大草原を馬で旅して分かったこと

2 最初の一歩

8月8日
AM10:00

大阪港国際フェリーターミナル。



なんとか無事にたどり着いた。



あとはキャラバンツアーの集合場所に
行けば一安心かな。




そういえば今まで旅行するときって
家族や友達と行くことしかなかったから、
今回みたいなちょっとしたプチ一人旅は
初めてだった。

ゆえじ

なんだ、やればできるじゃん自分!






やればできる子。





私の座右の銘。




集合場所はターミナルの1階。

40人くらい参加する大きなツアーだから
きっとすぐ分かるだろう。

集合場所とされるところに行ってみると、
本当にすぐ分かった。


それぞれに大荷物を持った若者たちが
すでに20~30人集まっている。

間違いなくあれだ。

ゆえじ

…………




やっぱり緊張するな……

誰か友達誘って来るべきだったかも…

知り合いのいない同年代の集団に
飛び込んでいくって、大変なことだ。

・・・まぁ、とりあえずは
担当の人に到着した事を伝えないと。

ゆえじ

しおりに書いてあった名前は確か…
そうそう、斎藤健太さん

といっても、“斎藤さん”が
どんな顔立ちの人なのか分からないけど。



でもまぁきっと、いかにも係員!って
格好をしてくれてるんだろう。





“斎藤さん”らしき人物を探しながら
集合の中をうろうろしてると、
ぽんぽんと肩を叩かれた。

けんた

こんにちは!
キャラバンツアーの参加者かな?


若い!


・・・もしかしてこの人が…?


ゆえじ

はい、そうです

けんた

よし!
バッチリ時間通りだな、
無事来てくれてよかったよ。

俺は斎藤健太。

このキャラバンツアーで
上海までの引率ボランティア
やってんだ。

名前教えてくれる?

ゆえじ

水越月枝です

けんた

みずこしつきえさんね~!
了解!

じゃあこれ、船のチケット。
失くすなよ~

あとはまぁ、
出発までまだ時間あるから
適当にしてて!

ゆえじ

はい、ありがとうございます

ひとしきり爽やかな笑顔を振りまいた後、
斎藤さんは忙しそうにまた他の参加者に
声をかけに行った。




・・・斎藤さん、若かったなぁ~。
私と同じ学生だよねきっと。


引率ボランティアを
引き受けちゃうとか、えらいなぁ。



…で。

適当にしてて…って言われても。

ゆえじ

うーん…

とりあえず携帯に目を落とす。





いつもの習慣で、アプリを起動する。



ゆえじ

いやいやいや!
携帯に逃げちゃだめだ!

友達作らなきゃ!
こういうのは先手必勝!!



よく見れば、他の参加者同士も
まだ打ち解けてる感じじゃないし。
今ならまだいける。


とりあえず私みたいに
一人で参加してるっぽい子に
近づいてみよう。

ゆえじ

旅の間ずっとぼっちになるのは
なんとしても避けたい…!


そう思って周りを見渡してみると、
近くに一人で立ってる女の子がいた。



亜麻色の重たそうなセミロングヘアで、
見た目も派手な感じじゃないし、
かといって大人しすぎる感じでもない。

楽しくお話できそうな雰囲気がある。

ゆえじ

…よし!
あの子に声かけるぞ…!

・・・でも、どうしよう…
第一声はなんて言えばいいかな…







最初に変な人だと思われたりしたら
挽回するの大変だし…








…あ、でもあの子いま携帯見てるから、
邪魔したら悪いかな…
















もう少し時間経ったらにしようかな…

・・・軽く5分はいろいろ無駄に
思いをめぐらせてたと思う。

ゆえじ

いや!勢いだ!

考えてたら
躊躇するばっかりだ!

行け!自分!
今!今行くんだ!!

やればできる!!

心の中で叫びながら、
グッと足を一歩前に出す。


女の子に近づく。


声を出す。

ゆえじ

・・・あの・・・・・・
キャラバンの参加者ですか?


聞くまでもない質問をする。

しるこ

はい、そうですけど

当然の答えが返ってくる。

でもこれで十分。

とっかかりはできた。
動き出した。

ゆえじ

どこから来たの?

しるこ

私は埼玉

ゆえじ

あ!近い!私は東京から!

ゆえじ

・・・あの、私、
水越っていいます

よかったらゆえじって呼んで
もらえると嬉しいな

しるこ

ゆえじ?
なんかおっさんみたいだね(笑)

ゆえじ

うん、よく言われる(笑)

私の名前を中国語読みすると、
ゆえじ、になるの

学部ではこのあだ名で呼ばれてて、
結構気に入ってるんだよね

しるこ

そうなんだ、
じゃあ、ゆえじね。

私は生野知子。
あだ名はしるこでいいよ

ゆえじ

しるこってなに!?
そっちもよっぽどじゃん(笑)

しるこ

だね(笑)

わたし中国茶カフェで
バイトしてるんだけど、
そこの中国人の店主さんに
「知子」って漢字を
「しるこ」って読まれちゃって。

その話をネタにしてたら
なんか定着しちゃったんだよね

ゆえじ

ほんとだ、
確かにしるこって読めるね(笑)

でもかわいくていいと思うな

しるこ

うん、そんなに嫌じゃないかな、
すぐ覚えてもらえるし

思ってた以上にすんなりと、会話は進んだ。


しかもしるこは同じテンションで
話せるから良かった。




これでとりあえず一番心配だった
“旅行中ずっとぼっち”っていう事態は
回避できそうだ。

ゆえじ

しるこは一人で参加したの?

しるこ

ううん、
もう一人一緒なんだけど、
私は大阪に先乗りして
友達に会ったりしてたから
ここ集合なんだよね、うちら。

ゆえじ

まだ来てないって、大丈夫?
迷ったりしてないかな?

しるこ

うーん…
あいつに限っては
そんなことないと
思うんだけどなぁ~

あいつ…?










…って、



もしかして男と一緒なの??

ゆえじ

うへぇー…
だとしたら微妙だなぁ…

だって二人でツアーに参加するとか、
ちょっと普通の友達のライン越えてるよね?

私がそばにいたら
二人の雰囲気邪魔しちゃう感じに
なるパターンじゃんそれ

ゆえじ

もしかして、声かける相手
間違っちゃってたのかなぁ…

・・・ひとまずは、
その同伴者がオープンな性格で、
私でも打ち解けやすい人であることを
祈るしかないかな

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