うん、そう、君。

君は絵本作家なんだろう?

……はい、そうです。

そうです……もちろん、自分を、愛してほしいです……自分も大切にしてほしい、タカシ君に……でも、サンザシちゃんが死んでしまうのは……悲しい

うん、そうだよね。ありがとう、その言葉を聞きたかった。

ごめんね、今までかやの外で

 セイさんは声を落とした。

コリウス君。先ほどの案はのめない。

当たり前だ。だけど、僕は言ったよね? 

君に、サンザシちゃんの命はかかってるって

……ええ、でも、俺の命との交換は

あ、そういうことだと思ってたのね? 

だめだめだめ。条件があるんだ、コリウス君。

君にはあとひとつ、物語を救ってもらわなければならない

……あと、ひとつ?

そう。言ったろ? 

登場人物を集めた先々に、他の物語が散ってしまった。

トウコとエン達の世界には桃太郎が、ジャスミンとオルキデアの世界には親指姫が、というように……それは、君たちも例外ではなかった

俺と、サンザシ……?

そうだよ、君たちの旅もまた、ひとつの物語の筋道に沿っていた……かなり歪んでいるけどね。

ヒントをあげよう。
その物語の登場人物は、二人だけ。

あと、動物も出てくる。旅物語ではない

 セイさんが歯を見せて笑った。

分かるかな?

 俺の脳内は混乱していた。
 まさか、二人の旅全体に関わっている、物語があるなんて。


 思い出せ。思い出せ。
 考えろ。考えろ。


 サンザシと旅した日々を? 順をおって考えに考え、恐らくそれは関係がない、という結論が出る。


 俺たちの物語が旅物語でないのなら、あの旅全体にヒントが隠されている可能性は低い。そもそも、行く先行く先は、他の物語のヒントでいっぱいいっぱいだったのだ。


 もっと、もっと遠くから全体を見渡す必要がある。


 設定だ、登場人物の……俺たちの、初期からの、設定。

俺は、記憶をなくしていた。サンザシは、記憶があるままだった

 おそらく、これが鍵なのだ。

俺は彼女のことを知らないまま、彼女と一緒にいた。


彼女は、俺のことを知っているまま、正体を隠して、俺の側にいた。

黙って、ただ、俺を助けてくれた

 ただ、自分の考えを言葉にしてまとめているだけだった。

 しかし、それを聞いたセイさんは、なんだあ、と相変わらずの能天気な声を出す。

もう答えは出てるじゃない。相変わらず鋭いからなあ。君って賢いよね

 セイさんのヒントに、俺は戸惑う。今のが、答え?

どこが答えなんだ……?

 考えろ、考えろ、考えろ。



 自分のことは、情報が少なすぎる。記憶がないまま、サンザシと旅をして、必死に物語を修復して、記憶を戻して、今に至る。それだけ。

 考えるべきはサンザシだ。

8 記憶の深淵 君との大罪(5)

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