第八話 古き洋館の息遣い・前編
第八話 古き洋館の息遣い・前編
――キルケー魔法女学園 教室棟 黒組教室――
初の学外研修ということでみなさん浮き足だってしまうのはわかりますが
お願いですから!
絶対に!
何があったとしても!!
……勝手な行動をしたり、騒いだりはしないでくださいね。
本当に……お願いですから……
教室に生徒たちの『はぁ~い』という返事が響く。
その気の抜けた調子にますます不安が募ったのか、
終わったはずのアンの説明はその後も長々と続くことになった。
とはいえ時間には限りがあるもので、
時を報せる鐘の音を聞き、アンは後ろ髪を引かれながら教室を去って行く。
そして。
やったー!! 学外研修だよ学外研修!
楽しみだなー、泊まる所どんなとこなのかなー。
ねえ着いたら探検しようよ、探検!
予想通りに浮き足立ったサニーの声が教室に響く。
……アン先生が散々釘を刺す気持ちもわかりますね
あれだけ言ったのに早速これだからな
でも自由時間に見て回る分にはいいんじゃないの~?
ヴェロニカもどんなとこに泊まるのか気になる~
洋館だって言ってたもんね。
わたしたちの学年全員が泊まれるような洋館って、すごく立派なんじゃない……?
自由時間なんてほとんどありませんわよ。
時間通りに動いて、課題をして、夕食をすませたらすぐ消灯ですわ。
ですから単独行動は控えてくださいね、サリー?
……なんでアタシにだけ言うの
前例からですわ
でも楽しみなことに変わりはありませんね。
里帰りでもないのに学園の外に出ることなんて滅多にありませんから
そうだよね……。みんなと一緒に学園の外に行けるなんて、嬉しいな
でしょ!?
楽しみだなー、ほんと楽しみー
サリーが楽しみだと言えば言うほど不安になるのはなぜだろうか
前例からですわね
――キルケー魔法女学園 研修施設 広間――
その予感通りと言えばいいのか。
アン先生の先導でたどり着いた学外研修用の施設に入るなり、サニーたち黒組の生徒たちはぽかんと大きく口を開けて立ち尽くしていた。
ではここでひとまず解散です。
事前に渡した図で部屋の場所は確認できると思いますが、万一わからなかったら聞いてください。
そして部屋に荷物を置いたらもう一度ここに集合です
はい、アン先生
……どうしました、サニー・ウィッチ?
ホントにここに泊まるんですか
もちろんです。質問は後で受け付けますから、とりあえず荷物を置いてきましょうね
電気とか使えるんですか
ちゃんと使えますよ
いきなり天井が崩れてきたりしませんか
そんなことがあるわけないでしょう
ゾンビとか出てきたりしませんか
……あの、サニー・ウィッチ。これでもここは学園の施設ですからね?
宿泊できる設備はありますし、安全なのは間違いありません
だってボロボロすぎるじゃん……
どう考えても
そう見えるだけですよ
説得力がない!
わかってますけど!!
とにかく荷物を置いてきてください。
大丈夫、すぐに慣れますよ