大草原を馬で旅して分かったこと
大草原を馬で旅して分かったこと
3 ニュー鑑真号へ
長い旅行中一人ぼっちになるのを
避けるためにがんばって話しかけて、
仲良くやっていけそうだと思ってた
女の子。しるこ。
でも…
しるこって、もしかして…
一人じゃなくてカップル参加なの…?
だとしたら一緒にいるの
気まずすぎる…
初対面の子にはなかなか直接
聞きにくい疑問が頭をよぎる。
あ!来た来た!
はちるー!こっちー!
しるこが入り口の方へ
向かって手を振る。
はちると呼ばれた人物が
こちらに歩いてきた。
・・・やっぱり男子だし。
結構ギリギリじゃん、迷ってた?
…いや…
別に間に合ってるでしょ
・・・ですね!
先に係の人から
チェットもらってきなよ
・・・うん
・・・・・・・・・
と言いながら、彼は
ちらっと私の方を見てきた。
あ、えっと…
私が言葉に困ってると、
しるこがすかさずはちるに向かって
私のことを紹介してくれた。
この子はゆえじ、
いま友達になったの。
そうなんだ
今度はこっちを見てしるこが続ける。
彼は私の学部の友達で、東はちる。
はちるでいいと思うよ
はじめまして、よろしくね
…よろしく
はちるはぴくりとも表情を変えず
挨拶だけ済ませて、そのまま斎藤さんの方へ
歩いて行った。
感じ悪っ!!!
なんなの、にこりとも笑わず!!
思わずしるこに聞いてみる。
…なんか私あんまり歓迎されて
ないみたいなんだけど(笑)
このまま一緒にいても大丈夫かな?
え!
あ、ううん、あいつ学部でも常に
あんな感じだから気にしないで。
無愛想がはちるの持ち味
みたいなもんだから(笑)
気を遣わせちゃってごめんね!
そうなんだ、
…ならいいんだけど
確かに。
まぁ幸いにして、
俺たちを邪魔すんなよオーラは
感じ取れなかった(気がする)から、
なんとか一緒にはいられそうだ。
しるこは優しい子なんだね。
どういう経緯でこの二人が一緒に
ここへ来ることになったのかとか、
いろいろひっかかるところはあるけど。
今は深く考えないでおこう。
はちるがチケットを持って戻ってきた
ところで、斎藤さんが参加者に向かって
大声で話し始めた。
キャラバンツアー参加者の
みなさーん!
今から船の乗り場に
移動しまーす!
乗船したらすぐに簡単な
ミーティングと班分けをするので、
各自部屋に荷物を置いたら食堂に
集合してくださーい!
部屋番号はチケットに
書いてありまーす!
はーいという声がぽつぽつ聞こえてきた。
班分けするんだね。
じゃあきっと大丈夫だ。
旅行中一人ぼっち…っていうのは
余計な心配だったのかもしれない。
いよいよ乗船、日本を離れるのかぁ。
しるこは…?
あ、うちら同じ部屋だね!
本当だ!良かった~!
てかすごい偶然だね(笑)
もしかしから班も一緒だったりして
十分あり得るね~
本当にそうだったらいいな。
そしたら旅の間、楽しく過ごせそう。
私達が乗り込むニュー鑑真号は
想像していた以上に大きな船だった。
のっぺりとした白くて巨大な壁に
無数の小さな窓がついてて、
それはマンションでもお城でもなく、
難攻不落の要塞みたいだった。
強そう。
SF映画とかに出てくる
宇宙船ってこんな感じなのかな。
とも思ったりした。
船って、こーんなに大きかったんだ。
一緒に歩いていたしるこも
わぁ~…と口を開けながらニュー鑑真号を
眺めていた。
それが急に、はっと思い出したような
表情をしたかと思うと、おもむろに
バックからカメラを取り出した。
ねぇ、写真撮って!
しるこがはちるにカメラを渡した。
はちるは何も言わず静かにそれを受け取る。
ゆえじも!
呼ばれてしるこの隣に立つ。
…はい、いくよ
3、2、1・・・
パシャ
しるこははちるの方へ駆け寄って
デジカメの画面をのぞき込んだ。
・・・・・・
うん、撮れてる、いい感じ!
見せて見せて
ほら、と言ってしるこは
デジカメの画面を見せてくれた。
船が近すぎて全貌が見えていない。
でも船のスケール感は
なんとなく伝わってくる。
いえーい!
人生初めての船旅記念!
そうだね。
私にとっても初めての経験だ。
こんな大きな乗り物に乗って、
海の上をゆっくり進んでいくなんて。
なんかいいね、船旅って。
ロマンあるね。
ワクワクしてきた。