ごめんくださーい
はぁーい
あら、クリエ様
こんにちは、ザートさん
びっくりしたぁ~。ご連絡をもらえれば迎えに参りましたのに
それは困るっていつも言ってるじゃない……
冗談ですよ。ところで、旦那様に御用ですか?
うん。用ってほどじゃないけど、ちょっと顔見たいなって
親孝行ですね~クリエ様は。アスター様なんて一度も会いにいらっしゃらないのに
…………
し、失礼しましたっ!
旦那様は自室でお休みになられてます。ご案内いたしますね
…………ふぅ
旦那様~、クリエ様がお見えになりました~
クリエが?通してくれ
お父さま……こんにちは
ああ、こんにちは、クリエ
体の調子はどう?
君に心配されるほど弱ってはいないさ。この通り自分の足で立てる
……そう
……ザート、紅茶を持ってきてくれないか
は、はいっ。ただいま!
…………行ったか
さて、クリエ。私が何を話したいか分かるか?
……怪盗のこと?
そのとおりだ、怪盗シャムロックよ
ピルツ・シュランムの家に入ったことは既に私の耳にも入ってきている。また盛大に穴をあけたそうじゃないか
……褒められてる?
もうちょっと静かに盗めんのかと言っているんだ。ただでさえ貴族の家から宝石を拝借するだけでも話題をさらうのに、あんな轟音出しながら盗んでは怪盗じゃなくて強盗だろう?
怪盗の方がかわいいもん
……何を基準に言っているんだ?
それで、今回はどうだったんだ?
……ダメだった
そうだろうと思った。ピルツ伯爵は金遣いが荒くて以前家宝と言われていた瓶を独断で売り払って豪遊して、後になって職人に全く同じ偽物を作らせたらしいからな。金になりそうな物はすべて売った後だろうさ
そのくせ、器が小さくて自分の代で伯爵にまで身分を落としたことに気づいてもいない。そんな小物が純性宝石など持っているはずがないからな
……お父さん、その伯爵のこと、嫌いなの?
い、いや、別にそういうのはないさ
とにかく、無理はするなよ。君だってあまり丈夫な体ではないのだから
アスターと同じこと言ってる……
何か言ったか?
ううん。何でもない
……不思議な子だな
じゃあね、お父さん
もう行くのか?たまには夕食を一緒にどうかと思ったんだが
ごめんなさい、今から先生のところに行かないとだから
そうか。時間があったら寄りなさい。ザートに何か作らせよう
分かった。じゃあね
…………うっ!!
だ、旦那様!?大丈夫ですか!?
……大丈夫だ
とてもそうには見えませんでしたよ!今日はもう休まれてはいかがですか?
バカを言うな。明朝までに仕上げねばならない書類が山ほどあるのだぞ
それに、あの娘の元気な姿を見れたのだ。私がここで音をあげるわけにはいかないだろう
……そのことなのですが
失礼ながら、何故旦那様はクリエ様の窃盗行為を見逃しておくのですか?
…………
私にはクリエ様が怪盗シャムロックとなった経緯は分かりませんが、それでも、窃盗行為が許されることではないと思います。それに、万が一にもバレたらエーデルシュタイン家に大きな傷が……
「家族のため」と言われたんだ。止めようがないだろう
家族の……?
クリエが宝石を盗むのは、弟であるアスターの手術代を得るためだ。今の医療技術は発展を重ねてきている。足が弱いアスターが自分の足で立てるようにすることも不可能ではない
だが、手術はとてつもない額の金がかかる。それこそ、加工宝石がダースで買えるくらいにはな
だから、あの娘は怪盗シャムロックをやっているのさ。弟の足を少しでも早く治すために
そんな経緯が……!
しかし、旦那様が負担するという話は出なかったのでしょうか?
もちろん出たさ。寧ろ私が提案したくらいだ。実際、エーデルシュタイン家の財力を駆使すれば不可能ではない
だが、それには膨大な金が動く。財力と権力が密接に関わっている今の貴族社会では、下手な出費が命取りになる。クリエもそれを感じていたのだろうな
クリエ様……
それに、クリエが昔から頑固なのは、お前も知っているだろう?
ははは……それもそうですね
そして、おそらくクリエは私の心臓の病気をも治そうとしている
余命半年と言われた私のために、あの娘は危険を冒して宝石を盗もうとしているのだ
彼女自身も、肺に病を抱えているというのに…………