空から落ちて来た男が、川から這い上がってくる。
空から落ちて来た男が、川から這い上がってくる。
痛って……なんか俺、落ちてばっかだな
誰……?
女……? ひとりか?
その時、倒したはずのゴーレムが動き出し、アズールたちに向かって突進してきた。
アズール様!
なんだあれは……!
それを見た男はアズールのもとへ駆け出す。
危ない!
きゃっ
アズールを守るように引き寄せ、覆いかぶさる男。
ゴーレムはそのまま木へと衝突し、爆発した。
燃えさかるゴーレム。
自爆機……? 怪我はないか?
男はアズールを抱いたまま問いかけた。
え、ええ……ありがとうございます
そこへフクロウの蹴りが入る。
貴様! アズール様から離れるのじゃ!
なんだこいつ!?
てか、やばいぞ、火が森へ燃え移る……!
任せてください!
アズールは炎上している木々に両手を向けた。
アクアブレス!
沈下する炎。
なっ、今のは……!?
水魔法です
魔法……だと!?
私はここ水の国ウンディーネ、王女のアズールと申します。貴方は?
……
おいっ! 答えんか!
どうやらとんでもないことが起こったようだな……
そして男はここに落ちて来た経緯を語り出した。
青夜と名乗るこの男が言うには――
科学の発達する祖国が魔女に襲われ、対抗すべく戦っていたところ、黒い渦に飲み込まれる。
そして目覚めた空間で魔女の仲間と思われし少年と剣を交えるが、また黒い渦が発生し、ここへ落とされたと。
その少年はどんな魔法を使ってました!?
なにか自分の傷を治すようなものだった
火哉だわ! 火哉……どこかで生きてるのね……
しかし、科学なんて信じられるか!
まあ、そうだろうな……俺も魔法なんてものが存在するなんて信じられない
とにかく、魔王の仲間ではないんですね
わからない
わからないだと!? どうゆう意味だ!
声を荒げ、羽をバタつかせるフクロウ。
まあ待て。俺はあんたらと今どうこうしようって気はない。しかし、先ほどのロボット……
ロボット?
ああ。あれは我が軍が兵器として開発していた物に似ていた
じゃあやっぱり敵か!
今考えられる可能性は二つ……
なんですか?
ひとつは、俺自身が魔女に何かしら幻覚のようなものを見せられているケース。ドラッグか、脳科学を利用した心理学……催眠術のようなものか
幻覚じゃと!? わしらはこうして存在しておるわ!!
もうひとつは――魔法などというふざけたものが存在する星に飛ばされてきた
……
異世界なんてものは科学的ではないが……宇宙は広い。似たような生物が存在する惑星にワープさせられたとも考えられる
違う星から……
にわかに信じがたい話じゃの……
信じるも信じないも、現状を語ったまでだ。俺は科学者ではないのでよくわからんが、現に俺の星では魔女のようなものが現れていたわけだからな
魔女に魔王……なにか似たような境遇に嫌な運命を感じるわね……
そして異世界の者か……
というか、あんた!
なんじゃ……!
フクロウが喋るなど、それこそファンタジーなんだが!
はっ! おぬしの星では喋らんのか!?
しかしあんたらが好戦的ではないことが救いだった……俺の……銃も……弾切れ……だったところ……だ
地面に崩れ落ちる男。
ちょっと! どうしたの!?
あの高さから落ちて来たのじゃ。水の上であろうが、相当な衝撃だろう。内臓がやられていてもおかしくない……
運ぶわよ! 飛竜を呼んで!!
(……俺たちは一体、何と戦っているんだ……)
こうして男は、城の救護室へと運ばれた。
――女王の間――
魔王を倒す二本の聖剣……
そのうちの一本を、火哉が手に入れて参りました
ですが、その火哉は……
火哉は生きてます! 必ず帰ってきます!
空から降ってきたという者が異空間で出会ったとの証言ですか。その異邦人、本当に信用できるのでしょうか
……少なくとも私は彼に命を救われました
そして奴は何かを知っております。魔王を倒す力になるかもしれませんぞ
とにかく今はもう一本の聖剣を、魔王の手に渡る前に回収することが先決です!
どういうことですか
風の国王が仰るには――黒き王が聖剣を手にした時、世界は滅亡へと導かれる……と
黒き王……魔王の事か
しかし火哉がいない今、剣術を扱える者が……それにいつ魔王が現れるか
その時、いきなりドアが開き、男が現れた。
三日月夜だ
おぬし! 勝手に入りよって
!?
その聖剣とやらの回収、俺に行かせてくれ!
その男を捕らえるのじゃ!
うおりゃあああ!
ふっ
携えていたブレードで応戦する青夜。
うらあああ!
はっ!
ぐはっ!
ぐあああ!
殺してはいない。だが、どうだ? 剣術は申し分ないだろ
貴様……無礼な!
……剣を納めなさい。争いは好みません
俺にはやるべき使命があるんだ……!
……
青夜はブレードを納めた。
失礼しました
そして青夜は女王の前にひざまずく。
俺に、その魔王討伐の命をください。おそらくそれが――
俺の帰る道だから
勘違いをなされているようですが、剣術を扱える者を求めているのではありません。魔王討伐のための聖剣であり、それを成しえる者を求めているのです
それに、おぬしが魔王の仲間でないとまだ決まったわけではないのじゃよ!
ではこうしましょう――
次の三日月夜までにこの国の兵を、使いものになるよう仕上げてやる
剣術を……教えてくれるのね
ああそうだ。聞けば戦争と縁の無い暮らしをしてきたそうではないか。俺は今まで実戦をくぐり抜けてきている。すなわちそのヒョロっこい兵たちをどうすれば強くできるかを知っているということだ
そんな、ひと月やそこらでできるものか
我が軍のマニュアル通りやれば形にはなるだろう
まぬある? とはなんぞや
指南書といえばわかるか。それを毎日こなせば、それなりには仕上がるようにできている。俺はその間に聖剣とやらを回収に行かせてくれ
うむ……しかし……
……回収後、聖剣はすみやかにこちらへ引き渡すと誓えますか?
俺はこの星に用は無い。今はそれが得策と考えただけで、帰れるならなんでもするさ
私もしっかり見張っておきます
……わかりました。火哉もおらぬ今、このままですと次の襲来に耐えうる策がありません。其方に懸けましょう
ありがとう。任せてくれ
こうして青夜は剣術の基礎を記した指南書を作り、兵たちを指導した。
最初は戸惑う兵たちであったが、やがてはすべてを受け入れ、見違えるほど形になっていった。
そこには風の王の子、ラフィの姿もあった。
強くなりたいと志願して参加したそうな。
青夜には隊を纏める力と経験があったからか、皆、彼をすぐ慕うようになった。
そして数日後、残りの訓練内容を兵に伝え、青夜は旅立つ。
よし、発つぞ
ラフィ、聖剣のもう一本は土の国ノームにあるのね?
うん。小さいころに連れてってもらったことがあるんです
小さいころって、今もじゅうぶん餓鬼じゃねえか
失礼ね、この子は風の国シルフの次期国王候補よ
わかってるよ
風と土は昔から同盟関係にあるんですよ
だからラフィに付いてきてもらえば話が早いと思ってね
ちっ、足手まといになるなよ
師匠! 頑張るっす!
師匠って……なに呼ばせてるんですか
うわっ! なんだこいつは!
飛竜よ。こないだ倒れた時も乗せたんだけど覚えてないのね
師匠びびってるんですか?
うるせえ! 俺の星にはこんなのいねえんだよ
こうして、飛竜の背に乗り、土の国ノームを目指す三人。
この世界での月の満ち欠けも三十日周期。
新月から数えて三日目、それが三日月夜である。
それまでに三人は聖剣を手にし、水の国へ戻らなければいけない。
しかし、その三日月夜に帰還出来たのがこのうちの一人だけになろうとは、まだ知る由もなかった――