ようやく
はた織りできる

それから、2週間ほどが経ちました。
吾助が往診に来て、鶴太郎の足を診ています。

吾助

骨はくっついたみたいだな。

鶴太郎

ホント?
じゃ、治ったの?

吾助

まだリハビリの必要がある。
試しに立ってみろ。

吾助は厳しい顔のままです。

吾助

立ってみろ。

鶴太郎

うん。

与兵

大丈夫か?

与兵は心配そうに手を出します。

鶴太郎

よい……しょ……。

出された手をつかんで、鶴太郎はゆっくりと立ち上がろうとしました。
与兵の手に、ぐっと力が込められます。

与兵

……。

与兵は鶴太郎の体重を支えながら、少し体を起こして手伝います。

鶴太郎

ん……。

鶴太郎が立ち上がりました。

鶴太郎

……。

久しぶりに自分に足で立ち、不思議そうな顔をしていました。

与兵

……。

鶴太郎と出会って、初めて見る、立った姿です。

与兵

やっぱりかわいい……。

与兵のごはんをモリモリ食べていたせいか、つやつやの白い肌。

与兵の肩に心細そうに乗る形のよい手。
細すぎもせず太すぎもせず、すっと伸びた綺麗な足。

与兵

男とは思えない……。

与兵がそう思った瞬間です。

鶴太郎

あ……。

足がカクっとして、鶴太郎は体勢を崩しました。

与兵

あ……。

すぐに与兵は鶴太郎を支えました。

鶴太郎

……。

鶴太郎

生まれたての小鹿……。

与兵

あ?

鶴太郎

足に力が入らない。

与兵

え?

それを聞いて、与兵はわたわたしました。

吾助

だろうな。

吾助は冷静に言いました。

与兵

こうなること、
わかってたのか?

吾助も見ながら、おたおたして言います。

吾助

一か月近く自分で歩いてないんだ。足の筋力が落ちてるんだ。

与兵

歩けるようになるのか?

吾助

リハビリすればな。

与兵

リハビリ……?

与兵

俺は何をすればいい。

吾助

何もすんな。

与兵

え?

吾助

世話、焼きすぎ。

与兵

そんなに焼いてたか?

与兵

ふつうにメシ作って、移動させて、たまに風呂入れて、トイレも連れて行って、布団も一緒で……。でも、薪を売りに行くときは置いて行ったし……。

吾助

まさかと思うがケツは?

与兵

拭いてる。

吾助

どこまで世話焼いてんだよ……。

与兵

いや……、でも、
怪我してるから拭けないとか言うし……。

吾助

メシを作るの以外は自分でやらせろ。

与兵

そ……

与兵が固まりました。

吾助は鶴太郎の方を向きました。

吾助

お前は自分で歩く練習をするんだ。

鶴太郎

え~。

与兵

背負った方が、俺の筋トレにもなるし……。

吾助

お前が筋トレしてどうすんだよ。
筋トレが必要なのはこいつ。

吾助は鶴太郎を指します。

鶴太郎

やだぁ~。

吾助

やだじゃねえ。
自分で歩かなかったら、どんどん歩けなくなるぞ。

鶴太郎

嫁なんだから、
与兵にだっこしてもらう。

吾助

嫁もへったくりもねえ。
自分の足があるんだから歩け。

吾助

お前もこいつを甘やかすんじゃないぞ。

与兵に言います。

与兵

え?

吾助

お前が厳しくしないと、こいつはずっと歩けないままだぞ。

与兵

そうなのか?

吾助

こいつのことを、本当に大事だと思うのなら、手を出すんじゃない。

与兵

夜もか?

吾助

そっちもダメ。

与兵

そっとやるのは……?

吾助はため息をつきました。

吾助

それ、できんの?

与兵

もちろん。

吾助

……

与兵

……

吾助

……

与兵

……

吾助

ホントに?

与兵

…………。

吾助

本当にできるのか?

与兵

…………。

吾助

ダメだ。

与兵

…………。

何も言えませんでした。

吾助

はた織りは、
してもいいぞ。

与兵

あ……。

忘れていました。

吾助

リハビリにも丁度いいはずだ。

鶴太郎

はた織り、
していいの?!

吾助

根を詰めない程度にな。

鶴太郎

わ~い

鶴太郎は大喜びです。

鶴太郎

これでボクは
与兵の嫁になれる!

与兵

お前、なんか勘違いしてるみたいだが、
はた織りができれば嫁だなんて
そんな風習はこの辺りにないぞ。

鶴太郎

え?

吾助

他の場所でもないと思うが……

鶴太郎

そんな……、
じゃあ、ボクは……。

みるみる涙があふれてきます。

与兵

泣くなよ!

与兵

はた織りなんてしなくても
お前はもう俺の嫁なんだよ!

吾助

それ言ったら、
はた織りしなくなるんじゃないか?

鶴太郎

よひょ~。

鶴太郎は、与兵に抱きつきます。

吾助

それ以前に、嫁って
女がなるもんだと思うが……。

吾助はそれを言いませんでした。

吾助

明日、はた織りに必要な物とか持ってくるから。

と言って、吾助は帰っていきました。

ようやくはた織りができる

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