目の前に広がるのはどこまでも続く長い廊下。


この場所に見覚えはない──



とりあえず私は先が暗くて見えない廊下を、何かに導かれる様に進んで行った。


怖いはずなのに、何故か足が勝手に前へと向かう。

…………


しばらく行くと人影らしきものが見えた。

……誰?

女の人だ……。

暗い廊下に座り込んでいる。

何をしているんだろう……

……………………

私が近づいていくと彼女はいきなり立ち上がった。

アザミさん?

……………………

ううん、違う!

知らない女の人だ。


異様な長い髪と青白い顔。


よく見ると、手の爪は剥がれ裸足の足は黒ずんでいる。


まるで……

…………


死人──

……シ……デ……ノ……クニ……

えっ?

その声はまるでスロー再生でもされたような、低く不気味な声だった。

死出ノ国……ヘノイキカタ……ハ……


何? なんなのこれ?

……死出ノ……国……!?


これは、まさか──

死出ノ国ヘノイキカタハ…………

イヤ!


聞きたくない!!

死 出 ノ 国 ヘノ
イキカタハァァァァァ────

聞いちゃダメ!

絶対にダメ!!

夢、そうよ! これは夢よ!!

覚めなきゃダメ! 

覚めなきゃ! 
早く、覚めなきゃ!!


耳をしっかり塞いだのに意味はなかった。


頭の中に、ハッキリと女の声は聞こえて来たのだ。

白い……壁……鉄の扉……光…………

あっ…………あぁっ……

ソコガ……オマエの……死出ノ国……

…………はぁっ……はぁっ……

夢?

本当に夢?

これが、ツクヨミさんの見た夢?


どうしよう……どうすればいい……

次に死ぬのは私なの?

…………

昨日、帰ってからパソコンで調べものをしていて
そのまま寝てしまったんだ。

開いたままの画面を見るとAM5時となっている。

ふと、ベッドに置いたままのスマホが着信を示し点滅している事に気付き手に取った。

久美ちゃん……?


メッセージが一件。
着信はその後に複数回来ていた。

一体、どうしたんだろう……


彼女がこんな時間に今まで連絡なんてしてきたことなんてない。

何かあったんだろうか?

メッセージを確認してみると──

どうしよう……私、例の夢をみちゃった……

どういう……事?

例の夢って……、私も今見たツクヨミさんたちと同じ夢の事?

私は久美ちゃんにすぐ電話を掛けた。

もしもし? 久美ちゃん?

ザーっ…………ザザーっ……

電波が悪いのか、ノイズが酷い。

もしもし?

デ…………ノ………

久美……ちゃん?

ザーッ……

シ……デ…………ク……ザーッ……

えっ……?

死……デノ…………クニ…………

…………っ!?

もしもし?

もしもしサキちゃん?

…………!?

あっ……く、久美ちゃん!?

サキちゃん、良かった……
ゴメンねこんな朝早くに……

う、ううん平気。

それより、例の夢って……

……うん。


あのね……私も見たの……
夢……シデノクニ……の

えっ!? 本当に!?

うん……凄いリアルな夢、どこまでも暗い廊下が続いていて、知らない女の人がいて……

死出ノ国ヘの行き方はって……言われる……

もしかして、サキちゃんも……?

うん…………

同じだ。

私の見た夢と……

でも、久美ちゃんはあのオフ会にいた人ではない。


それなのに何故?

…………聞いたからなのかな……

えっ?

夢の話を聞いたからなのかも……

そんなっ!?

聞いたら呪われる?
そんな怪談は確かによくあるけど……、でも本当にそんな事が……?

だっ、だとしたら、及川さんも夢を見ているかもしれないよね?

……うん。

実は、サキちゃんの前に及川さんにも連絡したの……そしたら……

やっぱり夢を……

見たって──

…………


つまりこれは感染する呪いという事……?

あっ、あのね……サキちゃん……


久美ちゃんは一瞬口ごもり、そして続けた。

実はね……あるの……呪いの解き方……

えっ!?

だって、昨日は無いって及川さんが……

うん……ゴメン、あの時はああ言ったけど……

でも、実際にそれで呪いを解いた人もいないし……
それにこれはあくまで噂の一つで……不快になる人が出る事もあるだろうから……
及川さんもあまり言わない方がいいって言って……

お、教えて!

その呪いの解き方……

あ、あくまで昔の生徒たちの噂で、本当にそれで解けるかはわからないけど……

私はスマホを握りしめ、久美ちゃんの言葉をひたすら待った。

呪いの解き方はね……自分の大切な人
二人以上に話す事……

大切な人……二人以上……に話す…………

サキの章 4    infection

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