俺は、彼女を抱きしめた。
知らなかった。こんなに、こんなに細くて小さいなんて。抱きしめると、おれてしまいそうだ。
俺の腕の中で、サンザシが少しだけ、動いた。
俺は、彼女を抱きしめた。
知らなかった。こんなに、こんなに細くて小さいなんて。抱きしめると、おれてしまいそうだ。
俺の腕の中で、サンザシが少しだけ、動いた。
サンザシ!
……タカシ、様……?
違う、サンザシ、違うんだ。
思い出したんだ
サンザシが、え、とかすれた声を出した。
全てを……! 俺の名前を……どうか……
……コリウス様
くしゃりと、サンザシの顔が歪む。
本当、ですか
ああ……サンザシ、サンザシ……!
何度も、何度も、名前を呼びあった。
いつのまにか、声は涙に濡れていた。
サンザシ、ごめん……俺は、君を忘れていた。許してくれ、許してくれ……!
いいんです、コリウス様。
もう一度、名前を呼んでいただけただけで……私は、十分でした。
夢のようです……コリウス様
サンザシ……俺は、なにもできなかったのに
何を、おっしゃいますか
サンザシが、俺を、弱々しく抱きしめた。その弱さに、ますます涙が流れ落ちる。
私に、愛と幸せを、教えてくださったんですよ
……サンザシ
言葉になど、できなかった。
ただ、ただ、彼女のことを。
愛している、サンザシ
私もです、コリウス様……もう、十分ですね
胸の中のサンザシが、俺を押し返した。
じっと、俺の目を見つめてくる。
どうして。
どうして。
どうして、サンザシ
さようならを、しなくてはなりません。
私は、コリウス様との時間と、そのあとの旅で、幸せをたくさんいただきました。
もう、十分です
そんな、サンザシ……俺は
コリウス様も
サンザシは、どうしてこんなにきれいに微笑むのだろう。
どうしてこんなに美しく、強く、全てを受け入れられるのだろう。
幸せでしたでしょう?
……ああ。幸せだった。サンザシ
俺は、笑えているだろうか。
信じてくれ。
俺は、タカシのときも、君に恋をした
サンザシが、あ、と小さく声を漏らして、表情を崩した。
俺の腕の中で、震えながら、泣いている。
そんな……ずるいです。そんなに、幸せなことって
ああ、よかった。
サンザシが、強がらずに、泣いてくれている。
こんな幸せなことは、ないのだろう。
ありがとう、サンザシ。
すぐに、そちらに行くから
だめです、魔王様は、たくさんんことを知らなくてはなりません
サンザシが、小さな手を、俺の頬にそわせる。
俺は、なにも言わずに、そっと彼女に口づけた。
何度も、何度も。
愛している、サンザシ
サンザシは、こくりとひとつうなずいて、俺の首に手を回した。
私もです。愛しています。
コリウス・スエルテ様……愛しい人。
また、お会いしましょう。
それまで、さようなら
そして、音もなく、彼女は消えた。
最後の物語は、終了した。
猿魚様>コメントありがとうございます! 嬉しいお言葉です……! どうなるのか、どうぞお楽しみに……!