第九話 古き洋館の息遣い・中編
第九話 古き洋館の息遣い・中編
――キルケー魔法女学園 研修施設 浴室――
ふんふんふん♪
浴室もキレイでお湯加減もちょうどいいなんて、意外といい宿泊先ですよね♪
ほどよい温度のシャワーを浴び、きめ細かく泡立てたボディーソープを腕に載せる。
ほのかに漂うラベンダーの香りが心地よい。その香りを十分に堪能しながら、身体を洗い上げてゆく。
研修中ってことを忘れそうですね……
指先まで丁寧に泡を載せる。胸やお腹のあたりは特に丁寧に。
我ながら大きすぎる胸のおかげで、ウエスト周りまで大きくなってしまってないか気になって仕方がない。
少しでもお腹の肉が減りますようにと念じながら、ゆっくり洗っていく。
胸のほうも大きいと垂れると言うし、こちらも同じように垂れませんようにと念じながら洗う。
研修が楽しいみたいで何よりだわ
ええ、楽しいです。思ったよりずっと。
……って、サリー? まだ終わってませんよ。のぞかないでくださいね
ふふっ
……?
遠くから聞こえてきた声が浴室に響いたので答えたが、どうも違和感がある。
サリーってこんな声でしたっけ
けど気に留めるほどのことでもなく、レイリーはシャワーを続ける。
身体を洗い終わったら、次はボディーソープと揃いのシャンプーを取り出す。
こちらは少し泡立ちが悪いのが難点で、その代わり洗髪後の指通りのよさが気に入っていた。
なかなか泡立たないですね……水が変わったせいかしら?
そう? ここの水はいい水よ。シャンプーを替えたほうがいいのでは?
……サリー。のぞかないでって言ったじゃないですか
あら、のぞいてなんていないわ。貴方とてもスタイルがいいのね
――サリー!!
耐えかねて泡立てようとしていたシャンプーをさっと流し、バスタオルを巻いて浴室の外へ出る。
――キルケー魔法女学園 研修施設 部屋――
そしてレイリーは怒気をはらんだ声を上げた。
あのですね、サリー!?
……はへっ!? な、なにぃ……?
のぞきなんて悪趣味ですよ!!
それに私、このシャンプー気に入ってるんです、替えたりしませんからっ
…………は?
ですから……のぞきは……。
……あら?
おかしい、と思った。
サニーはいかにもうたた寝をしていた格好で口元のヨダレを拭き、ベッドに寝転がっている。
シャワー中のレイリーをのぞいたり声をかけたりするならば、少なくとも浴室の前にいるのが普通だ。
ベッドから声をかけたとして、よほど大声でない限り聞こえるとは思えない。
サリー……じゃ、なかったんですか……?
?? 何が? なんの話?
話しかけませんでしたか、私に。シャンプーを替えたほうがいいって
えー? レイリー、今使ってるシャンプーお気に入りでしょ
ええ、そうです……けど――
気付いた瞬間、急に背筋が寒くなる。
慌ててサニーのベッドに走り寄り、レイリーは浴室を振り返った。
じゃあ今の声は一体誰なんですか!?
誰って? 誰かの声がしたの?
それがわからないから困ってるんですっ!!
とりあえず落ち着きなよ。レイリーらしくない
だってあんなにハッキリと声が聞こえて……!
ふと、二人の会話が止まる。
何か不思議な音が浴室のほうから聞こえてきたからだ。
妙な音だった。
開け放たれた浴室のドアを凝視していると、その音の正体がわかった。
大量の泡が、浴室から溢れ出ているのだ。
あああああああ!?
えええええ!!!!
レイリーお気に入りのラベンダーの香りが、部屋いっぱいに広がった。