…………やっぱりまだ誰も来てないか

私は以前に宮田さんと来たカフェの前にいた。

今日はここで、塾の久美ちゃん、そしてツクヨミさんと待ち合わせする事になっている。


あの日──

宮田さんからの電話で、私はあの死の連鎖が続いているかもしれないと知らされたのだ。

どういう事ですか?

……先輩が、夢を見たっていうんだ……

夢?

詳しい事は教えてくれなかったんだけど……

なんでも香奈恵さんも同じ様な夢を死ぬ前に見たって言ってて……

それって……

アザミさんの言っていた死を予言するって……

夢……ですか?

それは……僕にもまだわからない……
ただ……

ただ?

もしかしたら……
これはまだ続いているんじゃないのかな……

終わっていないのかも……しれない

そんな……だってもうアザミさんはいないのに……

ともかく、それで先輩もそのサキちゃんの友達の話が聞きたいそうなんだ

……アザミの呪いの話ですか?

うん……そう。
先輩と香奈恵さんが見た夢にアザミが出てきたのかどうかまではわからないけど……

多分、アザミとその夢には何か関係があるんじゃないかって

……わかりました

じゃあ、前に一緒に行ったカフェで待ち合わせしよう!

先輩には伝えておくよ、僕はちょっとサークルの用事で遅れるけど先に合流していてくれるかな?

はい……

待ち合わせ時刻より15分ほど早く着いてしまった。

宮田さんが言っていた死を予期される夢、本当にまだ終わってないのだろうか?


だとしたら次は……

サキちゃん、久しぶり……

ツクヨミさん……

待ち合わせ場所に現れたツクヨミさんは、以前会った時よりも大分やつれているようだった。

香奈恵さんが目の前であんな事になったのだ、無理も無い。



それに──

突然ゴメン……

宮田から少し聞いたと思うけど……

はい……

……こんな事を言ったら
馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないけど……

私はただじっとツクヨミさんの話を聞いていた。


宮田さんの話だと、ツクヨミさんはその夢を見てから香奈恵さんの事も重なって、精神的にカナリまいってしまってるそうだ。

夢を見たんだよ……

オレ……

香奈恵が死ぬ前に見たって言ってたのと同じ夢を見たんだ……

……それって……一体どんな?

お~いサキ~!

あっ、久美ちゃん……

その時、ちょうど私たちの方に手を振りながら彼女はやって来た。

ごめんね待った?

ううん、大丈夫。

あっ……こちらはツクヨミさん

どうも

彼女が私と同じ塾の久美ちゃんです

あ~っ!
サキがいつも観てるニコオコの人だね、はじめまして久美です

…………

ふと気づくと、久美ちゃんの隣には知らない二十代半ばの綺麗な女性が立っている。

久美ちゃん、あの……その人は?

あっ、あのねこちらは私の従姉のお姉さんの先輩で及川瑞希(オイカワミズキ)さん

はじめまして

瑞希さんはウチの高校の卒業生
新聞部の部長だった人で、その手の噂にはカナリ詳しいんだ~

及川です。
ヨロシクね
私今は雑誌の編集記者をしているの

そう言って及川さんは私とツクヨミさんに名刺を差し出した。

月刊 アトランティスマガジン

編集 及川 瑞希

アトランティスマガジンって、オカルト雑誌の?

そう、私昔から不思議なものが大好きでね、趣味がこうじて仕事にまでなっちゃったの

及川さんは、穏やかで話しやすそうな感じがした。

ここじゃなんですので
入ってお話しませんか?

それもそうね

賛成~!

ケーキ食べよケーキ!

そうしようか…………

店内に入ると注文したものが届くのを待たずに、及川さんはすぐに話を切り出した。

ところでアナタたち
どうしてアノ話の事を?

えっ……?

えっと……それは……

周りくどいのは嫌いだから単刀直入に聞くわね、アザミの呪いについて知りたいって聞いたんだけど、どうして?

及川さんは興味深そうに、私とツクヨミさんを交互に見比べた。

あの話は学校のよくある噂話の一つっていうだけで、そこまで興味を持たれるような話でもないと思うんだけど……

あの……それは

どうしてアザミの呪いの話に興味を?

…………

あっ、あの~
サキちゃんは怖い話が大好きで、ツクヨミさんは怖い話の動画配信をしてるそうなんですよ、だからネタ収集の為だそうです

口籠もる私たちを見かねてか、久美ちゃんがそう説明する。

もう、瑞希さんたら今日は二人の取材をしに来たんじゃないんですよ~

あはは、ゴメンね。

つい、いつものクセでね~

ごめんね~サキもツクヨミさんも

ううん、平気

気にしてないよ……

真実を話しても信じてもらえるかもわからない。

それに、もしまだあの連鎖が終わっていないなら二人を巻き込んでしまうかもしれない。

私は今までの事はあえて話さない事にした。

実はね、私もねちょうどアザミの呪いについて調べていたとこなの

そうなんですか?

ええ
うちの雑誌で今度『本当に存在する呪い』って特集を組む事になってね

それで、私が白丘に在学中だった頃に新聞部で調べた事を書いたノートをこの前実家でみつけたばかりなの

及川さんは少し古くなったノートの表紙を見せた。

そこには、『白丘女子高等学校 怪奇録』とマジックで書いてある。

まず、アザミの呪いの発端だけど
私が白丘に入学する5年くらい前にあった教師の変死事件から始まったみたい……

変死? あの、交通事故じゃないんですか?


私は久美ちゃんから聞いた話を思い出していた。

そういう事になっているけど、どう考えてもおかしな事故だったそうよ……

その日、その女性教諭は実家に帰る為峠道を車で走っていた。



すると、車が突然炎上

一瞬にして車は燃え上がり、そのまま火だるまになって走行。

対向車線から来たトラックに衝突し、大破。

目撃者の話によれば、破損して燃え上がり続ける車内から、全身火傷を負って黒焦げになった彼女が道路をフラフラと歩きながら死の間際に言ったそうよ……

アイツが来る……アイツが……逃げないと……


絶命したそうよ……

そして、それを予言したと言われているのが……

桐野 アザミという生徒だった。

死んだ教師は彼女の担任だったんですって……

予言……

…………どうやって?

なんでも、夢で見たんだと言っていたとかって……

夢…………

でも、その桐野っていう生徒
一部の子たちにはこう言っていたんですって……

私は先生が死ぬのを予言したんじゃない……

アイツは私が呪いをかけて殺したんだって……

…………!

呪い……?

サキの章 2      Encounter

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