。


そして、女が言ったんです。

シデノクニへの行き方は……

最初はナニを言っているのかわかりませんでした。

でも、確かに言ったんです。

『シデノクニへの行き方は……』って……

なんとなく、嫌な感じがしてその先は聞いてはいけないそんな気がして、戸惑っていると女が続けてこう言ってきたんです。

大通りを右に入る。

その後、左にある坂を下り右に曲がる

……そこがオマエのシデノクニ

そこで、目が覚めました……

話しを終えたツクヨミさんは憔悴しきっているようだった。

オレ……やっぱり死ぬんですか……?

目にはうっすらと涙を浮かべ、抗えない事に苛立っている様にも見える。

とりあえず、その言われたワードに関する場所や行動を避ける事が今はベストな気がするわ……私も色々と調べてみるから

及川さんはそう言ってツクヨミさんを宥めた。

…………はい

また、長い沈黙が流れた。

私もなんて言えばいいのかわからない。

ただの偶然ですから気にしない方いい……そんな他人事みたいな事も言えない。

あっ!
ねぇ、そういえばもう一人来るって人は?

久美ちゃんに言われて店内にある時計を見ると、待ち合わせの時間から2時間ほど経っていた。


私とツクヨミさんはスマホの画面を確認してみる。
メッセージが1通来ていた。

ゴメン、教授に捕まっちゃって、今日は行けそうにないゴメン……

私がツクヨミさんの方を見ると、どうやら同じ内容のメッセージが来ていたみたいだ。

今日は来れなくなっちゃったみたい……

そう、じゃあ今日はここでお開きにしましょうか?

及川さんに促され、私たちは店を出た。


気がつけば、空は赤く色づきはじめている。

じゃあ、何かわかればまたすぐ連絡するわ

帰り際、何かあったらと及川さんから携帯の番号をもらった。

はい、ありがとうございます

アナタも、もし何かあったらすぐ連絡して

はい……

じゃあねサキちゃん!

うん、今日はありがとうまたね

私はお店の前で三人と別れ、不安な気持ちを抱き夕焼けの空を見ながら帰宅した。


そして……

その夜──






私は……


夢を見たのだ──

ココは……どこ?

サキの章 3     Nightmare

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