クリエ・エーデルシュタイン

ごめんくださーい

はぁーい

ザート

あら、クリエ様

クリエ・エーデルシュタイン

こんにちは、ザートさん

ザート

びっくりしたぁ~。ご連絡をもらえれば迎えに参りましたのに

クリエ・エーデルシュタイン

それは困るっていつも言ってるじゃない……

ザート

冗談ですよ。ところで、旦那様に御用ですか?

クリエ・エーデルシュタイン

うん。用ってほどじゃないけど、ちょっと顔見たいなって

ザート

親孝行ですね~クリエ様は。アスター様なんて一度も会いにいらっしゃらないのに

クリエ・エーデルシュタイン

…………

ザート

し、失礼しましたっ!

ザート

旦那様は自室でお休みになられてます。ご案内いたしますね

ナルシス・エーデルシュタイン

…………ふぅ

旦那様~、クリエ様がお見えになりました~

ナルシス・エーデルシュタイン

クリエが?通してくれ

クリエ・エーデルシュタイン

お父さま……こんにちは

ナルシス・エーデルシュタイン

ああ、こんにちは、クリエ

クリエ・エーデルシュタイン

体の調子はどう?

ナルシス・エーデルシュタイン

君に心配されるほど弱ってはいないさ。この通り自分の足で立てる

クリエ・エーデルシュタイン

……そう

ナルシス・エーデルシュタイン

……ザート、紅茶を持ってきてくれないか

ザート

は、はいっ。ただいま!

ナルシス・エーデルシュタイン

…………行ったか

ナルシス・エーデルシュタイン

さて、クリエ。私が何を話したいか分かるか?

クリエ・エーデルシュタイン

……怪盗のこと?

ナルシス・エーデルシュタイン

そのとおりだ、怪盗シャムロックよ

ナルシス・エーデルシュタイン

ピルツ・シュランムの家に入ったことは既に私の耳にも入ってきている。また盛大に穴をあけたそうじゃないか

クリエ・エーデルシュタイン

……褒められてる?

ナルシス・エーデルシュタイン

もうちょっと静かに盗めんのかと言っているんだ。ただでさえ貴族の家から宝石を拝借するだけでも話題をさらうのに、あんな轟音出しながら盗んでは怪盗じゃなくて強盗だろう?

クリエ・エーデルシュタイン

怪盗の方がかわいいもん

ナルシス・エーデルシュタイン

……何を基準に言っているんだ?

ナルシス・エーデルシュタイン

それで、今回はどうだったんだ?

クリエ・エーデルシュタイン

……ダメだった

ナルシス・エーデルシュタイン

そうだろうと思った。ピルツ伯爵は金遣いが荒くて以前家宝と言われていた瓶を独断で売り払って豪遊して、後になって職人に全く同じ偽物を作らせたらしいからな。金になりそうな物はすべて売った後だろうさ

ナルシス・エーデルシュタイン

そのくせ、器が小さくて自分の代で伯爵にまで身分を落としたことに気づいてもいない。そんな小物が純性宝石など持っているはずがないからな

クリエ・エーデルシュタイン

……お父さん、その伯爵のこと、嫌いなの?

ナルシス・エーデルシュタイン

い、いや、別にそういうのはないさ

ナルシス・エーデルシュタイン

とにかく、無理はするなよ。君だってあまり丈夫な体ではないのだから

クリエ・エーデルシュタイン

アスターと同じこと言ってる……

ナルシス・エーデルシュタイン

何か言ったか?

クリエ・エーデルシュタイン

ううん。何でもない

ナルシス・エーデルシュタイン

……不思議な子だな

クリエ・エーデルシュタイン

じゃあね、お父さん

ナルシス・エーデルシュタイン

もう行くのか?たまには夕食を一緒にどうかと思ったんだが

クリエ・エーデルシュタイン

ごめんなさい、今から先生のところに行かないとだから

ナルシス・エーデルシュタイン

そうか。時間があったら寄りなさい。ザートに何か作らせよう

クリエ・エーデルシュタイン

分かった。じゃあね

ナルシス・エーデルシュタイン

…………うっ!!

ザート

だ、旦那様!?大丈夫ですか!?

ナルシス・エーデルシュタイン

……大丈夫だ

ザート

とてもそうには見えませんでしたよ!今日はもう休まれてはいかがですか?

ナルシス・エーデルシュタイン

バカを言うな。明朝までに仕上げねばならない書類が山ほどあるのだぞ

ナルシス・エーデルシュタイン

それに、あの娘の元気な姿を見れたのだ。私がここで音をあげるわけにはいかないだろう

ザート

……そのことなのですが

ザート

失礼ながら、何故旦那様はクリエ様の窃盗行為を見逃しておくのですか?

ナルシス・エーデルシュタイン

…………

ザート

私にはクリエ様が怪盗シャムロックとなった経緯は分かりませんが、それでも、窃盗行為が許されることではないと思います。それに、万が一にもバレたらエーデルシュタイン家に大きな傷が……

ナルシス・エーデルシュタイン

「家族のため」と言われたんだ。止めようがないだろう

ザート

家族の……?

ナルシス・エーデルシュタイン

クリエが宝石を盗むのは、弟であるアスターの手術代を得るためだ。今の医療技術は発展を重ねてきている。足が弱いアスターが自分の足で立てるようにすることも不可能ではない

ナルシス・エーデルシュタイン

だが、手術はとてつもない額の金がかかる。それこそ、加工宝石がダースで買えるくらいにはな

ナルシス・エーデルシュタイン

だから、あの娘は怪盗シャムロックをやっているのさ。弟の足を少しでも早く治すために

ザート

そんな経緯が……!

ザート

しかし、旦那様が負担するという話は出なかったのでしょうか?

ナルシス・エーデルシュタイン

もちろん出たさ。寧ろ私が提案したくらいだ。実際、エーデルシュタイン家の財力を駆使すれば不可能ではない

ナルシス・エーデルシュタイン

だが、それには膨大な金が動く。財力と権力が密接に関わっている今の貴族社会では、下手な出費が命取りになる。クリエもそれを感じていたのだろうな

ザート

クリエ様……

ナルシス・エーデルシュタイン

それに、クリエが昔から頑固なのは、お前も知っているだろう?

ザート

ははは……それもそうですね

ナルシス・エーデルシュタイン

そして、おそらくクリエは私の心臓の病気をも治そうとしている

ナルシス・エーデルシュタイン

余命半年と言われた私のために、あの娘は危険を冒して宝石を盗もうとしているのだ

ナルシス・エーデルシュタイン

彼女自身も、肺に病を抱えているというのに…………

3ct  ナルシス・エーデルシュタイン

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