莉子

そろそろ来る頃かと思ってました!

佐藤真夏

参ったな。莉子さんはなんでもお見通しなんだね

莉子

任せて下さい! 

莉子

……なんて、本当は窓から見えただけですけどね

小さく舌を出して、莉子は厨房へと戻っていった。席に着くと、すぐに莉子が水を運んでくる。

莉子

今日はどっちにします?

佐藤真夏

どっちだと思う?

莉子

んー。じゃあ、定食一丁~!

洞察力を試すつもりだったのだが、莉子は勝手に注文を決めてしまった。
とはいえ、優柔不断な真夏的には決めてもらえた方がありがたかった。

特に好き嫌いはないのでどちらでも構わない。というより、この店の定食もラーメンも真夏は好きだった。素朴で懐かしい味だ。

佐藤真夏

……君は、全部知ってたんだね。知ってて、お姉さんと喧嘩する振りして僕にヒントをくれたんだろう?

莉子が厨房に戻る前に、真夏はそんな風に切り込んでみた。振り向いた莉子が大きく目を見開いて、それからわざとらしくおどけて見せる。

莉子

わあ、名推理~。佐藤さん名探偵みたいですね~

佐藤真夏

どっちがだよ。君は不思議な人だね。結局、どうして君が僕の先回りができたのかは考えてもわからなかった

莉子

それはですねぇ

気まずそうに莉子が頬を掻く。

莉子

実は友達が被害者の一人でー、個人的にこの一連の痴漢事件を調べていたんですよ。で、痴漢が発生した時間と場所から、もともと聖アリシアに当たりをつけていました

こともなげに言われて、真夏は絶句した。この少女は、とっくの昔に警察の遥か前を進んでいたのである。


佐藤真夏

とはいえ……今回みたいに一般人によって現行犯逮捕されてしまえば、警察としては署に連行して留置するしかない……。
職務の枠を外れた自由な視点で見れば、そう難しくはない謎と言えなくもないか……?

だが、他にも腑に落ちない点はある。

佐藤真夏

でも、どうしてあの日僕が店に来るってわかったんだい? お姉さんの時計を持ってきたのだって、わざとなんでしょう? それって僕が来ることがわかってたってことだよね?

莉子

さあ、なんのことでしょう~?

目を逸らしてとぼけた声を上げ、莉子が厨房へと駆けて行く。


今回の事件が解けたのは、難しくない謎、だったからではなく――この少女の頭が物凄く切れるからではないかと。




















しかし、その推測が確信に変わるのは、また別の事件の話である。

それでも僕はやってない 9

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