神裂 優斗

 姉ちゃんに言われるがまま、道場に来たものの、俺と戦わせるなんて何考えてんだよ……。

 俺は、家の裏にある道場で一人、姉と希の準備を待っていた。

 道場で待っていると、胴衣に着替えた姉と、姉のお下がりの胴衣を着た希が、道場の中に入ってきた。

神裂 火憐

 お待たせー。

 胴衣に着替えた姉を見るのは久しぶりだった。

 姉は、魔導学園の特別戦闘教官に就く前、国家魔導機関《魔剣騎士(ブレイドナイト)》のトップチームに居た。

 しかし、ある一件以来、武器を手に戦うことをやめていた。

 その一件は俺もよく知らないが、俺がまだ小学生に入る前、家族ぐるみで仲の良かった村裂一家と何か関係しているらしい。

 そして、その一件以来どんな依頼でも断らなかった姉が、すべての依頼を断り、《魔剣騎士(ブレイドナイト)》を自ら辞め、家から一歩たりとも出なくなった。

 そして、月日が流れたあるとき、学園長からの直々な依頼ということもあり、魔導学園の特別戦闘教官の仕事を始めた。しかし、この道場には、一歩たりとも足を踏み入れようとしなかった。

神裂 優斗

 姉ちゃんの胴衣姿、久しぶりに見たよ。

神裂 火憐

 そうだねー。

 でも、さっき希と模擬戦をしていたから、私はやらないわよ?

 優君との模擬戦は、また今度ね。

神裂 優斗

 え? それってどういう……。

 どう言うことと、言おうとしたが、姉はすぐに外にいる希を呼んだ。

神裂 火憐

 入っておいでー。

 扉をあけて、入ってきたのは、姉のお下がりの服を着た希だった。

神裂 優斗

 どこかで会ってないか?

 希の胴衣姿に、見覚えがあった俺は、少し考えてみるが、昔の記憶過ぎて思い出せない。

神裂 希

 そんな訳ないじゃないですか。

 さっき学校で会ったのが初対面ですよ?

 笑顔で言ってくる希だが、その笑顔はどこか乾いた笑顔だった。

神裂 火憐

 じゃあ、模擬戦はじめよっか。

 審判は私、神裂火憐。

 ルールは学園の模擬戦と同じよ。

 でも、実戦形式で戦うこと。

 そして、お互いに全力で勝負すること。

神裂 希

 はい。

神裂 優斗

 オーケー!

 俺と希はデバイスに手をかける。

神裂 火憐

 あと、もう一つ。

 姉がそう言って、俺に近寄ってきた。

神裂 火憐

 優君。これは忠告だからよく聴くのよ。

 姉が、真面目なトーンで言ってきた。

神裂 優斗

 な、何だよ。

 俺は、姉ちゃんの真面目なトーンの言葉に少し不安を感じた。

 それは、姉ちゃんが真面目なトーンで言うときは、相手が強いか、動物を拾ってきて飼いたいと頼んでくるときだけだからだ。

 今回は前者の方だろう。しかし、姉ちゃんにそこまで言わせる奴が、まだ学園以外に居たとは。さすがに、もう居ないと思っていただけに、この試合に緊張感が出てきた。

神裂 火憐

 最初から本気でいきなさい。

 耳元で囁かれたその言葉は、俺の考えを余裕で超えていた。

 なぜなら、俺の本気はこの学年のトップであることを意味するからである。

 それを知らない姉ではない。つまり、希はそれほど強いレベルということだ。

神裂 優斗

 わかった。

 俺は小さく頷き、希をまっすぐ見つめる。

 一方、希は不安そうにこちらを見ている。

 すると、今度は姉が希の方によっていき、希に何かを言った。

 しかし、その声は俺には聞こえなかった。

神裂 火憐

 じゃあ、準備はいい?

神裂 優斗

 いいぜ!

神裂 希

 わかりました。

 沈黙が道場を包む。

神裂 火憐

 はじめ!

 合図とともに、俺はデバイスを形成。

 簡易デバイスなら即座に武器の具現化が可能。

 だから、相手のデバイスがわからない内は、簡易デバイスで戦うのが基本だ。

 ここで時間のかかる練成を使うのは、素人がやることだ。

神裂 優斗

 速攻なら、俺の右に出る奴はいな……。

神裂 優斗

 え……。

 俺が前に出かけた瞬間、俺は、自分の目に移った光景に、言葉が出てこなかった。

 俺の眼前に映ったのは、完全状態で練成された希のデバイスだった。

第十話:《希の実力1》

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