アン

それじゃあみなさん――

どうぞ食事をと言い終わる前に、生徒たちの夕食はすでに始まっていた。

いただきますと頭を下げる生徒や祈りを捧げる生徒もいたが、それも様々。

まだまだベテラン教師たちの中では新米であるアンは、がっくりと肩を落としながら自分の席へ向かう。

サニー

うわー、このお肉美味しい!
焼いただけなのにすごいなぁ

ナタリア

素材が美味しければ、味付けにこだわらなくても美味しいよ……?

肉の種類によっては焼き加減に気を付けないといけないけど。
鹿肉は固くて調理が面倒だし、解体作業も大変だよね……

レイリー

解体、したことあるんですか……?

ナタリア

うん。自給自足のノウハウは仕込まれているよ。
 食糧確保に必要だし、美味しい食事は士気向上にも繋がるもの……

サニー

ナタリアだけ別次元の話してる気がする

ヴェロニカ

ヴェロニカは興味あるな~。ナタリアはじゃあ動物をさばくのも得意ってこと?

ナタリア

最低限は出来るよ。ナイフの使い方もそれで覚えたようなものかなぁ……

ヴェロニカ

うふふふ。なるほど、実践の経験を積んでるんだね~。いいなぁ~~

エマニュエル

食事の時は楽しい会話をしましょうね!

チズ

……マッチの角度をもう少し研究して……そして……着火剤を……

レイリー

ああ本当に、みんなで作ったご飯は美味しいですねー!!

多少不穏な会話が繰り広げられたとしても、美味な料理に変わりはない。

ということで、生徒たちの夕食は楽しく進むのだった。

――キルケー魔法女学園 研修施設 部屋――

サニー

はあああぁ~~~。
夕食も美味しかったし、課題も簡単で楽勝だったし、こんな研修なら毎日でもいいよ

レイリー

そうですね。
アン先生は何か予定通りにいかなかったとかで大変そうでしたけど

サニー

さらにイレギュラー要素をぶち込むために、肝試しにでも行こっか!

レイリー

嫌です。
消灯の時間になる前にシャワーを浴びたいんです。
先に入っていいですか?

サニー

あー、シャワーね。うん、先どーぞ

レイリー

ではお先に♪

寮の風呂を気に入っていつも長風呂になるレイリーのこと、シャワーもまた長いんだろうなと覚悟しながらサニーは彼女を見送る。

サニー

うーん、この間にレイリーを置いて行っちゃおうかなぁ。
夫人は反対するかもだけど他の子に声かけて……

などとベッドに寝転がりながらサニーは考えていたが、だんだん眠気のほうが強くなってくる。

楽しかった分疲れたのかもしれないと思いつつ、うつらうつらとしていた。


しかし。

けたたましい音と共に浴室のドアが開き、サニーは現実に引き戻された。

レイリー

あのですね、サリー!?

サニー

……はへっ!? な、なにぃ……?

ちょっぴり口元からヨダレが出ていたのでそれを拭いながら身体を起こす。

何かと思えば、レイリーはバスタオルを巻いただけの姿で浴室から怒鳴った。

レイリー

のぞきなんて悪趣味ですよ!!
それに私、このシャンプー気に入ってるんです、替えたりしませんからっ

サニー

…………は?

レイリー

ですから……のぞきは……。
……あら?

どうも話がおかしい。

ベッドの上で寝ぼけ眼のサニーと、半裸のレイリー。

見つめ合ったまま、二人は揃って首を傾げた。

8-4|古き洋館の息遣い・前編【5/18更新】

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